第10章:誓いと、新たな甘い日常
耀天様の腕の中で、どれくらいの時間が過ぎただろう。
骨が軋むほどの力で抱きしめられ、首筋に押し当てられた彼の温もりと荒い吐息を直に感じながら、私はそっと彼の背中に手を回し返していた。
もう、怖くなかった。
身体が男だろうと、相手が実の義兄(摂政)だろうと関係ない。
私をこれほどまでに慈しみ、苦しみながらも愛してくれたこの人を、私も愛しているのだと完全に腹をくくったからだ。
「……蓮鳳」
ゆっくりと私を解放した耀天様の手が、私の頬を包み込む。
その黄金色の瞳には、もう理性を抑え込む苦々しさはなく、深く澄んだ情愛と、隠しようもない執着が満ちていた。
「後悔は、させん。お前が私を選んでくれたこと……決して裏切りはしない」
「……はい」
恥ずかしさで顔が熱くなり、思わず目を伏せそうになるのを、彼の手が優しく止める。
彼の顔が近づいてきて、今度は「事故」なんかじゃない、どこまでも丁寧で甘い唇の重なりが降りてきた。
「ん……っ」
優しく唇をなぞり、確かめるような熱い接吻。
元・女子高生としての乙女心が限界突破して頭が真っ白になりかけるけれど、今回は逃げずに彼の胸元をぎゅっと掴んで受け止めた。
しばらくしてゆっくりと唇が離れると、耀天様はどこか満足そうに、けれど少し意地悪く目を細めた。
「……ふむ。今度は逃げなかったな」
「っ……あ当たり前です! 腹を括ったって言ったじゃないですか……!」
顔を真っ赤にして抗議する私を見て、耀天様は「クックッ」と声を立てて笑った。
あの「冷酷無比な氷の摂政」が見せる、心からの嬉しそうな笑顔。
それを見られただけで、勇気を出して自分の気持ちを伝えて良かったと胸が温かくなる。
「さて……これで晴れてお前は私の『番』となったわけだ」
「つ、つがい!? 表現が露骨すぎます!」
「何を言う。これからは遠慮なく宮廷中に知らしめてやる。お前が私の唯一無二の存在であるとな」
「外堀どころか城壁ごと埋める気ですかーーーーーッ!?」
私がツッコミを入れると、耀天様は愛おしそうに私の額に自分の額をこつんと当てた。
「安心しろ。お前が望んでいた『静かで安全な暮らし』は、私が全力で与えてやる。毒を盛るような害虫は二度とお前に近づけさせん。……ただし、私の側からは一歩も離さん動きをするがな」
過保護と執着が1000%増量された言葉に、苦笑いするしかない。
けれど、その言葉の裏にある深い愛情が、今の私にはとても愛おしく感じられた。
◇
数日後。
「失礼いたします、蓮鳳殿下。本日の甘味をお持ちいたしました」
離宮の庭園が見えるテラスで、小蘭が笑顔でお菓子を運んできた。
噂の真相を知り、側近の趙雲輝をはじめとする周囲の者たちは「閣下が大変ご機嫌で仕事の効率が上がった」と、大歓喜で私たちを全面的にバックアップしている。
「ありがとう、小蘭」
「ふふ、殿下。最近、本当に綺麗になられましたね。とても幸せそうです」
「えっ……き、綺麗とか言わないでよ、男なんだから……」
照れてお茶を濁していると、後ろからすっと大きな腕が伸ばされ、私の腰を抱き寄せた。
「ほう。我が番の美しさは、今さら気づいたことでもあるまい」
「ひゃいっ!? 耀天様、人がいる前でいきなり抱きつかないでください!」
「何を恥ずかしがることがある。私の離宮で、私の愛し子を抱いて何が悪い」
そう言って堂々と私の頬に kiss を落とす耀天様に、侍従たちは「まあ……♡」と温かい眼差しを向け、私は再びリンゴのように真っ赤になるのだった。
(男として平穏に逃げ切るはずだった、私の第二の人生)
一時はどうなることかと思ったけれど――
この少し強引で、底なしに甘い義兄の隣こそが、私の最高の居場所なのかもしれない。
「……ずっと、側にいますからね、耀天様」
「ああ。死が二人を分かつまで、離さん」
中華王朝の風が吹き抜ける宮廷で、私たちの少し奇妙で、けれど最高に幸せな恋物語は、これからも続いていくのだった。
― 完 ―




