季節と恋の梅雨前線、静寂に過ぎさることもなく
宮島政哉は恐れていた。ある事実に。それを妹の美佳に知られることに。
本当の意味での兄妹ではないということを。
そして宮島美佳は隠していた。ある事実を。それを兄の政哉に知られることを。
兄に対して兄妹を超えた恋心を抱いていることを。
☆
怒号の禁止令が解除されてから一か月が経った。6月に入ったことで梅雨入りし、その日も朝から雨が降っていた。ここ数日の中でも一段と強い大雨であり、いよいよ本格的な梅雨が訪れようとしていた。
宮島政哉は休日だったことに加え前日かなり遅くまで起きていたこともあり、中々布団の中から出ることができずにいた。まだ寝ていようか、と政哉が思っていると、部屋の扉が勢いよく開けられ、妹の美佳が入ってきた。
「お兄ちゃ~ん、もう朝だよ!」
美佳はそう言うと、政哉の掛布団を強引に奪った。こたつの中の猫のような姿の政哉は、無理やり起こされる形となった。
「うう…、美佳ぁ、今日は休日だろぉ…」
「でももう9時だよ!起きて起きて!生活バランスは崩しちゃダメ!」
正論である。政哉はしぶしぶながらも起き上がり、ダイニングキッチンへと向かった。
テーブルにはすでに朝食が用意されていた。焼いてマーガリンが塗られた食パンと、ゆで卵が置かれていた。二人分残っていた辺り、美佳は政哉が起きるまで待っていたようである。
「毎朝すまないなあ。でも、冷めちゃうから先に食べてよかったのに。お腹空いてるだろ」
政哉は申し訳なさからついそう言ってしまったが、
「お兄ちゃんと一緒に食べたかったから…、ダメだった…?」
という美佳の返答に気恥ずかしさやら嬉しさやら色々感じて、結局顔を背けるしかなかった。
☆
宮島美佳はその変化を見逃さなかった。兄政哉の顔色が一段と悪いことに。これまで見たこともない兄の変化に、美佳は困惑を隠せなかった。最初は料理が美味しくないのかと不安になったが、自分が食べている限りそんなこともない。では何があったのだろうか。疑問に思い、目の前の兄に聞いてみた。
「お兄ちゃん、顔色悪いよ?何かあった?」
すると政哉は分かりやすく顔を顰めた。バレたか、とでも言うような表情。しかしすぐ表情を整えて、
「昨日、友達との通話が盛り上がって夜中まで起きてたからなぁ。それのせいかな」
「…そっか」
兄が誤魔化していることぐらいすぐ分かった。何年も2人きりで過ごしてきた仲なのだ。見抜けない訳が無かった。
兄はこの後出掛けるらしいから、その時少し兄の部屋を見て見よう、と思っていた。
☆
宮島政哉は、妹の納得がいかないような…勿論表面上は納得したように頷いているが…表情を見て固まった。遂に恐れていた事態が起きているのか。そう思った。
本当なら一日中家にいて妹の様子を見たいところだったが、今日は砂川百合奈、佐野雄輝らと共に安濃香保の家で勉強会を予定していた。だから、大丈夫だろうと思うことにして家を留守にすることに決めていた。
雨は落ち着いてきていたが、晴れる様子も無い。