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機人転生 ―機械の身体で魔法世界を生きる―  作者: 島米一尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.038 奥さまは勇者

よろしくお願いします

 






 アミスが放ったギガブラストにより、現場には平穏など見る影もないほどに焼き、溶かされていた。

 ハークはそれを見て内心思うところがあるのか、ぼそりと誰に言うでもなく呟く。



「凄まじいな」

『でしょう? メニカちゃんを褒めてあげなきゃですね!』

「……そうだな」



 コウタがちょこまか戦っている間に、射線上にスレンヒルデ以外は誰もいない箇所を探っており、その方向に放ったので、巻き添えによる犠牲者はいない。

 コウタ以外は。



「あついあつい痛い痛い!!!」



 水蒸気や土煙が混じったスモークが舞い上がり、その中からコウタが転がるように飛び出てくる。

 体の至る所がぷすぷすと漕げるように煙を立てているが、痛みと熱さに暴れ回り、作戦の提案者のアミスに文句を垂れるくらいには元気だ。



「なんて非道な作戦だ……! 任せた僕は間違いなく馬鹿だ! アミスさん、これが終わったら法廷で会いましょう」

『傍聴席の見学ですか? いいですね! 法律も学びましょう!』

「隊長、そこのアホを投げてよこしてください。ここの溶けてる地面に押し付けてやります」

『残念、溶岩程度効きませーん!』

「Bツール、今だ! 自爆しろ!」

『コウタさんにその権限ないですよ』

「それをおかしいと思わないのか?」



 本来使用者たるコウタにその権限があって然るべきだが、なぜかそれは設計者と開発者のメニカとアミスにしかない。

 コウタは生殺与奪の権を思い切り他人に握られている。



「俺が巻き添えになるんだが」

「隊長なら大丈夫です。多分」



 コウタがなんの曇りもないまなこと言葉で信頼をぶつけると、タイミングよくハークが膝をついた。



「――チッ。やはり保たないか」



 ハークは自身の胸に手を当て、落ち着いた様子でそう診断する。

 その口ぶりは、まるでこうなることをあらかじめ考慮していたかのようだ。



「コータ。俺はあと数分で動けなくなる」

「は?」



 コウタは思わず素でそう返す。なんてタチの悪い冗談だ。人をからかうにしろ、ついていいウソというものがあるだろうと思いさえしている。

 しかし、ハークの表情も声音も真剣なことに、コウタは薄々気づいていた。



「……ホントなんですか?」

「ああ。俺はもうリタイアだ」

「リタイア……!? 無敵のハークプラチナじゃなかったんですか!?」

「なんだそれは」



 ゴリの白金。大体のことを筋肉で解決する。



「もう醜態を見たから分かると思うが、俺は無敵でもなんでもない。お前がいなければ仲間の仇にも立ち向かえなかった。そもそも持病持ちだ。義手から送られる信号と薬剤がないと立つこともままならなくなる」

「そんな……。病とはかけ離れた姿してるのに……」

「アミス。この馬鹿の頭を殴れ」

『では失礼して。えいっ』

「痛っ!?」



 アミスは触手マニピュレーターの一本を操作すると、コウタの脳天に激突させた。



「アミスさん。隊長が病気って、ホントなんですか?」

『筋累加症って言いましてね。しかも隊長さんのは結構重めなんですよ。自分の筋力で骨が折れちゃうくらいに』



 筋累加症。あるいは単純に筋肉病。ハークは産まれた頃から、その疾患を患っている。

 普通、筋肉の密度には限界がある。しかし、この疾患を持つ者にその制限はほぼない。鍛える度、鍛えなくとも、筋肉の密度が日に日に上がってゆく。体重は増えすぎ、体格は引き締まりすぎる。それこそ、自身の骨を変形、骨折させるほどに。



「五体満足の頃はなんとかなっていたんだがな。ようは筋肉が骨を潰す前に筋肉を潰してやればいいわけだ」

『それでなんとかなるのがおかしいですけどね』



 アミスは若干引きながらそう返す。本来、定期的に筋弛緩剤的な薬剤を摂取しなければ全身の骨が圧迫骨折してしまうという病だ。

 ハークも隻腕となってからはその例に漏れず、活動時間を延ばすために義手に仕込んでいる。



「……と、なると。隊長なしでスレンヒルデと戦うんですか? いや無理です普通に死にます先に逝きますごめんなさい」

「許さん」

『メニカちゃんにチクリますよ?』



 その和やかな空気を割るように、どこか末恐ろしい笑い声がスンと響く。



「ふふ、うふふ……!」



 スレンヒルデは少なくない血を身体の各部から流し、仰向けに倒れていた。衣服が破けているところは火傷が目立つ。しかし意識はあるようで、なぜか笑っている。



「まだ息が、意識があるのか……!?」



 そう驚きはしているが、コウタはその可能性を考えてはいた。同等の出力の3000%フルブラストを、ユーリは耐えた。近しい力を持つスレンヒルデなら十分有り得ると考えていた。

 警戒するコウタを他所に、スレンヒルデは朝起きた時のようにゆっくり、優雅に身体を起こし、立ち上がる。



「なかなかに命の危機を感じましたよ。こんなのは7年前、雷の勇者と戦った時以来でしょうか」

「ユーリと戦ったことがあるのか……!? 7年前てことは……9歳!?」



 ユーリならやりかねない、とコウタは一瞬納得しかけるが、スレンヒルデはそれを軽く笑って否定する。



「いいえ、私が戦ったのは先代雷の勇者、現在は戦鎚の勇者と呼ばれている方です。確か、貴方の友人のユーリ・サンダースの師だったはず」

「ユーリの師匠……とんでもなく強そうだ」

「そう、私の士官学校の同期であり、忌々しいことに、ハーク先輩の現在の奥方でもあります」

「既婚者って噓じゃなかったのか……なんて?」



 コウタはスレンヒルデから聞こえた、その信じがたい情報の組み合わせを素で聞き返す。

 アミスもその情報は知らなかったのか、コウタと同じように驚いてハークに尋ねた。



『ええっ!? 隊長さんの奥さんって勇者だったんですか!?』



 それに対して、ハークは特に隠すこともせずに認めた。



「そうだ。そして、言うまでもなく俺より強い」

「今は私の方が強いですよ? つまり私をお嫁さんにしてもいいのでは?」

「俺は強さでサラを選んでいない。サラの人間性、そしてその笑顔に惚れたんだ。知らんだろうが、サラは笑顔がとても可愛らしい。普段はかなり仏頂面だがな」



 ハークはとても優しい笑顔を浮かべながらも、スレンヒルデに淡々とそう返す。



「隊長が笑顔で惚気けてる……!? レアショットだ!」

『隕石でも降るんじゃないでしょうか』

「貴様ら……まぁいい」



 ハークは一瞬アホなことを言う部下ふたりを咎めようとするが、呆れたのか、はたまたそんな余裕はないと判断したのか、何かを言いかけてやめた。



「さてコナーさん、もう一度だけ言います。貴方とアミスさんとやらの命は助けてあげますので、神器と先輩をおいて大人しく引き下がってください。私としても利のない殺生はしたくありませんし」

「断る。そもそもさっきより一応戦力増えてるのになんで受けると思ったんですか?」

「そうですか、残念です」



 そういう割には、まったく残念そうな表情を浮かべていない。それどころか。



「先程は、ハーク先輩の愛を受け取りました。では私も全力で、その愛に応えようと思います」



 にたりと笑ってさえいる。

 スレンヒルデが優しくも不気味な笑顔を浮かべた瞬間、コウタとアミスの中にあるアラートがけたたましく鳴り響く。



「うるさっ……! 何だ急に!」

『魔力反応、急激に増大! 先ほどまでの数倍の魔力数値を観測しています!』

「数倍……!? 流石にそんなの食らってられませんよ!」

『まだ上昇していきます!』



 スレンヒルデから計測される魔力は、どんどん上昇していく。

 放たれる熱と魔素の奔流が強い風を生み、スレンヒルデから放たれているかのように吹きすさぶ。



「……マリー、サラ。すまない」



 ハークが娘と妻に謝罪の言葉を述べたのは、決着の時はそう遠くないと予感したからだ。






ありがとうございます。


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