no.014-2 勇者のグルメ 〜ユーリ・サンダース スイーツの流儀〜
カクヨムで文字調整用に書いた幕間です!
よろしくお願いします!
コウタが慌ただしく去ってから、ユーリは思索にふけているのか、しばらく沈黙していた。それが破られたのは、彼がウルトラハイカーボ飲料を飲み干したと気付いたときだった。
「……マスター、同じものをおかわり。あとケーキ全種類」
「かしこまりました」
頭の悪い注文に頭の悪い注文を重ね、ユーリは約束の時間まで暫し過ごすこととした。
「裏切り者ねぇ……」
チクタクと時を刻む秒針に、人差し指でかつかつと合いの手を入れながら、自問するようにユーリはその言葉を反芻する。
――何故あのとき、そう口にしたのか。それは確信があったからだ。忘れもしない神器の気配。
だが、目の前にいたのは奴ではなかった。なんなら人間、生物ですらなかった。神器の気配も、いつの間にかどこかへ消えていた。
「……」
裏切り者ではあるが、別にユーリの仇敵であるとかそんなのではない。ただ単に勇者らしからぬ行為をし、行方をくらませたため、全人議会から秘密裏に指名手配されているだけだ。
――おそらくは力に堕ちた訳ではない。仮にそうならば、堕ちた者共が煽りに来ないはずがない。
ユーリはやや険しい顔で思索を巡らせるが、名探偵や名将でもなければ、人ひとりが思いつくことなどたかが知れていると、考えてはいるものの半ば諦めもしていた。
やがて5分ほどした頃、色とりどりのケーキの山が運ばれてきた。
「お待たせしました。カロリースタンピードです」
「どうも」
ユーリはぱっと思考を切り替える。美味いものを食う時は仕事のことは考えない。彼の流儀だ。
――流石メカーナといったところか。どれも目移りするほど美味そうだ。
メカーナは食糧生産の大部分を完全に機械化している。そのため人件費が殆どかからず、大幅なコストダウンを実現している。更に天候予測や需要供給バランス、成長予測等、その他の面でもコストを下げているため、場末の喫茶店でも安価で高品質な食材をふんだんに使うことが出来る。
マシンに仕事を奪われたかたちになるが、その分を娯楽の強化に費やしており、皆腕を磨くことに余念が無い。義務教育課程で農業や開墾などの経験を年単位で積み、万が一の文明崩壊にも備えている。
「あー……んぐ」
ユーリは「いただきます」と軽く手を合わせ、早速ケーキを頬張った。ひと口で1ピースいく豪快さだが、彼はこれをケーキの最も美味く合理的な食べ方だと信じてやまない。ケーキの1ピースは一にして全。その形にすることを想定して作られているのだから、その形を丸ごと食うことが理にかなっている、との主張だ。
「……美味い」
空気を食べているかのように軽いふわふわのスポンジ。重厚な甘さながら決してクドくない、舌で滑らかにとろける生クリーム。色とりどりで果肉がはち切れんばかりのフルーツ。そして、それらを全て殺すことなく活かす技量。
その全てがユーリ・サンダースの全身を歓喜の雷霆に震わせていた。
――素材が良いのもあるが、やはり料理は腕だ。画一化されたレシピがあるはずのチェーン店でさえ、日によって味が違うことは往々にある。
メカーナの料理人は、そのリソースのほとんどを自己研鑽に使える。在庫管理や発注、なんなら人件費等もオートロイドを使えば費用を抑えられるからだ。
「……むぐ」
ひとつ、またひとつとユーリはケーキを食べ進めてゆく。純白のクリームに真紅の苺を乗せたショートケーキ、しっとりとした自家製チーズが素晴らしいチーズケーキ、カカオ豆からこだわって作ったガトーショコラ。エトセトラエトセトラ。
「あー……?」
そして、ちょうどぴったり半分となるところで、ユーリはぴたりと動きを止めた。
腹がいっぱいになったわけではない。この三倍は余裕で入る。ただ、見知った気配を感じ取ったからだ。そしてドアが開き、からんころんと小気味の良い音色が鳴る。
「……いらっしゃい」
『いらっしゃいませ』
ユーリは「もう来たのか」と言いたげな顔を浮かべつつ入口に目をやると、幼馴染の勇者、シェリーがやってきていた。
「あ、居た」
今日はオフのためか、魔法少女コスやとんがり帽子は被らず、至って普通の年頃の少女らしい格好だ。白を基調としたワンピースに身をつつみ、帽子に隠れていた長めのアホ毛を垂らしている。そう、まるでこれからデートにでも出かけるような服装だ。
シェリーは半分ほど食い尽くされたケーキの山を見ると、呆れるような視線でユーリを責めた。
「また甘いものばっか食べてる」
「朝飯抜いた」
「尚更だめ。残りはわたしがもらうね。紅茶ストレートで」
『かしこまりました』
シェリーもユーリ同様に代謝が異常に高く、これくらいの量ならば前菜にもならない。
「用事はもういいのか?」
「うん。今日は顔見せだけ。本格的な作業はまた今度だって」
シェリーは得意とする魔法の性質とその体質上、放射性物質等の処理作業に頼られることが多い。今回もその関連で、放射線関連の事故の後処理を依頼されている。
「ごちそーさま!」
「早すぎだろ。いつ食ったんだよ」
「ふふん。『スイーツを一瞬でドカ食いする魔法』だよ」
「そんなトンチキ魔法があるかよ」
「あ、魔術魔導士たるわたしに魔法で意見するんだ? いいよ、『素人質問』をたっぷり浴びせてあげるよ」
ふふふと不敵に笑って薄い胸を張り、シェリーはユーリを揶揄う。
「どうするこの後。帰るか?」
「んー、お腹減ったしお肉食べたい」
「口直しにちょうどいいな。マスター、お会計。釣りは募金箱に突っ込んどいてくれ」
ユーリは高額紙幣を二枚ほど、伝票と共にマスターに手渡す。
「ありがとうございます。かしこまりました。それでユーリ様、差し出がましいお願いではありますが、サインなどをば……」
「いいぜ」
「ありがとうございます」
手渡された布のナプキンと、ついでとばかりにメイドロイドの背面に『ユーリ・サンダース参上!!』とサインを書き殴り、おまけに雷紋を焼き付ける。
「あ、じゃあわたしも。『その妻、シェリー・アトムスは、ここに永遠の愛を誓います』……と」
「勝手に誓うな」
「ふふ。またのお越しを」
マスターとメイドロイドに見送られ、ふたりはフロントの街並みに繰り出す。
シェリーは置いていかれないよう、ユーリの逞しい腕に細腕を絡みつける。
「歩きづらい」
「縮めば?」
「まだ成長期だ」
言葉では疎ましげにしているものの、ユーリは振りほどく様子を欠片も見せない。そのまま慣れた様子で歩調を合わせて歩いてゆく。
「そういやさっきコータも居たぞ」
「ほんと? 言ってくれたら飛んできたのに」
「なんか用事で呼ばれてったから入れ違いになってたと思うぜ」
「ふーん。まぁまた会う機会はあるだろうしいっか」
シェリーは先の放射線案件を含め、魔術や魔導の講義や公演などもあり、割と頻繁にメカーナに来る。
「推薦状書いた?」
「書いた。まだ出さねぇけど」
「ありゃ。ユーリからの提案なのに」
「言っても俺はまだ勇者として新参だからな。俺ら以外にもあと一人くらいから推してもらった方がいいだろ」
今いる勇者の中では、ユーリが最も新顔だ。その次に一人10代の女子が居て、その次が史上初、10代前半で勇者となったシェリーだ。
「そうかなぁ。おじいに見せればすぐだと思うけど」
「あのジジイのことだ。どうせ知ってるだろ」
「たしかに」
ユーリとシェリーは、ふたりで今後のことを話し合いながら、繁華街の雑踏に消えていった。
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