#28 ”imaginary ray”
———乾いた音が、一発響く。
死神の男———シェドが、ゆっくり倒れていく。
「アル……!!」
「次はあんたたちよ。女だからって容赦はしないわよ……?」
エリザベスとライムに向かって、銃口が向けられる。
撃たれ、その自覚なく砂になってしまうことを覚悟した、その時。
———パシッ。
銃声にはとても似ても似つかぬ音がする。
綺炎と麗炎の銃が、真ん中で斬られ、粉々に砕け散っていた。
「なっ……どうして?どうして!?」
二人が慌てて、銃を生成し直す。
———パシッ。
同じ音がして、今度は二人がうめきだした。
「手首から、斬り落とされてる……」
「……ん?」
と、間の抜けた声が、エリザベスとライムの後ろでした。
「……アル!?」
何事もなかったかのようにシェドが起き上がった。
「あれ、俺撃たれなかったか?」
「ええそうよ。……傷一つ、ないけれど」
「すっ……姿を現せ!!卑怯よ!!」
「……分かったわ」
綺炎とエリザベスたちの間に、足が、腰が、胸が、頭が現れた。
「ウラナ……!」
「ゼ……“ゼネラル”……!?何でここに?」
「遅くなったわね、お待たせ。奇襲成功よ、ありがとうローツェ」
「あいよ。役に立ったろ、俺の“場末の盛り場”(ラスト・ステージ)も」
「ええ、大いに」
「ローツェが一緒にいたのね」
「「うわあああああああ!!」」
綺炎と麗炎が、銃を乱れ撃ちした。
「……“場末の盛り場”!」
ウラナの周りにドーム状の仕切りができて、銃弾を弾く。
「いざとなったらそれくらいしか能がないくせに、よく“炎”の一族の復讐だとかなんとか、腑抜けたこと言えるわね」
「うるさい死ねええええぇぇ!!」
「麗炎!!」
ウラナが麗炎の攻撃を、簡単に受け止める。
「終わり?」
麗炎の三倍はある速度で、ウラナが叩き込む。
「ぐうっ………!!」
「……ウラナちゃんの横腹が空いてるわ」
「隙が、多すぎるのよ!!」
「危ない!」
「『施』」
その瞬間、麗炎に幾筋もの光が差し込む。
何か叫んだ表情のまま、麗炎はバラバラに砕け散った。
その一つ一つは一瞬で砂と化し、風の吹くままに散る。
「麗……炎……?」
「隙?ああ、さっきの?さっきのなんて、あえてそうしてたに決まってるじゃない」
「すっかり使いこなしているわね。『録』を唱えずに使うなんて」
エリザベスがつぶやいた。
「レコード?音楽の聞ける?」
「ウラナちゃんは“ゼネラル”だから、使う刀も全然違うの。直近5斬撃を記憶するのが『録』で、『施』でそれらを一気に実行するの」
「何でそんなこと母さんが知ってんだよ」
「警察省でその開発がされたからよ。私はその開発に携わったの」
「本当なの、母さん?僕にも言ってよ」
「言ってもあなたが“ゼネラル”の刀を握る事なんてあるかしらね。他の人には言っても意味がないわ。それにかなり機密情報だし」
「よ、よくも麗炎を……」
「次はあんたの番よ」
もはや倒すことさえ面倒そうに、ウラナが吐き捨てた。
「……投降するわ」
「……へえ」
「え?ここに来てか?」
シェドが素直にそれを口に出してしまう。
「どうでもよかったのよ、あの二人なんて」
「……。」
ウラナは冷静に、その真意を見極めようとにらみつける。
「私は行けなんて一言も言ってないのに、馬鹿ね。さっさと死にに行っちゃって。もっと頭を使えっての」
「なるほどね。じゃあ、上の人を呼んでくるわ」
くるりとウラナが背を向け、その場を去ろうとする。
ふいに綺炎が、斬られていない片手を動かした。
「あっ………!」
シェドが思わず声を上げた。
シェドにすかさず、銃口が向けられた。
綺炎がにっこりと、笑いかけた。
銃口はシェド、エリザベス、ライムに順番に向けられたまま、綺炎の足下に、マシンガンが現れた。
銃を置き、マシンガンの照準が、ウラナに合わせられた。
「………死ね」
5発ほどだろうか、ウラナ目がけて光線のようなものが飛んだ。
少し遠くで、ウラナが倒れてゆく。
「ウラナちゃん……!!」
「アッハハハハハハハハハ!!死んだ死んだっ!!“ゼネラル”が死んだ!ダッサい死に方!なんて哀れなの?哀れ過ぎじゃない!?投降した悪魔を拘束もせずに野放しにするなんて、自殺行為も大概にしてよねーっ!!ホンット、馬鹿みたっ……」
ぶすり。
突然そんな、鈍い音がした。
「いっ、……あああっ、ああああああああああ!!!!」
綺炎の両足は、太い杭のようなもので貫かれ、足の形が見えなくなっていた。
「……ったく、甘いったらありゃしない」
ウラナが綺炎の前に立っていた。
「ど、……どうして、生きてんのよ……!!」
「だから、詰めが甘いつってんでしょうが」
ウラナが握っていた手を翻した。
ぱっくりと割れた銃弾が、手の平からぱらぱらとこぼれ落ちた。
「う……嘘、でしょ……試した、の……?」
「あのねえ、赤ん坊でも敵を野放しにしたらやられるってことぐらい分かるわよ。そんな単純な頭で、よくものうのうと冥界に来られたわね。……さあ、どうする?本当に大人しく投降するか、死を選ぶか。そのままだとあっという間に死んじゃうわよ」
「……とか、言って、殺す気でしょ?……最初からその気じゃないの」
「さあ?聞けばあんた、来て早々、一般人を殺しまくったらしいわね」
「……ふん。それが何か?」
「『トリー』……」
「……待って」
その場にいる誰でもない声が聞こえた。
増えたのは一匹の犬だった。
「アリス?」
「ウラナ、よく聞いて」
明らかにその犬が、声を発していた。だがその声は明らかにレイナのものだった。レイナは今捕まっているはずなのに、だ。
レイナの飼い犬、アリス。冥界犬という特別な品種で、飼い主の意向を間接的に伝えることができる。
「……何よ」
「その女の人……綺炎を、生かしておいてあげて。捕虜にできる」
「こいつに生きる意味があるって言うの」
「もし殺せば、他の悪魔がどう出るか分からないでしょ。増員されて、こっちが一気に不利になるかもしれないし」
「雑魚悪魔のこと?そんなのさっさと吹き飛ばせばいい話でしょうが」
「それに……?」
「レイナ、言いたい事はそれだけ?あんたが自分の冥界犬を通してまで伝えるから、信じてくれるとか思ってるかもしれないけど、大間違いよ。あのねえ……」
「今、綺炎を殺して、その代償として誰かが死ぬとしたら?ラインとか、エミーとか、シャンネさんかもしれないよ?」
「……たとえが悪いわよ」
「それだけ重要なの。いい?」
そう言うとアリスは、ウラナの返事を聞くことなく去っていった。
「『癒』」
ウラナがそう言うと、綺炎の傷は何事もなかったかのように治った。
「……拘束完了。綺炎を大殿に送ります」
“了解した”
「終わったー……」
「まだ終わってないわよ、アル。雑魚掃除よ。せっかくあなたの弾はまだたくさんあるんだから」
「そうだよ兄ちゃん」
「うげー……」
「……おかしい」
「……どうしたんだよ、ウラナ」
「レイナにしては、不自然なしゃべり方だった……まるで、誰かにそう言わされているような、ね」
* * *
「よし、十分だ。これで綺炎が殺されることはないだろう。あとは回収するのみだ」
満足そうに首尾が言った。
「……仕事はしました。ラプラタさんを起こしてあげてください」
「ダメだな、この女はすぐにとやかく騒ぐ、うるさい女だ」
「約束したのに」
「約束など、律儀に守るとでも思っていたのか」
「……いえ、想定の範囲内よ」
「さすがに理解が早い、レイナ・カナリヤ・レインシュタインよ」
ラプラタさんは、眠らされている。あのアコンカグアさんがいるから、殺されることはないかもしれない。
だが、裏を返せば、殺されないだけで、そのほかは何をされるか分からない。
何をされるのか。そればかりは、頭を使えばどうこうなるものではない。
ただ、恐怖に震えることしか、レイナにできる事はなかった。
* * *
外套のポケットの中で、端末が震えた。
「……ん?」
何かを直感して、慌てて手に取った。
大きな“L”の文字を含むフキダシが、冥界中のある一点を指し示していた。
「やはりか……姉さん」
そうつぶやくと、彼はこの冥界でもトップレベルの能力を持つ、がっしりした体格の男を呼んだ。
「どうした、リオグランデ」
「姉さんがどこにいるか分かった」
「何だと!?」
「外れにある廃工場だ。そこで姉さんが眠らされてる」
「なぜ眠らされてることまで分かる」
「俺たち兄妹は互いに危険に遭ったとき、それを知らせるようにしてある。特に機密省所属の姉さんは、眠らされて連行され、拷問でもされれば一大事だから」
「……便利だな」
「まあもし、姉さんが眠らされてなければ、こんなに早くは分からなかっただろうな」
「……で?俺を呼んだ理由は?」
「決まってるだろ。二人で姉さんとレイナを助けにいく」
「アコンカグアさんがいるぞ」
「だからアルタイル、お前なんだ。操ってほしい」
「……俺は便利屋じゃないぞ」
「今回だけは便利屋になってくれ、頼む」
「子どもたちの番は誰がするんだ」
「お前の妹と、ゼファーさんに」
「大丈夫か?その人選」
「あとは他にいないんだ。それに、いざとなれば歯止め役がいるから大丈夫」
「……そうなのか?」
「はあ?子どもの番?」
アルタイルに事の詳細を伝えられたベガは、素っ頓狂な声を上げた。
「そうだ、俺はリオグランデとともに、ラプラタさんとレイナを助けに行くことになった」
「それで?もう一人は誰」
「ゼファーさんだ」
「うっげーっ、それダメだって。どう考えてもケンカになるって分かんなかったのかよ」
「分かんなかったんだろうな。くれぐれもケンカを売るような真似はしないでくれ。子どもたちの前で殴り合いなんてシャレにならない」
「イライラすんだよ、あんだけエリート意識ちらつかされたら。大した能力もないくせに」
「だが相手は四冥神だ。頼んだぞ」
「……まあ、尽力はするけど」
* * *
「ずいぶん派手に動くのね。意外と能力に頼らなくてもできるんじゃない?」
「うるさい!」
相手を拘束する能力が効かないのであれば、まともに戦うしかない。
あちこち動いて、天爛と張り合っているのは確かだ。
だが天爛には、手傷一つ負わせられていない。
「“仮想拘束光線”……!!」
「あら?」
天爛の足下に作られた、赤い光線の網。
「……逃げられるかしらね」
「馬鹿にしてるの?」
天爛が数歩下がる。
———プツン。
糸が切れるような音がして、光線が鞭となって、天爛の足を激しく打った。
「いっ……!!」
「うらああああああっっ!!」
「……甘い」
「えっ」
「私の番ねえ」
「ひっ」
とっさに光線の網で自分を包む。
「まだよ」
天爛の剣先が光線に触れ、網はバラバラに砕けた。
「なっ!?」
「意外と弱い盾なのね」
「あなたの斬撃が強すぎるんでしょうが」
「そうでもないと思うわよ?」
「……どうしたの、ビビっちゃって」
「……は?」
「どうして、私を殺さないわけ?」
「……そんなに殺してほしいのかしら?」
「いいえ?そうすることを、ためらっているんじゃないかって思ったから、そう言っただけ」
「そんなことないわ、何を言って……」
「1つ」
「ふざけないで」
「2つ、3つ、4つ」
「呑気に何の数を……」
「5つ、6つ、……呑気なのはあんたの方よ、今に分かるわ。7つ、8つ……」
「何が……うぐっ………!?」
「重たくなってきたかしらね。9つ、10、11、12、……」
「何を……何をしてるの……?」
冷静に数を数え続ける、クルーヴ。天爛の声が、どんどん怯えたものに変わってゆく。
「そんなの教えて、どうするの。13、14、15」
「……ぐぎゅっ」
天爛が変な声を出した。喉元を押さえて倒れ、気を失った。
「よし、とりあえず、何とか……うっ」
ふいに足から力が抜け、クルーヴは倒れ込んだ。
重いまぶたを何とか開けつつ、クルーヴは自分の方へ誰かがやってくるのを見た。
「良かっ……だれか、助け、に……来て……くれ、た……」
限界を超え、クルーヴも気絶した。
* * *
「おい、リオグランデ」
「どうした」
「あそこに、倒れている人がいないか」
「……まさか、まだ一般人が?」
全員の避難は、確認したはずだ。リオグランデとアルタイルの二人は目を細め、少し遠くに倒れている死神の様子を見た。
「それはないはずだが……」
「手前の奴は、女か?……青い髪か?いや……」
「クルーヴだ!おい!大丈夫か!?」
「てんらん、を……」
「……何だ?」
「……!すごい熱だ!うなされてる」
「もう一人いるぞ、誰だ?」
「死神でも見たことのあるような顔だな……」
「大殿へ、高熱を出し気絶しているクルーヴを発見しました。病院まで運びます。もう一人いますが」
すぐさま大殿にいるハデスに連絡する。
“もう一人?”
「さっき、“てんらん”……とか、言っていなかったか」
“てんらん……だと?”
「え?はい、確か」
“……そいつも病院に運べ!”
「え……?」
“いいから早く!一刻を争う!”
「……了解!」
「何だ?ハデスさんの知り合いか?」
「分からない。だが、声は切迫していた」
「分かった。一人ずつおぶっていこう」
病院の中は多くの一般の死神たちであふれていた。傷を負った人にとっては、仮の避難所のようなものだ。
リオグランデとアルタイルはその人ごみをかき分けていった。リオグランデはクルーヴを、アルタイルは天爛を背負いながら。
「……ご苦労様だった、二人とも。確かクルーヴの方は高熱だと言っていたな」
「そうです、誰が触っても分かる高熱です」
「そちらは早く寝かせてあげよう。それで、もう一人は?」
「やけに重かったことぐらいしか気になったことはないが……」
そう言いながらアルタイルは、天爛を下ろした。
「……けほっ」
「おい、何か出てきたぞ?」
「これは……石か?」
「石?」
「ええ、これは……おそらく」
「クルーヴは近くにいたと言ったな?」
「はい」
「それなら、……話は別だ!手術室に運べ!緊急を要する!」
医者が声を荒げた。
「な、何が……」
「恐らく、この子の体中に、石が詰まっている」
「石が、詰まっている?」
「クルーヴの能力の一つだ。光線で比重の高い石を生成して、相手の体に埋め込むことができる。だがこのように生死をさまようほどの高熱を出すから、まず使うべきではないんだ。よほど切羽詰まっていたのか……」
とにかく、ご苦労だった。後は我々に任せてくれ。
主死神・シャンネの父親でもある医者の彼は、二人に再び前線へ出るようすすめた。
「そうだ、アルタイル。俺たちの第一の目的を忘れたか」
「……分かっている」
* * *
「天爛が倒れた?」
「確かな情報です!」
「回収は?」
「それが……何者かに連れてゆかれたらしく……」
「……分かった。蛍雪、行くぞ。そろそろ我々が出なければ、こちら側が不利なようだ」
「ならば、わしはここに残っておく」
「任せたぞ、名誉死神よ。この2人が逃げ出しては少々厄介だ」
「さて、と……君たちをどうするかな」
じっくり獲物を観察するような目で、アコンカグアはレイナとラプラタを見た。ラプラタはまだ目を覚ましていなかった。
「……“はたと止まる、世界の時間”」
「無駄だ。先ほどあの悪魔たちのおかげで、君の能力に対する耐性ができた」
「放して!放してっ!」
「“最後の砦”」
レイナとラプラタのいる空間が丸ごと、外の見えないおりに囲まれた。
「君たちにはもう少し、恐怖が必要なよ……」
「“神の操り人形”(マッド・マリオネット)」
———ぺきっ。
洗脳の能力を発動する声と、ガラス窓にひびの入るような音がした。
「あの声は……!!」
「———アコンカグア・プレシピース。貴様を死神監禁および謀反の疑いで大殿へ連行する。“最後の砦”を解除しろ」
その言葉が発せられた途端、アコンカグアがぎこちない動きを始めた。明らかに自分の意思で体を動かしてはいなかった。そして先ほど構築された壁がなくなった。
「アルタイル!リオ!」
「遅くなった、レイナ。ラプラタも無事か?」
「ええ、……平気、平気よ!」
「———リオグランデが大殿までお前を連行する。如何なる抵抗をもせず、真っ直ぐに大殿まで向かえ」
アルタイルがそう言うと、アコンカグア———いや、アコンカグアの体は、向きを変え、動き出した。
「じゃあ、また会おう、アルタイル」
「アルタイルが能力使うとこ、初めて見た」
「まあ、あまり乱用するべき能力ではないからな」
「……ごめん。この地面につながった手錠、外してくれる?」
「おう、どうりで立てないわけだ」
アコンカグアの外套から鍵を取り、レイナとラプラタを解放した。持ち上げられた衝撃でラプラタが、ゆっくりと目を開いた。
「……ん?ああ、アルタイル、……助けに、来てくれたのね」
「二人とも、無理はするな。大殿に行こう。そこでしばらく休んでいるといい」
* * *
「どうしてまた、よりにもよってあんたと一緒に仕事することになるかね」
「この有能なあたしが監督しなさいってことじゃない?あんたを」
やはりこの女の一言一句が、自分をいらだたせる。ベガは子どもをかくまっている地下施設に向かいゼファーと合流したのだが、来て以来ずっと頭に来てばかりだった。
「大して能力もないし大して頭も良くないのに四冥神になったからって得意になってんじゃねえよ、全く」
「なっ……そういうあんたも過去が過去でしょうが!?真面目な道を歩んで四冥神になったあたしの方が余程賢明よ」
「あんたみたいな奴が四冥神に残留できてるあたり、この冥界は腐ってるな」
「なっ、……なにおおっ……!!」
「頭が足りねえ奴はたいてい自分ができちゃうアピールを必死こいてすんだよ、あんたはその典型じゃねえか」
「あ……頭が足りないのはどっちよ!?」
「少なくともこっちには一組織を動かすだけの技量はあるってことよ。それに比べてあんたは……」
「それが、……どうしたのよ!?」
「そうやってなじられたらすぐに語気荒げて。ホンット次から次へと頭が足りてない証拠が露見してるわよ」
「こんのおお……表出るかあ!?」
「やんのか?」
「やめて下さい」
「「……。」」
「ここにはまだ小さな赤ん坊もたくさんいるんです。騒がないで下さい」
「こ、このダメ女が、あたしを……」
「ゼファーさん。私の能力、受けたいですか」
「あんた能力あったっけ?シナノ」
二人の不毛な口喧嘩を止めに入ったのはシナノ・クローバー。ラプラタの一人娘だ。
「クローバー一族で初めてらしいですよ、先天性の能力持ち」
「な……何、あんたたち!?ふざけんじゃないわよ!?」
「ざけてんのはどっちだよ、全く」
「私も聞いててイライラします。騒ぐな……というか、もうしゃべらないで下さい」
「しゃ……しゃべるなって何よ!子どものくせに生意気なっ……!」
「……次、何かしゃべったら、もう知りませんよ。ベガさんも、もう何か言ってやったりしないで下さい」
「分かった。尽力する」




