6ー20 邂逅④
私はロトラントさんとの夕食の場へと向かう。部屋を出ると、扉を出て右の廊下には蝋燭の火が灯っていた。左を見ると、暗闇の続く廊下があった。
左右どちらの方に行けば良いのだろうか。私は立ちすくんだ。
「アリサ・ササキ様。こちらでございます」と部屋から出てきたペニナさんが先導をする。彼女が進んだのは蝋燭の灯りで照らされている方だった。
私はペニナさんのあとについていく。微かにアロマのような香りが漂ってくる。金木犀の香りだろうか。香炉が何処かに置かれているのかもしれない。もしかしたら、燃やすと香りもでる蝋燭が使われているのかも知れない。
「普段、蝋燭なんて廊下に使ってましたっけ?」と私はペニナさんに尋ねた。
「いえ。今日は特別に使用しております」と彼女は歩みを止めず、首を振り向いて答えた。
彼女の言う通り、普段は使われていない。ワシュテアとスバルの馬小屋に行ったときだってそうだ。提灯の明かりだけで廊下を進んだ。
蝋燭の炎は揺れている。
ペニナさんは、廊下の両脇に蝋燭で灯されている道を進んでいく。蝋燭は、私の部屋から夕食の場へとしか設置されていないのだろうか。夕食の場への道を示しているのだろう。
私は、着飾った自分を思い出す。ペニナさんは、最初に私の髪型を作ってくれた。なぜか、三つ編みだったけれど。
次に彼女は化粧をしてくれた。化粧をしている間、目を閉じていてください、ということだったので私は目をずっと閉じていた。化粧筆が、瞼にきたときや、頤の下に来たときは、くすぐったかった。
目を開けると、普通に化粧をした私の顔が鏡に写っていた。美的センス、とでも呼べばいいのか、前の世界とかけ離れているものではなかった。想定の範囲内とでも言えばいいのか、予想より普通だった。
おそらく、私が前の世界にいたときに活躍していたアイドルと、私が産まれる前に活躍していたアイドルくらいの差異だろう。
強いて言うならば、頬に塗られた化粧粉は、熟した桃を想起させるような色に塗られていて、違和感を感じる。それに加え三つ編みだし、昔風純朴系アイドルのような感じで、隔世の感がある。まぁ、この場合の隔世は、私にとって世代じゃなくて世界なんだけどね……。でも、アイラインが控えめでナチェラルなのはとても普通だと思う。
まぁ、化粧に関しては好みもあるし、一概には言えないけれど、私の結論を言えば、スッピンよりは可愛くなったのではないか、と思えたということ。まぁ、所詮、私がベースだし、化粧で見栄えがよくなったといっても、大したことはないのだろうけど。
蝋燭の灯りが廊下の途中で止まっている。そしてその前には、扉が見える。恐らく夕食の場があそこなのだろう。
それにしても、なんでわざわざ目元に胡麻みたいなのを付けて、泣き黒子のようなものをペニナさんは付けたのだろうか。泣き黒子があるのって、この世界ではなにか美人の要件か何かなのだろうか。
そんなことを考えていたら、夕食の場の入口と思われる扉の前で、ペニナさんが立ち止まった。
「アリサ・ササキ様、こちらでございます」と、ペニナさんが言った。部屋の中にロトラントさんがいるのだろう。
ペニナさんが扉を叩く。扉を叩くその音が、ベートーベンの「運命」のように聞こえたのは、私の気のせいかも知れない。
「入れ」という声が扉を越えて聞こえてきた。ロトラントさんの声だと直ぐに分かった。
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