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現世【うつしよ】の鎮魂歌  作者: 奈良ひさぎ
Chapter5.第七次対悪魔戦争 編

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#29 刹那、急転

 シナノ・クローバー。

 クローバー一族最年少であり、ラインから見れば姪。

 祖父セネガル、母ラプラタ、おばライン、おじリオグランデ、エニセイ全員が能力を持たない中、唯一能力を持つクローバー一族の人である。

 そして今回、子ども死神の中では最年長で、幼い死神の面倒を見る役目も負っていた。

 機密省勤務で何かと忙しい母の代わりに、家事をこなすスキルは抜群。


「……次、何かしゃべったら、知りませんよ」


 ベガは一体、この小さな女の子が、どんなえげつないことをしてくるかが気になっていた。それが物理攻撃系で、ゼファーがひっくり返るならうるさくなくなり一石二鳥である。

 自らも“大炎上”(マグマ・ワールド)という強い能力を持つため、この能力は強いやら弱いやらという判断は公平ではないかもしれないが。

 一方のゼファーはまるで子どものようにふくれている。「ガキ」にうるさい、黙れと言われて不本意ではあるだろう。ああいう類は放っておけばいいのだが、どうしてかいちいち突っかかってしまうのだった。



* * *



「―――随分強くなったんじゃないか、風樹?」

「いいや、まだお前には及ばんよ」


 エニセイも風樹も、決して手は抜いていなかったが、やはり力及ばず、風樹は負けを認めた。


「……首尾か。負傷し敗北した。回収を頼む」

「見させてもらった」

「……首尾、と蛍雪」

「どうも俺には、適当に互いに手加減しているようにしか見えなかったが」

「思い違いだろう」

「思い違いなら、なぜ我々はお前が負けを認めるところを目撃した?」

「……どういうことだ」

「何故死ぬまで戦わないのか、ということだ。情があるのか」

「……。」

「選ぶか?これから死ぬまでこの死神と戦うか、それとも―――」


 首尾が少し間を空けた。


「―――俺によって殺されるか」

「当たり前だろう」

「ほう、さすがに上級幹部だけあって話が早い。ならば―――」

「エニセイに殺される?反吐が出るな。首尾、お前に殺されるのも十分反吐が出るが、それでもエニセイよりはマシだ。……俺を殺してみろ、首尾」

「……物分かりの悪い」


 首尾が懐から銃を出した。

 瞬間、その銃が砕けた。


「どうせ戦うなら俺に戦わせろ、風樹。悪魔の陣頭など、早々に消し炭にしてくれる」

「エニセイ……」

「双方とも物分かりの悪い奴だな、全く。……蛍雪は下がっていろ。俺が相手をする」



* * *



「ほんっとにありがとう!アルタイルとリオが来てくれてよかった!」


 レイナは病院について以来、それまでの不安から解放された反動か、アルタイルとリオグランデに感謝の言葉ばかり言っていた。


「そんな輝いた顔で言われると、逆に困るな」

「そう?じゃあ仏頂面でもう一度……」

「いや、いい。やめてくれ。……さあ、疲れただろうから、休んでおけ。いけそうだったら出動してもらってもいいが」

「うん、分かった」


“大殿に通達する。ウラナ・アマリリスが先ほど、病院にやって来た”


「えっ!?ウラナが!?」

“交戦中にマシンガンの銃弾を斬ったそうだが、その時に銃弾の破片が足に刺さって、やむなく治療のために歩いてきたそうだ”

「ちょっと待って。まず銃弾斬ったの?で足をケガしたのに、歩いてきたの?……やっぱりウラナ、並の体力してないわね」



“……そこにいるの、レイナ?ごめん、ケガしちゃった。ちょっと休むだけだから、心配しないで。だけど、ベガを連れてきてくれない?渡したいものがあるから”


 別でウラナから通信が入った。


「ベガを?」

”そう”

「分かった。アルタイルとリオに頼むね」



「……なるほど。なら俺がベガと交代してこよう。アルタイルとベガでウラナのところへ行ってくれればいい」

「よし、行くぞ」




「久々に外を見た気さえするな。いい気分転換になった」

「手を焼く子どもたちもいるからな。俺も助かった」


 子どもたちの避難所は、直接の攻撃を受けにくいよう、地下に作られている。


「やっぱり独特だよな、この空間は」

「……おい。あれ何だ」


 リオグランデの指差した先の壁にくっつくようにして、何かがいた。


「ん……?えっ!ゼファーさんだ!ゼファーさんがへたりこんでいる!」

「はあ?どういう意味だ」


 近づくと、気配で二人に気付き、


「んーんーんー、んー、んぐーっ!」


変な声を出した。


「ぶっ……はははっ」

「んー!?んんんーっ!!」

「……しゃべれよ」

「しゃべれなくしました」

「シナノ?」


 ひょこひょこ、とシナノが出てきた。


「私がちゃんと注意したのに守らなかったから、“糊付け工作(スティック・スティック)”で体と壁、上唇と下唇をそれぞれくっつけました」

「……口までやったのか」

「壁にくっつけたら余計にうるさくなったから」

「何かあれ、みっともないって言うより、かわいそうだな」

「んーっ!?んんんっ、んん!んーっ!」

「ベガ、リオグランデと交代だ。ウラナのところに行くぞ」

「ほう、なるほど。……ああなってから、だいぶストレス減ったわ」

「……あれ、どれぐらい続くの」

「たぶん数時間かなあ……私が解除することはできないんだよね……」



* * *



「ってかウラナって“ゼネラル”だから、どこにいるか分からなくない?」


 ベガは戦争勃発以来ずっと地下にいたから、その質問をするのは自然だった。


「負傷して病院にいるそうだ」

「負傷?本気で、それ?」

「マシンガンの破片が刺さったそうだ」

「おーい!こっちこっち!」


 張本人が病院の前で大きく手を振っていた。


「おい!大丈夫なのか、足」

「まあ、そんなに。……それよりはい、これ。ベガに」


 ウラナは自らの刀を渡した。


「使い方はだいたい分かるでしょ」

「……まあ」

「やってみる?一度。あそこに雑魚がいるわ。大殿に流れると厄介だから、何使ってもいいから片づけて」

「……『囲』、『破』」


 ベガがそう言うと、雑魚兵がまとめて結界のようなもので囲まれ、そして内部から爆ぜた。


「ベガ、それの使い方、知ってるのか」

「……知らなかったけど、持った瞬間知った」

「そういう刀なの、これ」

「はあ……」

「大丈夫そうね。じゃあ、いってらっしゃい」


 ウラナが明るく見送った。どこからどう見ても大丈夫そうだったが、医者に止められている以上仕方なかった。



「どこがヤバそうなんだ?」

「アルテミスさんのところか。シャンネさんが少し休んでいるから、一人で相手をしている。しかも相手の理路は能力を持っているらしい」

「どんな」

「氷山でザクザクと刺してくるそうだ」



* * *



「くっ……」


 一目見る限り、ただのガキである理路。

 すぐに追っ払って、他の人たちと合流できるとばかり思っていた。


「あれ、全然くたばらないじゃん、おばあちゃん」

「うっさいのよ、クソガキ」


 さらに厄介なのは、理路の絶え間ない攻撃の数少ない合間にも、大量の雑魚が押し寄せてくるということだ。ある程度はシャンネが対処してくれているが、いくらかはこちらに流れてくる。


「……こんなの、そのうち負けるじゃない!」


 相手がいくらガキとはいえ、体力が先に切れるのはおそらくこっちだ。


「誰か来てくれれば……!!」

「『囲』『破』『囲』『破』『波』……」


 雑魚兵が次々に結界で覆われ、結界ごと消し飛ぶ。大きな棘に突き刺さる者もいる。


「これは……!」

「うわ、やっばい!ゼネラルだ」

「待たせたな元ゼネラル。この刀と能力さえあればもう心配いらない。“大炎上”」

「ちょっ……反則反則!その刀と火はナシだって!!」

「反則に反則で返して何が悪い、反則は先にやった方が負けだ」

「ベガはこっちに残って、アルタイルはエニセイのところに行ってあげて!あっちの方が危ない」

「分かった」

「『囲』」


 理路の腕が、いくつもの細かな結界で埋め尽くされる。


「な、何すんだよ」

「能力なんて使えないほうが身のためだ。『破』」

「う……うわ……うわああああああっ!!」


 理路の右腕が吹っ飛んだ。


 その瞬間。


 耳をつんざくような、けたたましい音がした。

 何か異形のものの叫び声のような音。

 耳をふさいでもなおしっかりと耳に届く。

 片腕を失い、耳をふさげない理路は一瞬で気絶した。

 そして。



「……下がってベガ、氷山が生える、……冥界全体から!!総員、高い場所に登れ!!」



アルテミスがそう言い終わり、近くの家の屋根に登った瞬間、



―――ズドッ。


 鈍い音がして、辺り一面に氷の棘が生えた。

 ふと理路の方を見ると、その棘に突き刺さり、ほとんど砂になりかけていた。


「やっぱり、死神の能力は、悪魔には使いこなせないようになってるのかな……」


 これでまた一人、悪魔の主兵は減ったが、


「……どうすんの、これ……」

「これじゃ、地上戦は無理だな」



* * *



「理路が、死んだ?」

「本当、それ?」

「ああ。……蛍雪、終わりだ。撤収を始める」

「誰を回収するの」

「これから大殿へ向かう。回収出来うる限り、回収する」

「分かったわ」


 首尾と蛍雪はエニセイと風樹のもとを去った。


「……大丈夫か、風樹」

「ああ、平気だ。お前が手加減したおかげでな」

「手加減はしていない。本当にお前を殺すつもりで臨んだが」

「……。」

「ひとまず休んでおこう。あの分じゃお前の回収はないだろう?」

「ああ、おそらくな。それに……」


 風樹は不意に数歩下がった。

 さっきまで風樹がいたところに数発着弾し、その周りが凍てついた。


「いつ殺されるかも、分からない」

「なるほど、ならば奴らの視界から外れるべきだな」



「おーい!降りてこーい!もうすぐそこも融かすから!」


 下に数人分の人影が見えた。

 氷山が次々と消えてはなくなっていく。


「シェド!ベガ!エリザベスさん!」

「僕は……?」

「すまない、ライムもだな」


 そう言えば、ベガは炎を操れるし、あとの3人は悪魔の血を引く“炎”の一族だった。


「氷山の処理はどれぐらい終わったんだ?」

「まだ3割くらいだ、だけどすぐに終わるだろう」

「そうか、引き続き頼む」


 エニセイと風樹は地面に降りた。


「さあ、俺たちにはまだ仕事が残っている。追っ手から逃げねばなるまい」



* * *



「唯我」

“……何ですか首尾様!”

「今から大殿に向かう。お前を回収するから、外に出てこい」

“檻に閉じ込められています!”

「出られないのか」

“ええ、何発か撃ちこんでみたのですが……びくともしません”

「どの辺りにいるか分かるか」

“地下と言うことぐらいしか”

「……まあよい。我々が地下へ向かう」

「させるかてめー!!」


 待ってましたとばかりにフリードリヒが飛びかかる。


「邪魔だ」

「この近衛兵長様にできることはなーい!!」

「……フリードリヒ、それではお前は何もできない奴だぞ」

「しまった!……できないことはなーい!!」

「黙れ、我々は今忙しいのだ」

「うぉらぁ!」


 フリードリヒはシャンネの息子だけあって、氷を操ることが出来る。

 首尾と蛍雪の銃を凍らせてしまった。


「蛍雪!」

「はい!」


 蛍雪がすぐさま銃を作り直し、フリードリヒの足下を撃った。


「うおっ!?」

「逆探知完了。綺炎の位置が割れました」

「唯我は?」

「……分かりません。恐らく失敗したかと」

「そうか。ひとまず綺炎を回収し、続いて洒洒の方へ向かう。いいな?」

「了解」

「蛍雪は大殿に行け。こいつらの相手は俺がする」


 首尾がそう言うと、蛍雪は死神たちの合間をくぐり、大殿へ走った。


「あっ!待て……!」

「相手は俺だ」




 途中何発かを使い、蛍雪は何とか大殿に着いた。

 重厚な扉を壊し、中に入る。


「誰もいない……?」


 試しに天井に向けて一発撃ってみるが、何の反応もない。

 道はさらに奥へ続いている。

 蛍雪の銃は同じ雪や氷を扱える者の足下を撃てば、その相手がどこを通ってきたのかが“逆探知”できる特性があった。つまりあのフリードリヒという男は、この場所を歩いていたということになる。

 しかし、戦えない者や、休んでいる者は大殿にいるはずなのだが、どこへ行ったのか。

 その疑問を抱えつつ、氷の筋を追う。


「地下に続いてる……」


 すなわち、綺炎は地下牢にいる。

 だが唯我も地下牢にいるはずだ。なぜ唯我だけ、逆探知に失敗したのか?


「なぜ唯我はいないの?―――って顔ね」


 目の前に、金髪の女死神がいた。


「ええ、そうよ。唯我を出しなさい」

「分かったわ。ついてきて」


 そう言うとその女はくるりと背中を向け、歩き出した。

 …いくらこちらが撤退の途中であるとはいえ、気を抜き過ぎではないか?

 歩調を合わせつつ、その背中の中心に照準を合わせる。

 ――と同時に、銃が砕かれた。


「……下手なことをするな。何もしなければ、綺炎と唯我を含め、お前たちにこれ以上危害を加えることはしない」


 そう言ったのは、どこから出てきたのか、黒髪の男だった。

 今はその言葉を疑っても仕方なかった。ここで仮に暴れて殺されたとしても、おそらく首尾はその死に気付かない。首尾一人で帰ってしまう可能性すらある。


「どこに行ってるの?こっちよ」


 女が示したのは、綺炎のいる方とは逆であった。


「蛍雪……!こっち、こっちだ……!!」


 唯我の声が聞こえた。

 女は言った通り、唯我のいる牢屋の鍵を開け、唯我を引き渡した。


「そのまま綺炎の方にも行くから、ついてきて」


 やがて見える道の通りに、女は進んだ。


「綺炎は両手を拘束してるけど、しばらくすれば解けるから安心して」


 綺炎も牢から出てきた。


「蛍雪……」

「先に戻るわよ、二人とも」




“唯我と綺炎を伴って先に帰還します。洒洒の回収を頼みます”


 別れてすぐに蛍雪からそう連絡があった。


「分かった。……天爛はどうする」

“どこにいるか分かりますか”

「いや、分からない」

“それでは、仕方ありません”

「そうか」

「おいおい、余裕そうにしてんじゃねー!!」


「悪いがこれ以上お前たちの相手をしている暇はない」


 首尾は洒洒の捜索を開始した。


“……一般兵の全滅を確認しました”

「……全滅?」

“ええ、確かです”

「そうか……」


 驚愕を必死に隠し通す。



* * *



―――何だこの女?

 確かに体力は消耗している様子である。だが動きに衰えが全く見えない。こちらが攻撃を仕掛ければ、それを打ち消すように反撃してくる。殺せるようなキッカケが見つからない。

 隙のない奴は強い――とはこの女を指すのか。ラインの体力もだいぶすり減って、もうあまり長くは戦えない、と自分で悟っていた。


“遅くなった。今からお前の回収に向かう。交戦中か?”

「ええ」

“ならばもう少ししのいでおけ”

「……どうしたの?少し、隙が多くなってない?」

「何を言ってるの」

「……ほら」


 その瞬間、その女の顔がすぐそこまで迫り、

 ―――右腕を斬られた。


「ぐっ……うううっ……」

「ふう。ようやく糸口が見つかったわ。おとなしく、死になさい」

「大人しく死んでたまるか、あんたみたいなガキに殺されるなんてまっぴらごめんよ」


 その女の刀を弾き飛ばした。


「誰がガキですって……!?」

「こういうこともあると思って、左でも扱えるようにはしてあるのよ……」

“待たせた。お前の姿を確認した。今から10数えたのち、お前を回収する”

「……分かった、撤退ね」

「……!!どうしてそれを」

「そりゃあ急にそわそわし始めるんだもの。そう思わざるを得ないでしょ、周りもその雰囲気だし」

“……5”

「ええ、当たりよ。ずいぶん楽しませてもらったわ。また会いましょう」




 そう言って、その女の目の前から去った。


“悪魔軍全員の撤退を確認した。任務終了だ”


 ハデスさんの声が聞こえる。


「……終わった、のね……」


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