no.059 もう一人の僕……じゃないなら誰だお前えらそうに
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スレンヒルデとマリアのリベンジマッチが始まった頃。
『おおコウタよ! 死んでしまうとは情けない!』
コウタは謎の男に自身の死を告げられていた。
声からして恐らく10代後半から20代前半あたりの青年で、これはわざとらしい演技なのがよくわかるほど、とても誠実そうな声音をしていた。
だが、コウタはなんの反応も見せなかった。
怪しいのもそうだが、なによりも、その姿にもの凄く見覚えがあったからだ。
『……』
別に親の顔をしているだとか、最も仲のいい友達だったとか、居もしなかったが恋人の姿をしていたとか、そういうのではない。もっと単純で、もっとも身近で、しかしあまり見ることは無い姿――というか。
コウタの――騎上晃太の姿そのものだった。
――胡散臭いのと自分の姿をしているのは理解不能なので置いておくとして、この光景に見覚えがある。この身体になる直前の夢だ。
それに生返事をした結果、肉体は失うわ、人権は失うわ、尊厳も失った上、ついでとばかりに平穏も失って、ついさっきまで何故か世界を滅ぼせる強敵と戦ってしまう羽目になった。
つまり、そのコウタの姿をした謎の存在はアミスのような奇人の可能性が高い結論づけるのに、1秒すらも必要なかった。
『……』
『もしかして無視してる?』
『Zzz……』
『嘘つけ起きてるだろ! てかお前の状態はこっちにも共有されてるから!』
『ちっ……誰ですか? 趣味の悪い格好して』
狸寝入りは無駄だという忠告にしぶしぶ反応してやるコウタだが、警戒は解かない。無理もない。自分の姿を真似られているのもそうだし、前例がアレすぎるからだ。
『そうだな、俺はもう一人のお前だ、と言ったらどうする?』
『ダウト』
どこかありがちな展開をコウタはすぐさまそれを否定した。
今までの人生で『もう一人の僕』なんてものの気配は欠片も感じなかったし、そもそも現実はそんなに都合のいいものではないと考えているからだ。
だからこれも、どこかの誰かの戯れに過ぎないと断定した。
『疑う気持ちはわかるが、もう少し人を信じたらどうだ?』
『死ぬまで出てこなかった役立たずを?』
『よし、俺の負けだ』
コウタの容赦のない切り返しに早々に降参するコウタ(?)。
姿こそ自分の姿だが、声も仕草も自身のものとは全く異なる。強烈な違和感に苛まれながら、コウタは諸手を挙げて降参した彼に続きを促す。
『ともかく安心しろ。お前はまだ死んでないし、俺は最低でもお前の相棒の知り合いだ』
『アミスさんの知り合い? じゃあろくでもない奴じゃん』
『ひどい言われようだな……』
しかし彼もどこか思うところはあるのか、別段強く否定はしない。
『それで、元凶の知り合いの役立たずが、無敵の身体を持っても負けまくってる無能に何の用ですか?』
『なんか口悪くないか?』
『負けたばっかりですよ? 当然八つ当たりです』
『自己紹介くらいさせなさい。俺のことは……まぁアルって呼んでくれ』
『アっくんね了解』
『渾名から渾名に派生したのははじめてだ』
やれやれといった様子のアルをよそに、コウタはさらなる質問を容赦なくぶつける。
『で、アル氏? はなんなんですか? 僕の姿してるとこ見ると、まさか本当に僕の深層心理が生み出した……とかじゃないでしょ。仮にそうならもっと出てくる場面ありましたよね。何回死にかけたと思ってるんですか?』
『こういうのには色々事情があるだろう。ほら、お前のレベルが足りてないとか、俺にお前との繋がりがまだなかったとか、こっちで準備ができなかったとか……まぁ単純にタイミングが合わなかっただけだな。この姿も、お前の身体を借りてるだけだ』
――深層心理に働きかけるというなら、イメージしやすい姿でアレコレするのがいいとかそういうのだろうか。
正直自分の身体が勝手に動いて、しもしない仕草をして、出せもしない声音で話しているのは違和感が凄いが。
『……そうだな、お前の強さの根幹を為してるそれの、前の持ち主って言うべきか』
『メタルボディの被害者がもうひとり!?』
『違う。そっちじゃない。それは俺も想定外というか……。ともかくアークだよ』
ぴ、とコウタの胸のあたりに指を指す。
『全然使い方がなっちゃいない。ちゃんと物理勉強したのか?』
『なんかすごいエネルギー源としか認識してないですけど……。あとバリアもアークの機能か……なんで物理?』
『ヒントはE=MC^2だ』
『……えっと、相対性理論?』
――こちらの疑問調に答えることなく、アルは続ける。
それはアミスやメニカのような界隈の人特有の早口ではなく、どこか焦っているように思えた。
『アークはマスターキーだ。何故エネルギーの種類に関係なくそれを奪えるのか、また与えられるのかを考えれば、自ずとわかるだろ』
『……』
――今までそういうものだとして使ってきたが、現実に存在するならば、必ず理にかなった動きをしているはずだ。神器もだ。特定の誰かにしか動かせないということにも、なにか理由がある。
その理を辿れば。
『俺から言えるのはここまでだな。せいぜい守ってやってくれ』
言うべきことは言ったとばかりに店じまいの雰囲気を出すアルだが、コウタはまだ話を聞くつもりでいた。
『もう一声!』
『はぁ?』
『そこをなんとか!』
『ダメだ』
『ケチ! 時代錯誤! ふわふわしたこと言ってはぐらかしてカッコつけてんじゃないよ!』
『こいつムカつくなぁ』
これ以上役に立たないと見るや半ば罵倒で煽り始めるコウタに、アルは若干のイラつきを見せた。
『アミスさんなら余計なことまで教えてくるのに』
『ダメなもんはダメだ』
『ケチ! ボケ! アホ! アミスさんの知り合い!』
『最後のはお前にも刺さるからな』
ブーメランを華麗に突き返し、アルは続ける。
『そろそろアミスが起こしてくれそうだな。掴むまでは俺がしといてやる。あとは自分で頑張れ』
『もう充分頑張ってるんですが……』
『もうひと頑張りってことだ。俺もこっちでやることがある。毎度助けてやれるわけじゃないから、なるべくくたばるな』
アルに背中を押され、コウタは勢いよく浮き上がっていく感覚に襲われる。
『うお……!?』
ぐいぐいと引っ張られるように上に登っていくコウタ。いつの間にかスパークのような光がはるか上で瞬いており、近付くにつれて眩く、拍動が増してゆく。
『アミスを、皆を頼んだぞ。晃太』
――光が迫り、全身を覆う。
皮膚を針でつつかれるような刺激がじんじんと広がり、やがて、光が色を帯び始めた。
『――コウタさん!! よかった! 生き、起きて……!』
「おはよう、ございます。アミスさん」
『半分以上埋まっちゃってますが、動けますか……?』
『……大丈夫です。まだ、やれます』
泣きそうな声音で縋り付くアミスを優しく左手で抱えてやりながら、コウタは右手に堅く握られていたそれを認識した。
明らかに他の有象無象とは違う、物質としての物理的な強度の高さ。そして、主が来るまでは決してその門を開かない堅牢なセキュリティ。
だが。今回ばかりはそのセキュリティは意味をなさない。
マスターキーがあるからだ。
「――【アーク】」
コウタの胸が、今までにないほど眩く、蒼に光り始める。
そして、神器の柄がぐらりと揺れる。
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