4−12 エピローグ
イコニオンの王都の城壁の門の近くに、着の身着のまま、怪我もろくに手当をされていない、ろくに食事も取っていない難民達の集団があった。
誰もが疲れている。鉛のように重い空気が、地面の底に溜まっている。赤子の泣き声が聞こえる。赤子の声以外の音に耳をすませると、聞こえてくるのは、怪我人の呻き声、すすり泣き、そして、ため息。誰もが疲れている。肉体だけでなく、心も限界まで疲れ切っていた。
城壁の高さ、18メートル。全長20キロに渡る、壮大な城壁。その門の城壁には、金色に輝くライオンのレリーフや、銀色に輝く馬の絵が無数にはめ込まれており、王都の繁栄を知らしめるには充分である。王都に訪れる者に希望を、王都を攻める者には畏怖を感じさせる。そして、難民の惨めな姿が、城壁の壮麗さをより際立たせる。
一人の男…… 壮麗な白金の全身鎧を装備した男が、彩られたマントを揺らしながら、難民の合間を走っていた。細かな装飾が施され、太陽の光を反射させながら動く彼の姿は、この難民達の中で浮きだっている。
「バルナバ神父ではないか? 」と、白金の男は、地面に座っている男に向かって言った。呼びかけられた男は、小さな女の子を抱きかかえている。
「はい。バルナバです」と言って、力なく、ゆっくりと顔をその男は上げた。そして、「ザイン様? 」と言った。
「はい。お久しぶりでございます。ずっとお探ししておりました」と、ザインは言った。
「なんとか、命を拾って生きております」と、バルナバは答えた。
「この度のタキトス村。王国騎士として深く謝罪致します。不甲斐ない事態。申し訳ない」と、ザインは言って、片膝をついて、頭を垂れた。
「謝罪は不要でございます。それよりも、至急お願いしたいことがございます。なんとか、怪我人だけでも王都に入れていただき、治療を受けさせては貰えないでしょうか。まだ、今から治療をすれば助かる命もあります」と、バルナバは言った。
「それは…… 」と、口ごもるザイン。彼は顔を上げず地面を向いたままの状態だ。
「なんとか、掛け合っていただけないでしょうか」と、詰め寄るバルナバ。
「もう一度、掛け合おう。約束する」と、彼は言った。
「ありがとうございます。あと、この子をどうかよろしくお願いします。この子を矢からかばった、この子の母親から託されたのですが、どうか、この子を貴方にたくさせてください。どうか、貴方が成せることを、為してください」とバルナバは言った。
ザインは、顔を上げた。そして、女の子を抱き上げ立ち上がった。そして、数秒の黙祷後、その子を抱え、城門の方へ全力で走っていった。
タキトス村の人々が、城内への入場が許可されたのは、それから3時間後であった。
読んでくださり、ありがとうございます。4章までお付き合いありがとうございました。5章もお付き合いいただけると、幸甚です。