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機人転生 魔法とSF科学の世界に来たはいいけど、身体が機械になった上にバトルの八割肉弾戦なのなんで?  作者: 島米拾尺
第二章 力を持つ者が惹かれ合うのは物理学的にも証明されている。
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no.016 高度一万メートル

よろしくお願いします

 



『高度一万メートル、速度はおよそマッハ2を維持。気流の乱れなし。機体は安定していますので、オートパイロットに移行します。隊長さん、お疲れ様でした』

「シートベルト外していいぞ」



 十数秒の上昇の後、機体は安定飛行へと移行した。上昇の間、メニカはもうこれでもかと言うほど強く握って耐えていたので、コウタの手は手汗でびっしょりだ。



「う、うう……」

『メニカちゃん、よく頑張りましたね。もう安定飛行に入りましたよ。吐きますか? ぽんぽん痛くないですか? うどんかお粥食べますか?』

「コータくん、ひざまくら……」

「僕の膝、宇宙一硬いよ」



 流石に剛体の膝よりかはいいだろうと、コウタはメニカを簡易ベッドに横たわらせて寝かせてやる。

 落ち着くように頭を撫でてやっていると、少しして、落ち着いたのか、メニカは規則的な呼吸を取り戻し、眠りに入った。



「……寝た?」

『レム睡眠に入りましたね。起こさないように静かにしておきましょう』

「了解です」



 そろりそろりと立ち上がり、自分の座席へと戻る。そのついでに、コウタは気になっていたことを、ハークに聞いてみることにした。この旅の目的についてだ。



「隊長。神器って言ってましたけど、そんな情報どこで手にいれたんですか? 争いの火種になるなら秘匿されるべきじゃないんですか?」

「隊員の一人がアストへ技術提供しに行っている。そいつ伝いの情報だ」

「なるほど、アストに……どこですかそれ」

「多人協和連邦アストだ。詳しいことはアミスに聞け。俺はやることがある」



 そう言ってハークはなにやら資料をディスプレイに投影し、うんうん唸りながらにらめっこを始めた。

 コウタはそれを傍目に見つつ、言われた通りにアストのことをアミスに尋ねることにしてみた。



「アミクサ、多人協和連邦アストについて教えて」

『アストは正式名称を多人協和連邦アストといい、メカーナから数千キロ離れた場所に位置する超多民族国家です。名に冠する通り、国民の人種は多岐に渡ります。アールヴにドゥーヴェ、ヨトゥン、スロゥプ。あと少ないですがセイズとヒュームが共に暮らしています。位置的には科学国メカーナと魔法国ウィカルのちょうど中間地点にあるので、魔法と科学が程よいバランスで広まっています』

「アールヴはエルフでドゥーヴェは確かドワーフだっけ。セイズってなんだろう」



 聞きなれぬフレーズに首をかしげるコウタだったが、それも直ぐにアミスが解消してくれた。



『魔人ですね。肌が青かったり角が生えてたり羽が生えてたりする人達です。角や羽は魔力受容体ですね。他の人種より魔素を身体に取り込める量が多くて、魔法を得意としています。胸に魔素結石が溜まるのも特徴ですね。語源は古なんちゃら語で魔法って意味だったような……』

「なるほどぉ」

『魔素の影響にしても進化するには期間が短すぎるから、学説では魔力の影響による先祖返りに近しいなにかの一種だろうとされていますね。大昔はホモ・サピエンスもバリエーションが豊富でいっぱい居たのかもしれません。今でさえ色んな人種との混血がたくさん居ますし』

「なるほどね?」

『コウタさんほんとに理解してます?』

「二割くらい」



 メニカの追加呪文高速詠唱がないぶん、これでも普段よりは吸収出来ている。



「そろそろ非領域区に突入する。念の為気を引き締めろよ」

「……ん?」

「どうした?」

「そういえば非領域区って空飛んでいいんですか?」



 非領域区の上空は様々な理由で危険なため、飛行禁止空域に認定されている。だからこそ、コウタはミスリル事件の時にわざわざ走って行かされたのだ。



「もちろんダメだ」

「じゃあなんで飛んでるんですか?」

「確かに普段は禁止されているが、今回の様な緊急事態は自己責任で飛行が許可されている」

「自己責任という事はつまり」

「危険が往々にしてあるということだな」

「なるほど。帰りたい」

「安心しろコータ。この機体の速さに着いてこれる生物はほとんどいない。それに今回は俺がいる」

「隊長かっけぇ……」



 メニカやアミスの言う「安心して」は全く安心できないというのに、ハークのこれはすんなり受け入れることが出来た。

 やはり日頃の行いは大事だと、コウタは身に染みている日々の地獄を思い出していた。



『まぁ隊長さんの言う通り、そう心配しなくても大丈夫ですよコウタさん。この機体の最高速度はマッハ10ですよ? これに追い付ける生物なんて、一生を空で始めて空で終える空龍の中でもほんのひとにぎりで、しかもその龍たちは滅多に確認されません。つまり安心安全なんです』

「今なにか盛大にフラグが建った気がする」

『あはは、流石の私でもこんなベッタベタにフラグ建てたりしませんよ』



 ――不安になると、考えなくてもいい余計なことが頭に浮かびまくるのは、もはや人の性だ。

 たとえばアミスの言うひとにぎりの空龍達が確認されないのは、ずっと空を飛んでいる上に速すぎて見えないだけではないのか、とか。

 遭遇しないのは人間は普段地上にいるからで、現在空を飛んでいる自分達にその考えは関係ないのではないか、とか。

 もっと言えば、確認はされているが見た人は殆どそいつらに殺されていて、結果的に確認されていないと記録されているだけなのではないか、とか。

 ……なんて、考えが頭をよぎってしまうのも仕方がない。


 コウタがそう思った、その時だった。



『警告。未確認飛行物体が接近中。推定速度マッハ3。未確認飛行物体が接近中』



 けたたましい警告音が機内に響いた。



「――総員、座席にしがみつけ! バレルロールで回避する! アミス、フレアで撹乱しろ! コータはメニカを抱き留めておけ!」

『了解です! フレア発射!』



 ハークの怒声とともに、機体が大きく回転する。コウタは咄嗟にメニカを抱き寄せ、何が起きたのか問いただす。



「隊長、なにが!?」

「攻撃されている!」

「攻撃……!?」



 コウタは戸惑いながらも、指示通りすかさずメニカの元に駆け付け、抱き留める。



「うぅ……!」

「メニカ、しっかり掴まってて! 大丈夫、絶対はなさない!」

『バレルロールします! コウタさん、しっかりお願いしますね!』



 その直後、機体が360度回転した。荷物が散乱し、少しの浮遊感に文字通り浮き足立つ。



「アミス、アンノウンの正体と数を教えろ! コータはメニカを座席に座らせて固定後、待機!」

「了解!」

『生体反応の大きさから恐らくドラゴン、それも一体です! 目視は速い上に機動が複雑すぎてできません!』



 外部カメラに移るのも、せいぜいがその一部、あるいは残像だ。



「この世界にそんな芸当ができる龍種は二種しかいない。しかも単独行動となると一種だ。こいつは――」



 ハークがその正体を明かそうとしたその瞬間。まるでそれを肯定するかのように、そのドラゴンは現れた。



「流星を喰らう龍、コメットドラゴンだ」



 成層圏に棲む最速の龍、コメットドラゴン。地球を周回し、落ちてくる隕石の運動エネルギーや自然発生した魔力エネルギーを喰らって生きている。まれに高高度の航空機を襲うことがあり、今回はそのまれが偶然にも起こってしまった事態だ。

 コウタもそれは頭でも心でもわかっているが、どうしても文句を言わずにはいられなかった。



「またドラゴン……! アミスさん、いい加減フラグ建てるのやめてくださいよ!」

『私のせいですか!?』

「違います八つ当たりです!」

「ごちゃごちゃとくだらない喧嘩をするな。コータ、代われ」

「へ?」

「拒否権はない」



 ハークがなにやらディスプレイを操作すると、操縦席とコウタが座っている後部座席が入れ替わる。



「えっ、ちょ、隊長!?」

「コータ、回避に徹しろ。アミス、武装は速度を落とさず使えるものだけにしろ。メニカはそのままじっとしていろ。不安ならコータに抱きついておけ」



 ハークは座席から立ち上がると、揺れる機内をものともせず、まるで散歩でも行くかのように軽やかに、ブレずに、躊躇いなく歩いた。

 そして例の棺桶を開くと、おおよそ取り回しというものを全く考慮されていないであろう大きさのそれを引っ張り出した。



「アミスはそのまま随時奴の報告と牽制、弾薬は惜しむな。コウタは念の為バリアの準備をしつつ操縦桿を握って待機。回避は任せる。合図で急降下しろ」



 ハークは取り出した狙撃銃をなにやらパーツを付けたりツマミを回したりケーブルを抜いたり差したりしながら、コウタ達に指示を出した。そして、ガチリとコッキングすると。



「奴は俺が仕留める」



 そう言った。



ありがとうござぃした

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