神(作者)の罠とS級パーティ(前座)
王女アリシアとの遭遇を「全力土下座」という荒業で切り抜けてから数日。作者(神)はよほど頭にきたのか、俺の周辺で、あからさまな罠を連発し始めた。
道を歩けば、いかにも「助けてください!」と叫びそうな美女がチンピラに絡まれている。が、俺は角を曲がる手前で気づき、即座にUターン。
食事をすれば、隣の席で「伝説の剣の在処が記された古地図」を巡る密談が始まる。が、俺は勘定を済ませ、耳を塞いで店を飛び出す。
クエストを選べば、受付嬢が「ミナセさん、実はあなたにしか頼めない特別な依頼が……」と意味深に声をかけてくる。が、俺は「腹が痛いんで!」とお馴染みの仮病で薬草採取クエストを奪い取り、逃げるようにギルドを後にした。
「……ミナセさん。最近、なんだか必死すぎませんか?」
「気のせいだ」
隣を歩くルナが、呆れたような、心配するような視線を向けてくる。うるさい。こっちは神とチェスをしている気分なんだ。一瞬でも気を抜けば、即チェックメイト(物語の主役行き)だぞ。
「今日は少し奥まで行く。高ランクの薬草が群生してるらしい。手早く稼いで帰るぞ」
俺は作者の罠から逃れるため、あえて普段は近寄らない中級者向けのダンジョン「嘆きの洞窟」に足を踏み入れた。ここなら雑魚敵もそこそこ強く、面倒なイベントも起きにくいだろうという計算だ。
しかし、ダンジョンの奥に進むにつれて、俺は異変に気づいた。
本来いるはずの魔物の姿がない。それどころか、あちこちに真新しい戦闘の痕跡が残されている。まるで、誰かが先行して、魔物を掃討しているかのようだ。
(嫌な予感がする……)
これは、作者が仕掛けた新たな罠の匂いがプンプンする。俺は警戒レベルを最大に引き上げ、慎重に奥へと進んだ。やがて、開けた空間に出た俺たちの目に、信じられない光景が飛び込んできた。
一体の巨大なミノタウロス。ダンジョンの主だろう。その巨体を相手に、まさに今、一つのパーティが死闘を繰り広げていた。
煌びやかなミスリル銀の鎧をまとった剣士。精霊の加護を感じさせるエルフの射手。叡智のオーラを放つ老魔術師。そして、聖なる光をまとう神官の少女。誰もが、一目で「S級パーティ」だとわかる、伝説級のオーラを放っていた。
「ぐおおおおっ!」
ミノタウロスが最後の力を振り絞り、剣士に襲いかかる。
「させるか!」
剣士はそれを真正面から受け止め、渾身の力で弾き返した。
(あ、これ、見たことあるやつだ)
ラノベ知識が囁く。これは「主人公に格の違いを見せつけるための、ベテランパーティの戦闘シーン」だ。この後、彼らが圧倒的な力でボスを倒し、俺みたいな若輩者に「まだまだ青いな、坊主」的なアドバイスをくれる展開だ。
案の定、剣士は仲間たちに目配せすると、勝利を確信した笑みを浮かべ、その剣を天に掲げた。
「皆、行くぞ! 我らが正義の剣にかけて、この悪しき魔獣に裁きの光を! 喰らえ! 我が必殺剣――」
「はい、お疲れ様でしたー」
その、長くて格好いい必殺技名が叫ばれる、まさにその寸前。
俺は隠れていた岩陰から飛び出すと、懐から取り出した特製の麻痺毒を塗った投げナイフを、ミノタウロスの首筋目掛けて三本、寸分の狂いもなく叩き込んだ。
「グ……ギ……?」
ミノタウロスは、何かを言いたげにS級パーティの方を向いたまま、ピクリとも動かなくなった。必殺技を放つ直前で硬直した剣士は、天に剣を掲げたまま、ポーズを決めた状態で固まっている。
シーン……と、洞窟内に気まずい沈黙が流れる。
S級パーティの全員が、あんぐりと口を開けて、俺と、動かなくなったミノタウロスを交互に見ている。
俺はそんな彼らを一瞥すると、さっさと踵を返した。
「ルナ、帰るぞ。もう薬草どころじゃない。ここは厄介事の匂いしかしない」
「え、ええ!? あの、倒しちゃいましたけど……いいんですか!?」
「いいんだよ。俺はただ、魔物が苦しんでるように見えたから、楽にしてやっただけだ。じゃあ、そういうことで、お歴々の皆様。あとはごゆっくりどうぞ」
俺はS級パーティに軽く会釈すると、まだ状況が飲み込めていないルナの手を引き、一目散に出口へと向かった。
背後で、剣士の「お、俺の……俺のフィニッシュブローが……」という、魂の抜けたような声が聞こえた気がした。
作者よ、残念だったな。俺は、お前が用意したスター選手たちの見せ場を食い荒らす、ハイエナのようなモブなんだよ。




