亀裂走る裏で暗躍する影
一体、どういうことだ。驚きで、口をパクパクさせることしか出来なかった。
「ど、どういうことだよ!説明、説明!」
先に口を開いたのは、意外なことに雄輝だった。詳細の説明を室長・山江敬人に求める。
「それが…」
敬人が言おうとした、その時。
渦中にいる百合奈が来た。全員の視線が一直線に同じ方向を向く。一斉に見つめられ若干怯えた表情を見せた百合奈だったが、間もなく深呼吸をすると、一言。
「…さよなら」
そう言うと廊下を走り去ってしまった。ほとんどの生徒がポカーンと口を開けていた。俺もまた、そうするしかなかった。無言の時間が過ぎていく。
沈黙を破ったのは、敬人だった。
「…説明するぞ」
それが合図であったかのように全員が敬人に視線を向ける。
「俺が学校に来て職員室の近くを通った時だ。偶然聞こえたんだよ。砂川さんが、南条先生に退学したいって言ってるのを」
南条先生と言うのは、このクラスの担任の女の先生だ。非常勤でも無いのにずっと同じ学年を持っていて、不思議がられている。個人的見解ではあるけど、飴と鞭を巧妙に使い分けることが出来る人だ。
「南条先生も止めようとしてたみたいなんだ。これからの展望とかしつこく聞いて、なんとか思いとどまらせようとしていたみたいだった。けど、結局最後は本当に良いんですね?って聞いてたから、これはヤバいと思って慌てて言いに来たんだ」
…まさか。俺が原因だろうか。俺に本心をぶちまけたから、合わせる顔が無いのではないか。或いは、俺にそのことを公開されると思ったのだろうか。
「やっぱり俺は…」
どうしようもないクズだ、と自認した。
☆
どうしよう、と思った。何故こんなことをしたんだろう。
百合奈は誰もいない廊下にいた。移動教室へ繋がる場所だから、普段はほぼ人のいない場所だ。
百合奈は後悔していた。南条先生にあんなことを言ったのを。
南条先生に言った時は、それで良いと思っていた。何故なら、それが自分と彼にとって良いことだと思ったからだ。だが、
「政哉…」
いざ彼を見た時、全てを後悔した。理由はわからないが、彼と会えなくなるという事を自覚した瞬間、途方もない絶望感に包まれたのだ。思わず逃げ出してしまった。何故だろうか。百合奈は分からなかった。
「うう…」
百合奈は泣いていた。何故泣いているのか自分で理解していなかった。何故心臓がさっきからバクバクするのだろうか。これは一体…。
「何をしているの」
「ひゃ!?」
思わず変な声を出して、慌てて声のした方を向くと、南条先生がいた。
「…だから言ったでしょ。後悔するって」
百合奈は何も言えなかった。
「退学は取り消し。と言うか、書類の準備してなかったけど。取り敢えず
宮島に謝って来なさい」
「…え?」
百合奈は困惑していた。何故そんなことを…。
「…砂川、この学校だって監視カメラくらい付いてるわよ。宮島に打ち上げてたところ、バッチリ映ってたわ。まあ、私が見た後消したけど」
先生は、気づいていたんだ。だから、後悔すると警告していた。
「行きなさい。貴方が立ち直る最後のチャンスよ」
私は立ち上がって、先生に言った。
「私は…