旅のはじまり
私は、一通りの旅支度を整えると、王子たちとの待ち合わせ場所へ向かった。
ルカには、隠れて後を付けて来てもらうように指示する。
「いい? 私に何かあっても、絶対に出て来ちゃダメよ!
ルカが一緒だと、すぐに私がアイリス姫だって、王子たちにバレちゃうわ」
ルカは、普段よりも更に眉をしかめていたが、結局、私の指示に従った。
私が待ち合わせ場所の広場へ着いた時、そこには既に顔を合わせた5人の王子達が集まっていた。
色とりどりの髪の色に、皆、目を引く容姿をしているのため、そこだけ周りから浮いて見えた。
「お待たせ。これで皆、揃ったわね」
皆の顔を一人一人見回す私に、リアード王子が顔に笑顔を張り付けて近づいて来る。
「召使いのくせに、俺様を待たせるなんて、生意気だな。
こき使ってやるから、覚悟しておけ」
私は、怒りを内側に秘めた笑顔で答えた。
「リアード王子。私は、あなたの召使いになった覚えはないわ。
あなたの方こそ、これから私が人としての礼儀作法を教えてあげるから、覚悟してなさい」
私とリアード王子の間に見えない火花が飛び散った。
そこに、青い髪をしたリュグド王子が仲裁に入る。
「まぁまぁ、これから一緒に旅をする仲間同士、仲良くしよう。
……それにしても、驚いたな。
リュグド王子が”連れて行きたい子がいるんだ”って、妙にそわそわしていた子が、僕の同行者と同じ人だったなんて」
「なっ、俺様は、断じてそんなことは言ってないぞ!
召使だって言っただろう、召使!」
顔を赤くして反論するリアード王子を見て、リュグド王子が大人の笑みを浮かべる。
そして、よろしくね、と言って私に向かって手を差し出た。その手は、貴人であれば礼儀として着用するのが当たり前とされる手袋を付けていない、素手のままだった。
「……あ、ごめんね。
僕、手袋を着けるのが苦手で……」
素手で触れることを私が気にすると思ったのだろう。
引っ込めた彼の手を私は、むんずと掴むと、にっこり笑顔で返した。
「こちらこそ、よろしくお願いします。リュグド王子」
リュグド王子は、少し驚いた顔をしたが、すぐに優しい笑みを浮かべて私の手を握り返した。
何故か視界の端で、リアード王子がこちらを睨んでいたが、敢えて無視する。
「お、いいじゃん、その服。動きやすそうだな」
赤い髪をした逞しいアラン王子が笑顔で話しかけてきた。
私は、防具屋で買った、度装束を改めて見返す。
上は、黒色のチューブトップに若草色の上着、下は、上着と同じ色をした、腰から膝下までの長さのスカートで、片方の脇にスリットが入っているため動きやすい。
下には、スパッツという短いパンツを履いているので肌着が見えることはない。
こういう格好をするのは初めてなので、少し気恥しいが、気心地は悪くなかった。
あとは、雨や防寒対策用のフード付きマントを羽織り、歩きやすいようにかかとが低い革のブーツを履いている。
アラン王子が褒めてくれたということは、どうやらこの格好を選んで間違いではなかったようだ。
「教えてくれて、ありがとう、アラン王子。これからどうぞよろしく」
私が少し照れながら返答をすると、アラン王子は、私の頭をわしゃわしゃと撫でながら、にかっと白い歯を見せて笑った。
「ああ、宜しくな。色々と、楽しみにしてるぜ」
その精悍な顔立ちを間近で見て、私は思わず、どきっとしてしまう。
アラン王子が言っているのは、私とした賭けのことだろうか。
とにかく彼に役立たずだと見限られないよう頑張らろうと思った。
私は、先程からこちらを見向きもしようとしない金髪の男へと歩み寄ると、明るい口調で声を掛けた。
「よろしくね、オーレン王子」
そう言って、膝を曲げて軽くお辞儀をすると、オーレン王子が冷ややかな目を返した。
「…………勝手にしろ」
全身から拒絶の冷気を発しているようだ。
時間はかかりそうだが、旅をしながら、少しずつ打ち解けていくしかないだろう。
そして、最後に私は、黒髪の少年へと目を向けた。
一番最初に会った、琳 楊賢王子だ。
何故かこちらも、先程からむすっとした表情で私から目を逸らしている。
「楊賢王子。さっきは、危ないところを助けてくれてありがとう。
これからよろしくね」
私がにこやかに挨拶をすると、楊賢王子は、そっぽを向きながらも小さな声で、よろしく、と答えてくれた。
その可愛らしい頬が薄っすらと赤みを帯びて見えるのは、気のせいだろうか。
「そう言えば、まだ君の名前を聞いていなかったね。
名前を聞いてもいいかな?」
リュグド王子に聞かれて、私を含め、他の王子たちも、私がまだ名乗っていなかったことに気が付いた。
「えっと、私の名前は……」
何て答えようかと考えた私の頭に、瞬時に浮かんだ一つの名前があった。
「……アイリーン。私の名前は、アイリーンよ」
それは、亡くなった母の名前だ。
「改めて、宜しくね!」
私は、個性豊かな5人の王子たちへ満面の笑みを向けた。
一体、この旅がどんなものになるのか、全く予想もつかないが、初めて経験する冒険に私は、期待に胸が高鳴っていた。
こうして、私たちの【魔王】討伐の旅が今、始まる。




