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白雪姫の家族【第二部】  作者: 和泉将樹
五章 涼地での夏

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第170話 合宿二日目~作業後の一休み

 白雪の美味しいお昼ご飯の後、和樹はもちろん仕事に戻った。

 白雪と美雪が出かけるのは若干不安はなくもないが、あの木下京子が一緒なら問題はないだろう。

 ともあれ、その京子の作業を止めてしまってるのが自分なので、なんとか彼女が出かけている間に作業を済ませなければならない。


 和樹は白雪達が出ていく車のエンジン音を聞きつつ、すぐさまパソコンを起動した。

 作るのは仮のシステム概要図。

 あくまでイメージだが、ある種の理想像の『叩き』を作らなければならない。

 アイデア自体はすでにプロジェクト内でも何度も話し合ったものではあるが、最後にそれを資料に落とし込んで可視化するのが和樹の役目だ。

 無論これが最終案ではなく、あくまで叩きではあるが。


 なのだが、午前中は教授の手伝いで色々各方面への連絡のサポートやチャット、メールでの対応などに追われてしまい、予定では今日の昼過ぎからより詳細を各自に担当してもらう予定だったのが遅れてしまっている。

 自分のせいではないとはいえ申し訳ないところだ。


「先輩、あの、私も手伝いますよ」

「いや、倉持は自分の受け持ち分があるだろう。それだっておろそかにしていいモノじゃない。それにまあ、情けない話だが手伝ってもらうのは苦手でね」


 これまでずっとフリーエンジニアとして一人でやってきていたので、他人を使うということがそもそもに苦手だ。正しくは経験が全くない。

 なので、手伝ってくれるといわれても、作業を割り振るという事の方が和樹にとっては負担になる。それなら自分でやってしまった方が早い。

 これはこれで良くない傾向なのは十分承知しているし、多分今後はこういう対応は絶対改める必要があるのも分かってはいるが、今日のところは仕方ない。


「そ、そうですか……分かりました」


 やけに奈津美がしょんぼりした様子で離れていくが、和樹もあまり余裕はない。

 とりあえず作業に集中することにする。

 幸い、教授も午後は別の作業に集中することになっているので、ひっかきまわされる心配はない。そちらも手伝いは必要なのだが、そちらは渡をはじめ、院生や学部生が手伝ってくれることになっていた。

 なので一人で作業に集中するために自室に入る。


「さて……と。一気にやるか」


 軽く伸びをすると、和樹はカタカタとキーボードをたたき、マウスを動かし始めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 どのくらい作業していたのか、ふと画面下の時計を見たらすでに十七時を過ぎているのに気付いて顔を上げた。

 自室で一人で作業をしてたので、いつの間にか夕方になっているのにも気付かなかったらしい。

 お昼ご飯が終わったのが二時前だったので、三時間ほどは集中していたことになる。

 さすがに少し強張った身体をほぐすように伸ばすと、ペキペキ、という音が聞こえた気がした。


 その後に作業を確認する。

 これなら、あと一時間もかからずに終わるし、他のメンバーに作業をお願いできる状態になっている。これならもうほぼ問題はない。


「白雪達は……まだ帰ってきてないか」


 窓から外を見ると、まだ車がない。

 少し気になりはするが、滅多なことがあるわけではないだろう。

 彼女ももう大人だ。


「……これも親離れなんだろうか」


 このように寂しいと思うのはやはり保護者だからか。

 見えるところにいつもいるわけではない――むしろ家にいる時以外は一緒にいないことも多い――のに、こういう出先だと不安になる。


「まあ、俺が心配することじゃないか」


 気分転換に部屋を出ると、ロビーに降りる。

 誰もいないかと思ったら、もう一人、誰かが降りてきた。


「あ、先輩。お疲れ様です」

「お疲れ。倉持も休憩か?」

「ええ、まあ。一応もうちょっとで一段落するのですが、喉が渇いて」

「ちょっと待ってろ」


 和樹はそういうと、ロビーの冷蔵庫から麦茶を出した。

 ここにあるものはいつでも飲んでいいらしい。

 コップを二つ取り出して、氷をいくつか入れてから麦茶を注ぐ。


「ありがとうございます、先輩」

「俺も飲みたかったからな」


 そういうと、二人とも麦茶を飲む。

 冷えた麦茶が、喉を潤してくれて、何とも言えない気持ちよさがあった。


 外では蝉の鳴く音がややうるさいほどではある。

 蝉の声のにぎやかさは、都会もこの場所もほぼ同じようで、ただ、都会のそれに比べるとなぜかうるさくない気がするのは、気のせいかどうか。


「夏ですねぇ、先輩」

「まあな。とはいえここは本当に涼しいが」

「その分冬は寒いとは聞きますが」

「まあそうだな……雪も結構降るし、寒さは本当に厳しい。東北地方よりむしろ寒いといわれるくらいだしな」

「あれ。先輩冬に来たことも?」

「ん。ああ、まあな。実家がこの近くなんだよ。昔は違ったんだが、親が引っ越してな」

「え!?」


 奈津美がなぜか動揺したような声になる。


「どうした?」

「あ、いえ。その、じゃあ先輩のご両親が、近くに?」

「まあそういうことだが。近くと言っても、歩いて行ける距離じゃないぞ、さすがに。それなりに離れてはいる」


 とはいえ、車なら三十分程度だが。


「そ、そうなんですね。じゃあ、合宿後に行かれるんですか?」

「そういう予定ではあるな。ここまで近くに来て立ち寄らないというのはさすがにないしなぁ。ま、涼しいから助かるが」


 なにやら奈津美がおどおどしているようにも見えた。

 何か妙なことを言ったのかと思うが、思いつかない。


「倉持、どうした?」

「あ、いえ。別になんでもないです」

「倉持は確か合宿後、直接実家だったか?」

「え、ええ。富山ですね」

「いいなぁ。海産物美味そうだ」

「あ、あの、先輩も来ますか!?」


 唐突な申し出に、和樹は思わず目を白黒させた。


「いや、俺は実家に行くしな……それにいきなり行くわけにもいかないだろう」

「あ……す、すみません、そうですね」

「まあそのうち行ってみたい場所の一つではあるが。ま、しばらく忙しそうだが」


 合宿後の休みが終われば、いよいよプロジェクトの立ち上げまで時間は無くなる。立ち上げた後もそんな時間の余裕があるとも思えないので、少なくとも年度内は忙しい日々が続くだろう。

 官公庁や大企業が関わるから、年末年始などはゆっくりできるだろうが、特に年度末に忙しくなるだろ言う予測は現時点でされている。


「その、もし先輩が日本海側に行くことあったら、是非案内させてください。美味しい店、ご紹介します」

「そうだな。機会があればな」


 和樹は仕事で結構あちこち行くことはあったが、日本海側は経験がない。

 色々と話は聞くので一度くらいは行ってみたいと思うが。


(まあでも……仕事は別にすると、最初に行くべきは多分京都だろうな……)


 今後白雪をどうするにせよ、なし崩し的に引き取った形なのは否めない。

 法的には何ら問題はないとはいえ、やはり一度はちゃんと話をしておくべきだろう。

 夏の頭と墓参りの際に白雪の祖父である定哉とは話が出来たが、直接の保護者である貫之とは半年前のあの時以来一度も話せていない。


 和樹としては、出来るなら貫之と白雪の間のわだかまりを解いて、白雪はちゃんとあるべき場所にいるべきだという想いはある。

 そうなると自分はお役御免になるわけだが――。


(ん? 俺は……寂しいと思ってる、か)


 娘を嫁に出すのがこういう感じなのか。

 今の、白雪が側にいる生活が異様だと理解はしていて、いつか解消すべきだと思ってはいても、一方でそれを楽しく思ってるのは、否定できない。


「どうしたものかな……ホントに」

「先輩?」

「ん?」

「あ、いえ。なんか悩み事ですか?」

「ああ……うん、まあ悩みといえば悩みだが、今そう深刻な話じゃないし、今こうこうする話じゃない。当面、合宿が無事終わることを先に何とかしないとな」


 つい話し込んで時間を潰し過ぎた。


 その時、外でエンジン音が聞こえて、やがてそれが停止する。

 白雪達が帰ってきたのだろう。


「さて倉持、キリのいいところまで進めてしまおう。合宿も明日までだからな」

「あ、は、はい。先輩も頑張ってください」


 和樹はそれに頷くと、コップに残った麦茶を喉に流し込む。

 氷が解けて少しだけ薄くなった麦茶は、ただ先ほどよりさらに冷たくて気持ちよく、作業の疲労感を洗い流してくれるかのようだった。


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