表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人よ、大志を抱け!!!  作者: 植尾 藍
第4章 さまよえる異世界人
35/75

4-6

 素っ裸で、私の夜寝るときに使っていた毛布にくるまりながら火に当たっている見知らぬ男性と、同じ空間にいるのが落ち着かなかったので、外に出かけることにした。

 そういう訳で、私は彼の衣服を洗濯する為に、私は小川に戻ってきた。服の先をつまんで、服をすすいだ。衣服が、鯉のぼりのように水中でゆらゆら揺れて、衣服に染み付いた砂や泥が水に溶け、水中を舞いながら下流へと流されていく。

 私の来ているディアドルも、汚れている状況だ。特に、服の左半分(彼を支えた側)が、汚れているし、湿っている。髪の毛も、左耳付近から毛先かけても泥が付着してしまっていて、ヘアスタイリング・ジェルを付け過ぎてしまったときのように固くなってしまっている。靴の中にも、細かい砂利が入っていて、足の親指と人差し指の付け根の所に砂が詰まっている感覚がむずかゆい。極めつけは、やはり左肩が痛いということだ。これが、四十肩というものだろうか。二十代前半にして、四十歳代の体になってしまったのだろうか。




 もう仕方が無い。現実を直視せざるを得ない状況にまで来てしまった。The Point of  No  Returnだ。目を覚ませ、私! 

「ええい」

 思い切って、川の水を両手ですくって、それで顔を洗った。やはり川の水は冷たい。しかし、目が覚めるし、気持ちがきりっとする。彼を助けちゃったものは仕方が無い。今更嘆いても仕方ない。そして、彼を助けたから状況が悪化したということではないのだ。もともと、私の状況は悪いのだ。最悪に向かって進んでいたのだ。

 自分でも気付かない振りをしていて、触れないようにしていたのだけれど、私は、洞窟に避難してからの三週間、同じ服を着ている。それに洞窟には、お湯も鍋に湧かす程度にしかないから、濡れた布で体を拭いたくらいで、お風呂もシャワーも入っていない。指と爪の間も、土が詰まっていて汚い。

 私の着ているディアドルの裾なんて、最初に山に避難したときから、山歩きのせいで汚れてしまっている。かまどに溜まった灰や炭を捨てる作業を何度もした。灰をかぶってしまい、ディアドルの所どころは白っぽく汚れている。

 そうだ。メトちゃんに、シンデレラの話をしてあげたい。灰かぶり姫は、こんな感じに汚れていたんだよ、と私の現状を見せて説明すれば、物語がリアルな現実を持って浮かび上がって来るだろう。ただし、カボチャの馬車も、王子様もやってはこない。やって来たのは、瀕死の落ち武者。助けて欲しいのはこっちなのに、逆に助けを求められてしまっている。シンデレラの足にも、金の靴が合いませんでしたというようなオチのない結末よりも締まりのない私の物語。魔法使いでもなく(ロゼさん、助けに来るなら早く来て! )、ネズミでもなく、白鳩でもなく、やって来たのは、何故か落ち武者。だけど、それはそれで仕方がない。


 濯ぎ終わった彼の衣服を絞り、放置してしまっていた彼の兜も持って、私は洞窟へと向かう。剣と槍は、まだこの場所に置いたままにしていた方がよいだろう。


  洞窟に私が戻ってみたら、彼は寝ていた。念のために確認をしたが、ちゃんと寝息を立てていた。かまどの火が暖かくてうたた寝をしてしまったのだろう。彼を起こしてしまわないように、私は棚に置いてある籠を持って、また洞窟の外にでた。夕ご飯の材料として、わらびっぽい山菜を彼の分も採取して来ようと思っているからだ。彼はおそらくまともな食事をしばらく食べてはいないだろう。彼の分も作らなければならない。空腹の人間を前に、自分だけご飯を食べるというようなことは、人としてできないしね。

 しかし、彼の分の料理を作るということはつまり、ちゃんとおいしい料理を作らなければならないということだ。先日のように、灰汁あく抜きを忘れて、苦い麦雑炊を作ってしまうというような悲惨な失敗はできない。これは人としてではなく、料理を作る人間としてね。だって、まずそうに食べられたりなんかしたら、嫌じゃん。


 ワラビっぽい山菜は、木々があまり茂っていない日当たりの良いところに生えていることが多いようだ。森の中も、木々がうっそうと茂っているようで、所々に開けた空間があったりする。そういう場所に、わらびっぽいのは生えている。そして、そういう開けた場所には、倒れて朽ちつつある大木が横たわってもいる。おそらく、木が、寿命か強風か何かで倒れたおかげで、その木が葉っぱで遮っていた太陽の光が、森に差し込むようになり、わらびっぽい山菜やその他の草など、背の低い植物も生きることが出来る環境になったのだろうと予想する。そのうち、というかおそらく数十年後だと思うけど、この空間も、若木が育って大きくなり、また空を葉っぱで覆い隠してしまうかもしれない。そう考えてみると、森に生えている木にも寿命があるだろうから、森の木々の世代交代は、このように行われているのかも知れないと思う。

 さて、ワラビっぽいのは、彼の分を採取できて、かごの中に入れた。しかし、このキノコはどうしよう、と迷う。倒れた木から生えだしているキノコ。これらは果たして食べれるのだろうか? こっちのは、ナメコに似ているような気がしないでもない。そして、あそこに生えているのは、平茸ヒラタケに似ているような気がしなくもない。しかし、はっきり言うと、私がいつもスーパーで見ていたキノコよりも大きいのだ。サイズはいつもの3倍で値段は無料! なんてお買い得なのでしょう! というような主婦のようなノリで気軽に採取できたりはしない。


 まぁ、今日からキノコにも挑戦しようって決めたし。私は一念発起して平茸ヒラタケっぽいのに手を伸ばした。少し力を入れると、柄の部分がすぅっと横に裂けていく。柔らかくもなく、固くもなく、なんとも言えない心地よい不思議な感触。けっこう、キノコ狩りって楽しいかも。

 私は、その平茸ヒラタケっぽいの柄を裂く感触が気に入って、たくさん採取してしまった。鍋がキノコだらけになってしまうよ。ナメコっぽいのも一応収穫したけど、粘っこい感触が好きになれず、ナメコっぽいのは3つだけにした。



 洞窟に帰ったが、彼はまだ寝ていた。かまどにくべた薪が、燃え尽きようとしていたので、新しい薪を3本ほど追加しておいた。これで彼も暖かいし、これから料理をするので、火力は大切だ。

 まず、取ってきたワラビっぽいのを湧き水の水盤の中で綺麗に洗う。そして、前に水に浸して置いたワラビっぽいのと一緒に鍋に入れて、茹でる。とりあえず、灰汁が取れれば、なんとか食べれるだろう。鍋の水が沸騰したあとは、水盤の中にワラビっぽいのを沈めて、冷やした後、手でぎゅっと握って水分を絞り出す。そして、それを皿に盛れば、お浸し(ただし、醤油抜き。鰹節を振りかけたいなどという贅沢は夢のまた夢)の完成だ。

 そして今度は、麦を煮て、主食を作る。麦を入れてある壺から、彼の食べる分を取り出す。私の食べる量と同じ量だと、彼は少ないような気がしたから、とりあえず、私の食べる量の2倍を入れた。

 そして、さっき取ってきたキノコ達だけど、やっぱり毒が怖くて、料理する気になれませんでした。籠の中に入れたままになってます。


「痛っう」という声を彼は上げた。


 私が作る、美味しそうな麦雑炊の香りに嗅覚が刺激されて、彼は目を覚ました…… ということにして、事実関係を隠蔽しておきたい。本当は、竃で鍋が焦げ付かないように鍋底をかき回したり、竃の火加減を見たり、水を追加する為に湧き水の場所に行ったりと、竃の前を私が行き交っている際に、彼の足を誤って蹴って、そして踏んでしまったのだ。しかも骨折している左足の方を。でも、故意でないのは分かってほしい。竃の前で寝そべられたりしたら、料理を作るのに邪魔でしょうが無いじゃん。


 前の世界の台所でも、料理をする際には、ガスコンロと流し台の間を何度も往復する。そのコンロと流し台の間に、しかも足下に障害物があったとしたら、間違いなく一度は自分の足がぶつかってしまうだろう。しかも、それが人間の大人の大きさであったとしたら、一度どころではなく、度々ぶつかってしまうだろう。まぁ、そういうわけで、私はうっかりと、あくまでうっかりと、私の履いている木靴の、固いつま先部分で、彼の骨折した左脚に蹴りを入れてしまって、その後慌てたあまりに、彼の患部を踏みつけてしまった分けである。


「ご、ごめんなさい。ご飯、食べます?」と私は聞いた。


 彼は、上半身を起こして辺りを見回している。彼がこの洞窟に来た際には、寒さでかなり意識が朦朧もうろうとしていたようだったから、彼自身の置かれている状況を把握する時間は必要だろう。だけど、私が彼の足を蹴ったりして、それで彼は目が覚めたという状況の把握はしないで欲しいなぁ。


「ここは? 」と彼は私に聞いた。


「ここは村の近くの山にある洞窟です。貴方は、川で倒れていて、それから寒そうだったので、この洞窟に連れてきたんです」


「そうか。貴女に助けてもらったようだな」と言いながら立ち上がろうとしたが、立ち上がれないようだ。


「すまない。立ち上がれない。座ったままで恐縮だが、礼を。ありがとう。どうやら助かったようだ」と彼は言った。彼はまだ気付いていないようだが、彼は全裸だ。彼が立ち上がったりなんかしたら、私が困る。ちなみに、毛布はしっかりと彼の腹部から足下までをしっかりと覆っている。


「いえいえ。お互い様です。ご飯、食べますか? 」と私は聞いた。


「ありがたい。実は、しばらく水しか飲んでいなくてな。お腹が減っているということも自分で分からないくらいだ、だが、腹は減っているはずだ」と彼は自分の体調を確認するように言った。


 私は、棚から使っていないお椀とスプーンを取り、それに彼の分の麦雑炊を装って、彼に手渡した。お浸しは、一つの皿に二人分を盛ってしまっているから、洞窟の床に、彼と私の間に置いた。卓袱台ちゃぶだいみたいなのがあればいいと思ったけれど、そんな物は残念ながら無い。


 彼は、「豊穣の風に感謝を」と言って、ご飯を食べ始めた。そして、大いに食べた。がつがつ食べた。作った側からすれば、冥利に尽きるというくらい彼は食べた。「おいしい」とか感想を言わないが、食べっぷりを見ればそれは分かる。食事をしながら、お互いの自己紹介でもしようと私は思っていたけれど、彼は食事に夢中で、会話をするような余裕はないようだ。


 彼は、彼の麦雑炊を食べ、私の分のワラビっぽいののお浸しも食べてしまった。あぁ、私のお浸しを…… 。


 そして、「コーン、コーン」と、彼は空になったお椀をスプーンで叩き始めた。

 お椀を楽器にしている? 子供かよ、と彼の所作を見て私は思った。そして、彼と私は目が合った。


「ごほん」と彼はわざとらしい咳払い。そして、また「コーン、コーン」と、児戯を始めた。


 食べ終わったのなら、早く食器を洗ってしまいたいのだけど、彼の楽しみらしき行為を邪魔するのも気が引けたので、鍋に湧き水を貯めておき、その中に私の使ったお椀とスプーン、お浸し(私は一口も食べてない! )の皿を入れて置いた。


「あの、お代わりはないのか? 」と、彼は聞いてきた。


「無いです」と私は答えた。彼には、量が足りなかったのかも知れないが、作っていないから仕方がない。


「そうか。では、何か飲み物をもらえないだろうか。できれば、酒を…… 。あればでいいが…… 」


「お酒はないです。水で良いですか? 」


「ああ、頼む」と彼は言う。


 棚に置いてある使ってないコップは水盤で軽く注いでから、湧き水をコップに入れて彼に渡した。私も自分のコップに水を入れて、先ほど自分が座っていた所に座る。


 そして、彼がコップの水を一口飲んだのを見届けたあと、「私の名前は、佐々木有沙と言います。タキトス村に住んでいました。貴方は?」と、互いの自己紹介を切り出した。


読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ