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機人転生 ―機械の身体で魔法世界を生き……たくないよ!? 肉体返して!―  作者: 島米一尺
魔法も科学も関係ない。どっちもよくわかんないから。
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no.074 鋼の転校生

 


 除染を終え、余計に騒がしくなるのが目に見えているのでメニカ達の了承を取ってから通信は切り、リヴィアは検疫所で待機していたティアに預かってもらっている。そうして指定の制服に身を包み、きちんとフェイスカバーを被り、コウタは教壇に立っていた。



「メカーナから来た、……ダイスケ・セリザワです。怪獣みたいなやつと友達です。身体の事情で全身サイボーグなので魔法は使えませんが、勉強は精一杯します。よろしくお願いします」



 軽い挨拶とともにお辞儀をすると、まばらな拍手が教室内に響く。メカーナからの留学生は珍しいそうだが、それによる警戒を差し引いても歓迎されているとは思えない。

 なにせのっけから全身サイボーグだ。トンデモ発言でアイスブレイクしてくれそうなメニカは居ないため、この状況は自分で打破する必要がある。



「……」



 今回の転入学において、コウタは幾度目かになる偽名を使っていた。だが、今回はそうする必要があった。素性については名前を含めてほとんど伏せることにしたためだ。

 勇者就任の件はまだ公表されていないが、超情報社会において、先の神器争奪戦のことはそうそう隠し通せるものでもない。既にコウタの面は割れているし、『墮者を退けたアストの救世主、謎の黒いオートロイド、キガミ・コータの正体は!? 新たな勇者の誕生なるか!?』というタイトルで報道特集が組まれてすらいた。



「セリザワ君に質問がある人は?」



 担任教師の質問に、教室中からぽつぽつと手が上がる。20人ほどいる教室内の男女比は半々といったところで、手を挙げている者の比率もそれに倣っている。コウタは教師の指示と渡された席表に従って、名前を呼んで彼らを当ててゆく。



「サイボーグって、どの辺がサイボーグなの?」

「僕の場合は顔以外の全身かな。服の下も機械だよ」



 制服の上着と中シャツを軽くはだけさせ、コウタは自身の胸部をあらわにする。鈍黒く光る金属と、中心から漏れ出る青い光は、明らかに生物のそれではないことを教室中の皆に理解させた。



「手とか目とかからビーム出せんのか?」

「専用のマシンと接続すれば出せる……ってそれはだいたいみんなそうか。ただちょっと生身より強いだけかな」



 時速500キロで走れることも、ほとんど無敵なことも、バリアが出せることも言うわけにはいかない。それはこの世界においてはかなり非常識よりな強さをしているからだ。そんなものを発揮してしまえば、件のキガミ・コウタとセリザワ・ダイスケが結びついてしまう。だから擬態するしかない。



「なんで魔法が使えないんだ?」

「よくわかんないけど、サイボーグで魔力がないかららしい?」



 これに関しては事実だ。コウタに魔力はなく、扱えない。



「男? 女?」

「元々は男だよ。今も自認は男。身体は……男っぽいよね?」



 大事なアレがないことは伏せながら、胸筋にあたる部分を見せつつ、力こぶを作るかのようなポーズを取る。



「恋人は?」

「残念ながら居ないんだよね。彼女募集中でーす、なんて」



 メカーナなら大ウケだったろうが、ここでは違うようだ。黄色い歓声、と言うよりは乾いた笑いが少しだけ聞こえた。



「推し勇者は?」

「推し? うーん、ユーリ……サンダースか、シェリー? って子と、あとマリア・グレイスかな」



 コウタは知り合いの名を挙げただけだが、なぜか今日イチで教室内のざわめきが大きくなった。



「はい! みんなザワつくのはわかるけど静かにね! そろそろ一時間目だから、セリザワくんは廊下側後ろの席、レナードくんの隣に座ってね」



 案内されるまま、指示された席へと向かう。 「レナードくん」の席には黒髪の男子が座っており、少し仏頂面でコウタを見つめていた。



「えーと、レナードくん。よろしく」

「……レナードでいい。よろしく」



 軽く挨拶を交わし、コウタが席に着くとほぼ同時、一時間目の担当教師が教室に入ってきた。

 一時間目は早速といえば早速、魔術の授業だ。



「――魔力反応、つまり魔法には大別すると四つの魔導現象しかない。運動、分裂または結合、そして変換。例えば熱反応の燃焼魔法ならば、空気中の分子を運動させ熱を持たせ、水分を分解して水素にし、やがて発火する。魔導的にはこのプロセスで行われている。なお、変換は臨界魔法でのみ確認されている。つまり通常魔法では運動、結合、分裂の三つのみ作用し、魔導臨界状態になるとそこに変換が加わる」



 変換とはつまり、臨界魔力というプラズマを別のプラズマ形態に変容させることを指す。スレンヒルデは臨界魔力を炎に変換することで莫大な火力を実現した。



「ここまででなにか質問はあるか? ……そうだな、転入生。なにか質問はあるか?」



 魔術教師のウィック・ドナルドはそう言って、コウタを指さす。メカーナからの転入生ということもあり、その存在は教師陣からも注目を集めていた。



「えーと、力学魔法? はなにが作用してるんですか?」

「いい質問だ。力学魔法は運動のみ作用する。また、こういった単一の反応のみの魔法を単純魔法、二つ以上の反応を合わせた魔法を複合魔法と呼ぶ。単純魔法の方が複合魔法より習得しやすい……なんてことはなく、むしろ力学魔法は他の運動に干渉する必要があり、その分の計算が複雑になる傾向にある」



 自身が戦った力学魔法の使い手を思い返すなどしていると、やがて授業終了を告げるチャイムが鳴った。



「と、今日はここまで。次回は小テストだからそのつもりで準備しておくように」



 そう言って、ウィックはそそくさと教室から出ていった。



「テストか……。下手な点とったらあの二人に何言われるか……」

「あの二人?」



 コウタは独り言のつもりだったが、聞いていたらしいレナードがそう尋ねた。



「あ、メカーナに置いてきた僕のメカニックのことでね。後で来るらしいけど、低い点なんて取ろうものならめちゃくちゃ煽られちゃうかも」

「なるほど。それは災難だな。まぁ予習さえしてれば難度はそこまで高くないから安心していい」

「へぇ。わかんないとこあったら聞くね」

「俺でよければなんでもどうぞ」



 そんなふうにレナードと他愛のない雑談をしたり、時折来る質問者に回答したりしていると、男子が幾人かコウタの元にやってきた。



「転校生。新参の意見を聞きたい」

「いいけど、何の?」

「どの勇者が最強かを決める議論だ」

「……随分楽しそうなことしてるね」



 この最強勇者論争は古今東西、様々な国々で行われている。無人島に何持っていく、と似た類の話題だ。

 コウタは少し思案して、知っている勇者の名を思い浮かべる。戦闘力を目の当たりにしたのはユーリとマリアのみだが、リヴァイアさんに色々と聞かされたおかげである程度は知っている。

 


「えーと、アーサー? って人」



 リヴァイアさんをして化け物と言わしめる人ならば最強の名に相応しいだろうと、何の気なしに挙げたコウタだったが、彼らは分かりやすくはぁとため息をついた。隣で聞いていたレナードですらやれやれと呆れるような仕草を見せる始末だ。



「おいおい、【世界を救った大英雄】は殿堂入りってのはどの国でも共通認識だろ?」

「生き物と災害を比べちゃいけないよね」

「欲しい物に時間って答えるくらい中身のない回答だよ」



 辛辣な答えが返ってきた。



「だめなのか。じゃあシェリーって子は?」

「いや、【魔女姫】も殿堂入りだってば。まぁこっちは勇者になって日が浅いから仕方ないっちゃ仕方ないけど」

「徒歩とジェット機で勝負になるわけないよね」

「欲しい物にお金って答えるくらい夢のない回答だよ」



 リヴァイアさんをして命の危機を感じさせたシェリーの名を上げてみたが、どうやらこれもダメらしい。



「うーん、じゃあ……ユーリは?」

「……ほう。この魔法の学び舎に於いて、そいつの名を挙げるとはな。中々の通だな」

「魔力VS電力。これをいきなり持ってくるとはね」

「殿堂入り知らずとは思えない渋い回答だよ」

「随分と好感触だ。じゃあ、みんなの思う最強の勇者は誰なの?」



 勇者の一覧は前にアミスが見せてくれたし、リヴァイアさんの解説も受けたが、正直あまりピンと来ていない。確かハークの奥方がそうだったのは記憶にあるが。



「【轟鎚の勇者】サラ・ベンジャーだな。ユーリ・サンダースに【雷】の冠こそ譲ったが、彼の師でもある彼女は外せないだろう」

「【紡の勇者】ニコも捨てがたい。収監されちゃったけど、国家を転覆させたその手腕は見事だよ」

「【侍の勇者】のミヤモト氏かな。神器を二振りも使うのは凄いことだよ。あとこれは候補止まりだけど、全盛期のハーク・ベンジャーも気になるね」

「噂じゃ先日アストで堕者と一戦交えたらしいぞ。んで、新勇者の師匠だとか」

「新勇者か……【黒鋼】だっけ? 【豊穣】の支援ありきとはいえ堕者を打ち倒したのは素直に拍手だよ」

「所詮サイボーグって意見も否定できないけどね」



 矢継ぎ早に紡がれる言葉により議論が交わされるが、コウタはそれを全て聞き取っていた。こんなもの、メニカやアミスのメカ解説に比べれば字幕付きに等しいとさえ感じてすらいた。



「転校生は【黒鋼】についてどう思う? 同じメカーナ出身のサイボーグなだけあって、思うところあるんじゃないか?」

「えーっとぉ……うーん……彼は……うーん?」

「彼? 性別判明してたっけ?」



 ひとりが放ったその一言に、コウタは内心ドキリとさせられる。

 迂闊な発言と言うには些か細かすぎるが、口にチャックだといっそう気を引き締めて、若干どもりつつ、なんとか当たり障りのない答えを紡ぎ出す。



「み、見た目は男性型だよ」

「そっか。たしかに胸とかないもんな」



 胸の過多で雌雄が決まってしまうならケイトは……と大変失礼なことを思い浮かべつつ、なんとか当たり障りのない言葉でそれっぽい意見を作り上げる。



「メカーナの人、サイボーグ……ってことは追加武装とかで色々な局面に対応できそう……かな? 勇者ともなるとワンオフで出力制限を取っ払った兵器とかも使えそうだし」

「おお……確かに。さすがメカの本場の人の意見だ」

「勇者はだいたい神器を使うものと認識があるからね」

「噂によると、最後の一撃はアストにあった神器を使ってたらしいけど……適性があったのか?」



 コウタの意見がカンフル剤となったようで、更に議論が白熱してゆく。議論にはいつの間にかレナードも参加している。


 休み時間はもう少しあるが、そろそろ次の授業の用意をした方がいいんじゃないかな、と思った頃。



『セリザワくん。セリザワ・ダイスケくん。学長室まで来てください』



 そんな校内放送が鳴り響いた。


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