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第73話:小、中、大がなくて、激、どの段階? 〜後日談・後編〜

 3日で構築したエコ・オアシス……、帰国までの猶予をがっちりもぎ取った残り4日間!

 ライナスとアルマ殿下は魔導工学研究に余念がない。……とはいえ、せっかくの合衆国滞在だ。観光も捨てがたい。


「午前中に文献調査を終わらせて、午後は目一杯遊び倒すぞ!」


 そんな計画のもと、2人はマストリア合衆国の国立図書館へ、眠い目をこすりながら朝一番に赴いたのである。

 ライナスの双子のご先祖様が遺贈したという文献を見たいがために。


「ライナス、やっぱり少し眠いな」


「アルマ殿下は寝ててよかったんですよ、僕につきあわなくても」


「なにを言う、あの王宮基幹魔導核 (メインサーバー)を開発したんだろ?その開発者が残した文献だぞ?見ないでどうする」


 フン、と鼻息荒く腕組をする殿下


「ですよね」


 苦笑いを浮かべるライナス。


 まもなくして2人が並んで座るその机の中央が青白く光り魔法陣が展開された。

 検索結果と同時に目的の文献が転移してきたのだ。


「「おおー便利すぎる」」


 2人の率直な意見だった。

 データ化されたものを閲覧するのも可能ではあったが、ここはせっかくなので現物を見ることにしたのだ。

 当時の空気感を触れて実感したいと考えたからだ。


 145年前に書かれた魔導書だった。双子の天才が基幹魔導核の思想や構築に至るまで道のり、いわば備忘録といった内容であった。

 それから丁度2年後に基幹魔導核が完成した。


 黄ばんだページをめくると、そこには数式や魔法陣の設計図と共に、双子の苦悩と熱い想いがびっしりと書き込まれていた。

 その備忘録の最後に、こんな一言が残されているのを見つける。


『――いつか、我らのシステム(基幹魔導核)をさらに最適化し、世界をより快適に変えるような、次世代のクレイジーな天才が現れることを願って。』


 それを見たライナスは、胸の奥が熱くなるのを感じてフッと微笑む。


(145年前のご先祖様……。あなたたちの作ったインフラ、いま僕が5代目として、バチバチに引継ぎました。えぇそれはもう恥ずかしい思いをしながらね、まさに黒歴史ですよまったく。まぁ後世に残す方法も最適化 (アップデート)していきますからね)


 そんな時空を超えた技術者 (エンジニア)同士の無言の繋がり (バリアフリー)を感じながら、ライナスは心の中で小さく拳を握り、技術者としての決意を新たにするのだった。




◆◆◆




 マストリアでの図書館観光を終え、無事にヴァルゼリア王国へ帰国した2週間後のこと。

 殿下の専用研究室では、試運転が始まってからかれこれ7、8分が経過しようとしていた。


「あー快適、快適……」


 殿下専用の研究室が完璧な適温と、さらりとした空気に保たれ始めた。


(あーなんか懐かしいなー……。遠い昔のようだけど、まだ2、3か月ぐらい前のことなんだよね……)


 ――遠い目をするライナス。


(忘れもしない8歳の誕生日。プレゼントの魔導書を抱えて帰る途中、路地裏で『双輪機』を蹴り飛ばしてキレ散らかしていた殿下に出会ったっけ。あの時あんなに煙を吹いてたポンコツが、今はあんなに快活に走るなんて……へー……)


 ライナスが感慨深げに、右から左へ、左から右へとシュッ、シュッと横切る殿下の姿を見つめていた。


「ライナス! 見ろ! 私の『双輪機』改修して3段階ギアを搭載してみたのだ!」


 殿下のプチ自慢の声が飛んできた。その様子に既視感を感じつつ「へー」と気のない返事をするライナス。

 次の瞬間驚愕の表情へと変貌する。


「……うっあっーーーー」


 驚きが先に立ち言葉にならない声が思わず絞り出された。

 そして、左手でおでこに手を当て、俯くライナス。


「あるまさんよー」


 それは静かに、しかし、とても通る声で殿下に呼びかけられた。


「ん? さん?」


(そう、私は知っている。ライナスが「さん」付けで呼んだ時、それは怒っている証し。ただし、そのおいかりにも段階があるのだ。

そして私はさすがに学習した、というより思い知らされたのだ、まず、小怒こおこ「アルマさんや?」次に中怒ちゅうおこは「アルマさんさ?」微妙に語尾が違うのだ、更に大がなく一足飛びで激怒げきおこしているのがこれ「アルマさんよー」である)


 汗が額を伝うその刹那。生唾をゴクリと飲んだ。

 『双輪機』でライナスの側へと、あっという間に距離を縮めた。


「どうした? ライナス……。はっ、これか? 乗りたいならそう言え、私は独り占めるするような心の狭い人間ではないぞ、ほら」


 殿下が双輪機から降りライナスへと差し向けられたのだが、ライナスは静かに指をさしながら言う。


「その魔石、どこから持ってきたんですか?」


 その指先へと自然に目が向けられ殿下が返事をする。


「あぁーこれか? 省エネとやらで、これは余ってるようだったからな……」


「余ってない、早く戻しなさい」


「やだ」


「子供か?!」


「子供だ」


「くぅー……」


 苦虫をかみ殺したような渋い顔をするライナス。


(そうだった僕たちまだ十分、誰が見てもお子様だよ、うっかり勘違いしちゃう、僕は中身が34歳だけど)


「いいから、戻しなさい」


「やだ」


「それは余ってるんじゃないの、最適化されて極限まで使用量を下げて少量の魔石をって、いいから早く戻さないと、ほら、煙が……てっ、あっ!!」


 ぷすんぷすん、ぼふぅ。


「うぉ、なんだ、何も見えない、げほげほ、煙が目に染みるゲホゲホ」


 殿下が真っ黒い煙に包まれた。

 試運転中の新型冷却魔法陣の『共同研究』から火花が散り、煙がもうもうと立ち込めていた。


「げほげほ、もう、だから言ったのに」


 ライナスも真っ黒だ。


「は? なぜだ? 魔石を私が無駄なく、げほっ、有意義な使い方をしたのが悪いというのか?」


「そうだよー、もうーどこが有意義だ」


 快適なはずが一転、試運転から10分も持たなかった。


「大丈夫かい? 2人とも。……おや、今日は殿下の研究室で新しいシステムの試運転をすると聞いて、様子を見に来たのだけれど。……どうやら完成にはまだ遠いようだね」


 もくもくと立ち込める黒い煙の奥から、何も知らずにフラリとやってきたクロード主任が、呆れ果てた顔で現れた。王族らしい気品を漂わせつつも、煤まみれの空間と、いとこである殿下を見て、やれやれとため息をついている。


「おぉークロード、よく来たな」


 まったく反省の色が見えない殿下が笑顔で出迎える。


「げほっあぁ、クロード主任、ごきげんよう。煙くてすみません」


 渋い顔で出迎えるライナス。


「……申し訳ございません、ライナス様。我が主が多大なるご迷惑をおかけしております……」


 殿下がライナスに「やだ!」と駄々をこねて爆発を巻き起こすまでの一部始終を特等席で見守っていた側近兼護衛のカイルさんが、胃の辺りをギチギチと押さえながら、魂の抜けた顔で直角に頭を下げてライナスに平謝りしていた。

 王族の天才の暴走の裏で、今日も胃薬をすする最強の側近(中間管理職)がいる。これぞまさしく、社畜万歳!


(前世で34歳、今世で8歳。僕の周りには相変わらず、バグだらけの愛すべきトラブルメーカーしかいない。だけど――うん。この世界を快適にするための僕の物語 (デバッグ)は、これからもきっと、トホホな感じでずっと続いていくんだろうな)


 ――『小、中、大がなくて、激、どの段階? 〜後日談・後編〜』 【【【 完結 】】】







ここまで『クソ仕様の魔法陣は俺が書き換える。〜4歳でSREに覚醒した没落貴族、煙を吹くポンコツ魔力自転車を「最適化」したら王子に懐かれました〜』にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!


ライナスのデバッグに始まり、アルマやカイルと駆け抜けてきたこの物語も、これにて全ての工程が完了 (コンプリート)となります。


最初は小さなトラブルの解決から始まった彼らの物語が、こうして長い旅路を経て一つの物語として結実したこと、私自身とても感慨深く感じております。


ここまで物語を紡ぎ続けてこられたのは、間違いなく、いつも温かく見守り、アクセスという名のエネルギーを届けてくださった読者の皆様のおかげです。皆様の存在そのものが、この物語を完結させるための最も大切な『核 (コア)』でした。心より深く御礼申し上げます。


物語の世界はここで幕を閉じますが、彼らの賑やかな日常は、これからもきっと、どこかで続いていくはずです。

そんな彼らの小さな思い出の欠片が、皆様の心の中に少しでも残れば、作者としてこれ以上の幸せはありません。

これまで本当に、本当にありがとうございました!


こけもも

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