no.037 パリィ
よろしくお願いします。
「アミスさん、スレンヒルデのデータは?」
『大した情報はありませんが、ノータイムで撃てる代わりに爆炎の持続時間はそう長くないこと、一定のインターバルを置いてることが挙げられます』
「インターバル……ブラフの可能性も考慮すべきですね」
コウタはシンデレラにされたブラフを思い返していた。
シンデレラをスレンヒルデが従えていた以上、その策も仕込まれていた可能性が高いとみているのだ。
『コウタさんにあの程度の温度は効きませんが、動きが止まっちゃうのがネックですね。ヒートスキン使いますか?』
「焼け石に水だと思うのでやめときます。暑いことに変わりませんし、頑張って耐えます。ほかにエネルギー回してください」
『了解です。隊長さん、片腕ですが行けそうですか?』
「今のところ問題はない。アミスのバックアップ以外はさっきと同じくコウタが前衛、俺が後衛。あとは流れだ」
「了解!」
『了解です!』
コウタは、この場におけるキーマンが自分であるとなんとなく理解していた。
ハークは本調子でなく、アミスはサポートこそ出来るがメインにはなりえない。そもそもスレンヒルデの攻撃に耐えられるのがコウタだけだ。逃げるにしろ時間稼ぎにしろ、盾がないと戦いにすらならない。
「なにやらごちゃごちゃと策を弄しているようですが、私は戦いたいわけではありません。神器とハーク先輩さえこの手にあれば、何もいらないのです」
「力で勝っている相手が状況的にも有利になったら、それこそ僕らの命が危ういんですよね。騙されませんよ」
「……ふふ」
スレンヒルデはコウタのその推理を、肯定も否定もしない。ただにこやかに笑い返しただけだ。
――それがひどく恐ろしく思えて、冷えるはずのない背筋がぞくりとした。
コウタはつい一歩、後ずさる。
スレンヒルデはその隙を逃さない。瞬く間に飛びかかり、神槍をその首元に叩きつけ、切り裂く。
「――っ!」
『コウタさん!』
「大丈夫、行けます!」
首もろともすっ飛ばされそうな勢いで切りつけられたが、コウタはなんとか踏ん張って反撃に転ずる。
「礫脚――」
エネルギーを溜めた右脚を、大きく振りあげる。コウタのこの動作は十分の一秒にも満たない。
しかし、その決して大きくはない隙を、スレンヒルデは容易く狙い穿つ。
「遅い」
襲い来るは音速の槍。
コウタはそれを全力で踏ん張ることで耐える。
しかし、身体は無事でもダメージと激痛は容赦なくやってくる。
激痛に腰が折れそうになるのを、根性でなんとかこらえる。
「ぐぬ……!」
「二度も耐えられたのははじめてです。コナーさん、誇っていいですよ?」
スレンヒルデはそう言いながらも、既に追撃の構えを終えていた。あとコンマ数秒のうち、再びコウタの腹に激痛が襲い掛かるだろう。
コウタはそれが来ると認識出来ても、回避のための反応が出来ない――しかし。
『ブースト/リバース!』
アミスはそれを読んでいた。
音速には反応出来なくとも、あらかじめ一撃食らった際の離脱策を用意しておいた。
スレンヒルデの突きは空を切り、天井に直撃して穴を開けた。
「ぐおばっ!?」
そしてコウタも、加速の勢いを全く殺すことなく、勢い余りすぎて地面にめり込んだ。
「……大丈夫ですか?」
「まぁ、はい。これくらい大丈夫……です」
その醜態に、さすがのスレンヒルデでも若干困惑してしまうほどだ。
コウタはとてつもない羞恥心を感じながら、そそくさと立ち上がってアミスとハークの元へ向かう。
「……アミスさん、助かりました。一時は」
『えへへ、どういたしまして!』
「コイツ!!」
「おい、何を遊んでいる。戦闘中だぞ」
「だって隊長、アミスのアホが」
『アホ!?』
思わぬ毒舌に、がびんとショックを受けるアミスだが、コウタとハークは特にそれを気にしない。
「コータ、極力崩されるな。なんとしてでも立て」
「……了解。じゃあアミスさん、これ預けます。近接しづらいです」
『ガッテンです。アーマーパージ!』
ぷしゅうと排気音を鳴らし、ABCツールはコウタのボディからパージされる。
「……かなり軽くなった。じゃあ、コウタ行きます」
コウタはツールを外して身軽になると、そのままスレンヒルデにの方に向けて駆けていく。
その速度は標的にたどり着くまでで半音速に達し、その勢いは標的に迫っても緩まることはない。
「コータストライク!!」
先端速度が音速に達する超凶悪な蹴りが向けて放たれるが、スレンヒルデはやはり、当然のようにそれを回避する。
「今更この程度の攻撃が何に――」
スレンヒルデはつまらなそうに、コウタを焼こうと手のひらに魔力を込める。
それを遮るように、スレンヒルデに凶弾が迫る。
「――!」
スレンヒルデは身を軽く捩って回避しようとするが、その弾の射手はそれも織り込み済みだ。逃げ道に置くように、複数発連射していた。
そしてそれはダメージを狙ったものではなく、手に持つ得物を弾くためのものだ。
ぐわんとゆがむような音を立て、そのつぶてのうちの一つは槍の穂先へと命中する。
「命中」
『ナイススロー!』
槍が手から外れこそしなかったが、隻腕ゴリラによる音速の瓦礫はほんの数瞬、スレンヒルデの手の感覚を狂わせる。
「おや……?」
そして、それを狙ってコウタは動く。
狙うは得物の先端。角度は鋭利に、力は全力。加減は一切考えない。
「スマッシュ!!」
握り力の緩んだ瞬間を逃さず、コウタはスレンヒルデから武器を取り除いた。
そしてその空いた手をも逃さず、すかさず掴み取りにかかる。
「捕まえた……!」
コウタはスレンヒルデの手をしっかりと指を絡めて握り潰すかのごとき力を込め、その場に釘付けにする。
「私の手を握っていいのはハーク先輩だけです」
「あっつ……! けど、この程度じゃ離さない……!」
スレンヒルデは爆熱でその手で振り払おうとするが、コウタは自身の指の関節を固定して無理やり耐え、絶対に逃がさないと、地面を踏み砕き踏ん張る。
そして。
「……! アミスさん、お願いします!」
『まっかせてくださーい! 隊長さん、照準は?』
「そのまま撃て」
四門の砲塔を連結し、四連特装砲を構築する。これは四本の火力を合算したよりも高出力を出せる、Bツールの特殊機構だ。
反動で照準がズレぬよう、吹き飛ばないよう、アミスは宙に浮く己の身体をワイヤーで地面と繋げ、さらにBツールのマニピュレーターを伸ばして固定し、極めつけはハークに背を預けていた。
エネルギー供給は、既にコウタが限界まで終えている。
『レンタルギガブラスト!』
コウタの最大火力に引けを取らない超高出力のビームが、薄暗い地下を溢れんばかりの光で照らした。
ありがとうございます。




