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私の夫は鼻先零ミリ  作者: 鴉野 兄貴
銀の光の輝く人

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第三章 エピローグ 花弁は冷たい氷を割って

 吹雪が吹き荒れる真っ黒な空が二つに割れた。

空から暖かな光が差し、暖かな風が吹く。

春の香りが死者も生者も包み、部屋の隅で震えていた子供たちが恐る恐る外に顔を出す。

森の木々はいそいそと遅れた春の準備を始め、花達は一気に芽を伸ばす。


 その天の裂け目の下で抱き合う男女を暖かなお日様が見守っていた。

ちなみにその横には巨大な人間ピラミッドがあって夫がその上で座っている。

何故下の人間が潰れないのか。不思議不思議摩訶不思議。


「お熱いところ悪いんだけど、『吹雪の国』の連中は皆懲らしめてある」

夫の下でもがいている兵士たちに呆然としている『山の国』の兵士たちと辺境反乱軍はやがて一斉に噴き出した。

「助けてあげてください。多くは望まぬして徴兵された地方農民ですから」

マキちゃんからそう聞いて夫は困ったように肩を竦めた。実際困ったのだろう。


 相争う人間は『山の国』の魔導戦士だろうと『吹雪の国』の騎士だろうがぶっとばした夫。動けないのに何故か目に見える怪我もしていない兵士たち。これも摩訶不思議。「あいあい」夫はニコリと笑うとふわりと音もなく舞い降りる。

「キミは、何者なんだい? 」「うーん? 」夫はつぶやいた。「通りすがりの勇者らしい」



 伝説に曰く。

勇者は瓦礫の中、風のように舞い降りる。

嵐のように戦い、夢と希望をつむぎだし。

朝日とともに帰ってきて爽やかに微笑む。


 春の花が咲く道を私と夫は歩む。

腐敗した吹雪の国の貴族や官僚は打倒され、暮らし向きが楽になったと通りすがりの老夫婦が呟いている。

街に向かう馬車から子供たちが夫に手を振り、私を見た目ざとい何人かの子供が指先で眼鏡の形を作る。

仕官して新しい国づくりを手伝ってくれと言う話を全力で断って逃げた夫と私。


「今度の王様はホントに良い王様だ」「奥方様は山の国の王族らしい」

「ってことは将来的に二つの国は一つに」「なるのかなぁ」くす。

夫は今日も旅を続け。私は彼の鼻先で揺れる。

私と夫の距離は何時だって『鼻先零ミリ』。

なのに、どうしてこんなに遠いのだろう。

「朝日ッ 未来ッ とおちゃんは必ず夢子と一緒に帰ってくるからなッ 家をしっかり守って頑張れよッ」

彼の瞳の先には、なにが映っているのだろう。その先をいつも私は見守っている。

「おい。愛しているぞ。夢子」バカ。ウソをつけ。

「ウソじゃないって」ば~か。

山を跳び、谷を飛び越え、川を走って楽しそうに呟く夫の瞳の先には、

何時だってキラキラとしたオオゾラが見えている。


 山にはまだまだ吹雪がふくけど、谷は相変わらず氷が張っているけど動物たちが走り回り、春の訪れを喜んでいる。

春風のふく黄色い道。魔王の首を求めて私たちは旅する。

夫の名前は遥大空。勇者。私の名前は旧姓:白川夢子。現:遥夢子。

人々が希望を取り戻す手伝いをする勇者の瞳を守り、力を与える『真実の眼鏡』とは私の事だ。


(第三章 完)

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