このバカ夫!
吹雪吹き荒れる戦場で対峙する二つの軍。
一つは王国の正規軍。その内情はズタボロで無理やり連れてこられた農民兵と督戦隊を務める貴族と無法の傭兵が大半を占める。
僅かな資材を燃やして暖を取り、兵士たちは寒さに震えている。
対するは王都を目指す反乱貴族を中心とした山の国の軍。
人数には劣るが士気は高く装備は充実しており、何より指揮官である青年は復讐に燃えている。
「若様。正午の交渉決裂を持って戦闘を開始します」「うむ」
この人がマキちゃんの旦那さんね。ハンサムだけど怖い顔。
裏切られたと思い込んだ妻が逃げたのは手落ちにしても王家の暗殺者に妻と子供を殺されたと思い込んでいる彼はかつての優しい顔は無い。
王国軍のテントでは貴族や王族が各地から選りすぐった奴隷娘達と遊んでいる。この人たち危機感あるのかしら。
「反乱貴族と山の国のヒトモドキなど皆殺しにしてくれるわ」と息巻く王様はスライムみたいな体型。よく太れますこと。
騎士たちが轡を並べ、戦笛が吹雪の中鳴り響く。
炎のついた武器が盾を打ち鳴らし、戦歌が兵士たちの士気を上げる。
「我らに正義あり」「神々よご照覧あれ」「反逆者どもに死を」「栄光は貴君たちにあり」
吹雪のなか、白い雪を蹴飛ばして馬が走り出す。戦闘開始の合図だ。
白い雪が舞い振る空は昼間であることも解らないほど真っ暗で、
冷たい風は今が春だということも感じさせない。吹雪は鼻を凍らせ舌を麻痺させる。
罵声と怒号と共に斬りかからんと詰め寄る二つの軍の狭間に光が差した。
天を切り裂き、空から太陽が姿を現す。
春風が兵士たちの鼻をくすぐり、花弁が舞い降りた。
その中央、空から一組の男女が舞い降りる。
「この。この……」マキちゃん。ビシッと言ってあげたほうが良いわよ。今後の躾に響くから。
「馬鹿夫!!!!!! 私が死んだなんて誤解もいいところですッ!? 」良くやった。拍手。手なんて無いけど。
最前線で剣を取って戦うマキちゃんの夫は死を望む彼にとって不幸な事に、
そして幸いにも逆に長生きした。最前線で戦う指揮官に皆が必死でついてきてくれたおかげだ。
「マキ? ああ。天国から迎えに来てくれたのか。だが私はもう君のいる天国には」
兵士たちが光の柱に気を取られて騒ぎ、戦争が一時中断する中、
馬から降りた美青年は兜を脱いでゆっくりとマキちゃんに近づいてくる。
キッとマキちゃんがにらみつける。
「ボケるなこの! 戦争なんか起こしてッ! 」豪快な張り手が彼に炸裂。
頬を押さえて呆然とする彼に涙を流して彼女は抱き付いた。
「生きていますよッ あなたの息子もほらっ 無事ですから」
戦場の中央、抱き合う男女を尻目に夫は王国軍相手の尻拭いの戦闘に追われていた。
感動が台無しである。やっぱりうちの夫は残念だ。
まぁ。馬鹿は馬鹿なりに評価する。よかったよかった。




