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異世界人よ、大志を抱け!!!  作者: 植尾 藍
第4章 さまよえる異世界人
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4-7

「俺は、ロトラント・ミラスコロード・アルウェルスだ。ザンドロス国人の中のザンドロス国人であり、アルウェルス族の中のアルウェルス族だ。改めてお礼を言わせてくれ。助けてくれてありがとう」と彼は自分を紹介とお礼を言い、頭を下げた。


「えっと、ロトラント、ミラスコロード、あっすいません。もう一度お名前を仰っていただけますか。すみません」と、私は謝った。


 名前が長すぎて、一回で把握できなかったのもあるけれど、彼がザンドロス国の人間であるということが確定してしまい、残念過ぎて、頭がくらっとしたのが主な原因だ。イコニオンの落ち武者だったらよかったが、よりによって、ザンドロス国の落ち武者だった。侵略者側の人間ってことだ。


 それにしても、「ザンドロス国人の中のザンドロス国人」って意味がよく分からない。彼は単純に、国籍がザンドロスです、というようなことを言っているのではないだろう。自分自身のアイデンティティーを示している何かなのだろうけど、よく分からない。言い方も、少し古風な印象を受けるしね。


「私は、日本人の中の日本人です」なんて自己紹介をする人がいたら、「そもそも、日本人って何ですか? 」という様な疑問が頭をよぎる。日本人という言葉も、意味が多様過ぎて、イメージの像の焦点を合わすことが出来ない。「私は、花も恥じらう大和撫子の中の大和撫子です」と言ったら、「お淑やかで、男性を上手に立てる和服美人」というイメージだけど、そもそも、大和撫子な女性は、自分が大和撫子であるとは言わない気がしてきた。


 はっきり言って、彼の自己紹介で彼の名前は分かったが、逆によく分からない部分が増えた。まぁ、彼の自己紹介の仕方が、ザンドロス国の礼儀作法なのかも知れないから、気にしたら負けだ。


「ロトラント・ミラスコロード・アルウェルスだ」


「ありがとうございます。ロトラント・ミラスコロード、…… アルウェルスさんですね」と私は、彼の名前を頭の中で何度も反芻しながら暗記を試みる。


「私をロトラントと呼んでくれて結構だ。俺も君を…… 」と言いながら、彼は、私の両目に、彼の視線を当てて来た。


「佐々木有沙でも、有沙でも、好きに呼んでください」と、私は相づちを打つかの

ように返答した。


「では、アリサ。いくつか聞きたいことがあるのだが、良いか? 」


「私で答えられることであれば」と、答えながら、私自身の背骨が固く伸びた。


 私の返答次第で、私は殺されるというようなことはないだろうが、私の言葉によって、タキトス村の現状が、さらに悪化するように思えたからだ。彼は、落ち武者とは言え、タキトス村を侵略して来た側だ。人道的な立場から、私は彼を助けたに過ぎない。タキトス村の人達を、害する助けをするもんか、彼に協力するもんかと思う。むしろ、私がタキトス村の人達の安否を尋ねたい。


「あの、その前に良いですか? 」と、私は彼の言葉を待たずに声を発する。

そして、「タキトス村、あの小川から見える村なんですけど、そこに住んでいた人達は何処に行ったのか、ご存じですか? 」と、聞いた。この洞窟に結局だれも避難しては来なかったという事実から私の理性が推察した事柄と、私の心が願っている事柄とが私の胸で衝突している。


「タキトス村の人達が、今どうなっているかは俺は分からない。ただ、我らが彼等に一切危害を加えていないことは確かだ。あの村を占領した際、村人からの武力抵抗がなかったから、こちらからは攻撃を行っていない。あの村を占領した後は、村の北門付近に捕虜収容キャンプを作って、そこに収容した。ザントロス軍は、タキトス村の住民に、危害を一切加えてはいない」と彼は言った。

 私は、彼が「危害を一切加えていない」と言い切ったのを聞いて、少し安心をした。ほっとした。


「じゃあ、みんな何処へ?」と私は聞いた。みんなが無事であるのなら、そこへ行くべきだろう。バルナバ神父、コルネリウス、メルさんだって、私のことを心配してくれていると思う。


「それは本当に分からない。イコニオンの軍団が攻めてきて、戦闘になってからは、村人のことなんか、すまないが俺の意識からは消えていた。だから、その後の彼等の消息は分からない。イコニオン軍は、北側から村に攻めてきたし、北門付近にタキトス村の住人が捕虜として捉えられていることが、目視で確認できるようにはしていたから、イコニオン軍に救出の意思があれば、村人は救出されているとは思うがな」


「そうですか。分かりました」と私は言った。


 確かに、太鼓の音や、ラッパの音が鳴り響いていた日に、私の見た光景と、彼の言葉は一致しているように思える。北側からやって来た軍隊と、村の中にいた軍隊が北門付近で戦っていた。教の朝、村を見に行ったときにも、教会の椅子が北門に積み上げられてバリケードのようになっていたし、北門が戦場になった形跡もあった。

「あ、あれ? 」と、私の頭に疑問が浮かんだ言葉が、声となった。


「ロトラントさん、イコニオンの軍隊が北から攻めてきた時も、タキトスの人達は、北門付近の…… 、その捕虜収容キャンプってところにいたんですか? 」


「その通りだ」と彼は言った


「あなたたちは、イコニオン軍が、北から来るのを知っていましたよね? 北門が戦場になるって、知ってましたよね? 」


「もちろんだ。過去の幾たびの戦闘もそうであったし、今回もそうなった」と、毅然とした態度で言うロトラントさん。


「そうですか。すみません。私、少し散歩してきます」


 私は、ロトラントさんを置いて、洞窟の外に出た。太陽はすっかり傾き、辺りは夕暮れの赤色で染まっていた。私は、タキトスの村へ向かった。


 私は、村の北門までやって来た。朝と変わらない光景、長椅子が積み上げられている。朝と違うのは、夕日に照らし出された椅子が、薄茶色から赤色に変わっていることだ。夕暮れの作用だろう。


 私は、積み上げられた椅子を調べた。木の木目が夕日に照らされて、手首付近に見える血管のような様相となっている。そして、私の予想していた物が見つかった。それは、椅子に突き刺さった弓矢だった。途中で折れてしまった矢が、椅子に刺さったままになっている。いくつも。


 朝、村を見たときの違和感、それは、村が異様に整頓されていたことだ。椅子のような粗大ゴミはそのままのようであるが、弓矢や剣が、落ちているというようなことはなかった。そして、死体も村にはなかった。弓矢や剣は、再利用される為に、回収されたのだろう。そして、死体は、あの日見た、空へと登る黒い煙が答えだろう。


 椅子に突き刺さった途中で折れた弓矢は、再利用することが出来ないから、そのまま放置されたのだと思う。もしかしたら、抜こうとして、途中で折れてしまったので、そのまま放置されたのかもしれない。


 弓矢の残骸が突き刺さっている方向は、積み上げられた椅子の北面と、上方だけだった。南側はなかった。弓矢は、北から飛んできて、ここへ突き刺さったものだろう。椅子に突き刺さっている矢の数も、もっと多かっただろう。鏃(やじり)の跡のような菱形の穴が、椅子に、天の星空のような文様を作っている。星空のごとく無数に、それこそ雨のように降り注いだと、無数の菱形の穴が、聞きたくもなく、知りたくもないのに、私の耳元で物語ってくる。

 そして、そして、その弓矢が降り注いで来たその時間、そして、この場所に、村の人達は、ここに居た。いや、居ることを強要されたのだ。


 私は、東門の方へ向かった。そして、東門から、畑へと向かった。

 畑には、土が盛られて、一つの塚が出来ていた。高さは私の身長よりちょっと高いくらいで、直径も3メートルくらいだろう。傾いた太陽は、私の影を、どこまでも長くしている。私の影が、塚の端と接した地点で、私は足を止めた。


 ここが、どのような場所であるか、私は、何故か分かってしまった。ここは、科学も全然発展してないし、文化も風習も、時々言葉の使い方もよく分からないし、七竈(ななかまど)の実を燃やしたりする可笑しな祭りもあるし、しかもそのお祭りの効果も村人の願いも届いていないし、そもそもここは、突拍子もない異世界のくせに…… 。前の世界と違うことだらけだったのに…… 。でも、この塚がなんなのか、私には分かった。ここで、この塚で眠っている人達がいるということなのだ。


 私は村の西門を抜けて、小川に行った。そして、草陰に隠しておいた剣を拾って、洞窟に戻る。剣は重かった。2キロぐらいあるかもしれない。とても重い。何度も、山道で捨ててしまおうかと思ったけれど、結局、自分の手で持って、洞窟まで辿り着いた。


「ロトラントさん、戻りました」と、竃の火に当たっている彼に向かって私は、言った。


「おう、もどったか…… 」と、言いながら振り返ったが、彼は、その後、彼は言葉を発しなかった。それもそうだろう。右手に、刀身がむき出しになっている剣を両手で持って、私が立っているのだから。闘気とか、殺気とか、漫画やアニメの世界ではよく描写されているようだけど、そのような物があったとしたら、それを私は発していて、そして彼はそれを感じ取ったのだろう。


「ロトラントさん、聞きたいことがあります」と、私は言った。もちろん、彼に嫌だと言わせるつもりもない。


「何をだ? 」と、彼は答えた。「何を」と応答するということは、彼に私の質問を答える気持ちがあるようだ。


「なぜ、村人を北門付近に、居させたんですか? そこが戦場になるって、分かっていたはずですよね? 」と私は聞いた。


 その後、沈黙が流れた。おそらく、十秒くらい。そして、彼の口がやっと動き出した。


「タキトス村の人間があそこにいれば、イコニオンの奴ら、弓を放てないんじゃないかという判断があったんだ。イコニオン軍を、弓を放てない状況に追い込み、イコニオン軍を弓矢で殲滅できる。その方が、近接戦闘よりも、遙かに味方の被害は少ない

」と、答えた。それは、概ね予想した通りの答えだった。


 しかし、イコニオン軍も弓を放った。そして、着の身着のままのタキトスの人達に、弓矢が降り注いだ。私の頭の中に映画のように鮮明に、北門での戦闘光景が浮かんだ。コルネリウスの顔がはっきりと見える。お母さんに抱きかかえられながら泣いているメトちゃんの顔がはっきりと見える。旦那さんと手を固く繋いでいるメルさんの顔が浮かぶ。


 私は両手で持っていた剣を、頭上高くまで振り上げた。そして、ロトラントに近づく。


「助けておいて、殺すのか? 」と、彼は動かず、静かな声で言う。私の両目から、涙が零れる。


 私は、剣を彼に向かって振り下ろした。重力に従って加速している剣に、自分の筋力を付加し、より早く、より強く、力一杯。


 剣は、彼の両足の間、洞窟の地面を斬って、そのまま地面に刺さった。彼の頭に向けて振り下ろしたつもりだったけれど、全然彼に届いてもいなかった。


「もう二歩、踏み込め。そうすれば斬れる」と、彼は言った。彼は、避けようとする動作すらしていない。


 私は黙って剣を地面から引き抜いた。だが、もう一回剣を持ち上げて、振り下ろす気持ちにはなれなかった。洞窟の外の藪の中に、その剣を投げ捨てた。


読んでくださりありがとうございます。

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