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ロゥカス!  作者: 結倉芯太
2章
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11.思惑


「色々と聞きたいことは山ほどあるんだけど、とりあえず一発叩かせなさい」

「まぁまぁ、想像以上に上出来な結果じゃないかパティ。期待してなかった分、この成果は非常に嬉しいものだ。しかし、私達を放置していたという点においては全く感心できないがな」

 パティとフランの表情は温和ではあるが、あきらかに言葉に刺がある。

「……私も一度痛い目に遭ってみてもいいと思う」

 少し言過ぎじゃないかとアリエルが思ったところに、リオが容赦のない追撃を見舞う。

 あれから急ぎ二人と合流し、リオ宅で夕飯を済ますところまでは良かったが、やはりというか、予想通りというか痛烈な批判が飛んでくる。そんな状況が続く中、見苦しいとおもったのだろうか、リエラ達は夕飯を食べると家に帰ってしまった。ディエゴも今日はそちらにやっかいになるようで、寝具片手にひょこひょことリエラの後についていってしまった。

「いやぁ、……面目ないです」

「アンタの言葉に反省の色が全く見えないんだけど?」

「そ、そんな事はありませんよパティさん! 私、すっごく反省シテマスヨ!」

「おいおい、内輪揉めはそこらへんにして、少し仕事の話をしなくていいのかー?」

 アリエルの旗色が悪い状況下で、救いの手を差し伸べたのはアツトだった。

 彼はここいらへんでは見かけない東洋の服を纏い、腰には先端が湾曲した変わった剣を携帯している。どういった経緯でリオと同行しているかは知らないが、彼女が何も言わないのであれば、それはアツトを信用しているということなのだろう。

 そして、夕飯を終えたアリエル達はこちらに滞在する間くらいはリオの仕事を手伝おうと提案したのだった。

「まずは情報が欲しいわね」

「そうだな、私達はスーペルに滞在したことがない。せめて街の構造や最低限のマナーくらいは知っておきたいところだな」

 ついさっきまで怒り心頭の状態だったはずの二人が切り出した。こめかみの青筋は消え、目線はしっかりとテーブルに開かれた町の地図に向いている。つくづく頭の切り替えが早い女性だ。そして、長かった責め苦が終わったことにアリエルは胸をひと撫でする。

「ああ、そうだなぁ。いきなりこの街の治安維持活動なんかできるわけねえしな」

「……アツトも知らないのは同じ」

「うわぁ、知ったかぶりってカッコ悪い……」

「アリーもたまにやってる事じゃない」

「ひどいパティ、私は知らなかったら後で聞いてるじゃん。アレはきっと言われなければスルーするタイプのやつだよ! 本当にダメな人がやる類のヤツだってば」

 心外だったので一言言い返してやらなければ気が済まない。

「……ねえ、俺何気に酷いこと言われてね?」

「さて、非難のやり合いはその程度にしておこうか。まずは地理から、リオすまないが出来るだけ簡略に説明してもらえないだろうか」

 フランはアツトの愚痴を何事もなかったかのように流しつつ、話を続ける。その傍らで「くすん」と独りごちていたアツトには少し同情してしまいそうになる。

「ここスーペルは大きく言うと、西と東でわかれている。西側は比較的治安の良いどちらかというと、身分の良い人達が住む区域。店も高価で品質の良いのを取扱ってる。東側は貧困層から一般層までの人達が多く住むエリア、西と東は大きな街道でつながっている。この通りがスーペルで一番の賑わいを見せる場所なの」

「当然街の交流基点であり、流通のメインてわけね」

「ああ、街の情勢や犯行グループの情報を集めるなら、ここほど都合の良い場所はあるまいな」

「となると、次は班分けだろうなあ、俺は楽な方がいいわけなんですが」

「班分けかぁ、なら情報収集側と実動班側と分かれるってことー?」

「そうそう、だって折角大人数で調査できるんだぜ。なら分担しないと損じゃないか?」

 アリエルの問い掛けにアツトは実に軽薄そうな笑みで答える。

「とりあえず地理に疎い私達が情報集めに大通りに出るべきね。リオとアツトさんにはスラムの巡回と調査をお願いする形でどうかしら」

 パティの案に皆が頷く。

「で、調査範囲はどうするわけ? 俺はそんなに広くする必要はないと思うがね」

「そうね、依頼ではスラム街近辺という話だったかしら」

「……うん、スラム街から北の端、英霊の(カタコンベ)の入口までなら範囲に入れてもいいと思う」

「つまり俺たちは街の北東エリアの調査をやればいいってわけね」

 これで各々の役割が決まってきた。詳細は班毎に詰めればいいだろうと考え、明日の夕刻にまた集まることを約束、夜も更けてきたことから三人は宿に戻ることにした。

 大通りではまだ夜店の明かりが灯っているらしく、それがスラムの間道まで漏れ、宿までの道のりは迷わずにいけそうだった。

「なんかワクワクするね! でもなんだろう、このワクワクの感じが前とは違う気がするんだよね」

 確かに友人の仕事の手伝いに胸が躍っている事は確かなのだ。しかし以前とは明らかに何かが違っている。そんな違和感を教えてくれたのはパートナーであるパティだった。

「当然でしょ、前とは比べ物にならないわよ。トラヴァーリは国、今は誘拐犯の確保、規模は全然小さいでしょ。それに私達が来てからはまだ犯行は行われてないわ。なら私達がここに滞在する間に終わりにすればリオも喜ぶし、アンタだって給金が得られる。みーんな、万々歳ってわけ」

 それを聞いたフランが思わずといったように苦笑いをする。

 それもそうだ。前回は彼女の依頼であり、彼女の全てがかかっていた。しかし、自身の命すら省みようとしなかったくらいに本気で守りたかったものは、あっさりとこぼれ落ちていってしまった。フランの努力も虚しく、結果大好きだった父親は内乱で亡くなり、大切な祖国は他国の傀儡政権の樹立を許すに至った。

「そうだな、危険があれば引くことも出来る。無理にこなす必要のない仕事だ。手抜きは駄目だが、気楽にやればいいだろうよ」

 そう嘆息気味に言葉を紡ぐのは、きっとあの時の辛さを乗り越えることが出来たからだろう。

 最近は堅苦しい雰囲気もなくなり、口調も時々ではあるが女性らしいものになる。

「気楽にかぁ、そうだね、私達でサクッと終わらせちゃおー」

「アンタねえ、気楽にとは言ったけどそんなに簡単に終わるわけないでしょ、私達が滞在できるのはせいぜい二日程度。さっきはあんな風に言っちゃったけど、その間に犯人確保は正直厳しいわ」

「まぁ、実際に手伝えるのは情報収集くらいだろうな。出来るだけ確実で信頼できる筋からの情報を集めなければいけないな」

「だね、でもさ『信頼できる筋』ってのは不可能じゃないの?」

「そこはギルドの力を借りればいいのよ。こういう時こそ魔闘士の権利を使わなくてどうするのよ」

「なら、明日はまずスーペルのギルドだな。積荷の配達もあることだし、ついでにそういった情報に詳しい人を教えてもらおうじゃないか」

「よおし、なら早く宿に戻って明日に備えよー」

 アリエルが右拳を突き上げて、二人を先導するように歩き出す。

 が――、

「……誰だか知らないけど人の後ろをつきまとうような趣味でもあるのかしら?」

「どういった理由か知らないが、お引取り願おう」

 足の歩みを止めたパティは鋭い目線を後方の裏路地につきつける。フランも腰を屈め、臨戦態勢にはいっている。二人は何者かの気配を悟ったらしく、警戒レベルを一気に引き上げる。アリエルも直ぐに腰のガンホルダーに手をかけ相手の出方を伺う。

 すると、

「いやぁ、三人とも中々に素晴らしい。気づかれてないとばかり思ってたんだけどねぇ」

 聞き覚えのある声。路地裏の闇から出てきたのはアツトだった。ヘラヘラとした怪しい笑顔に三人は不信感を抱く。

「で、リオの家にいた貴方が私達に何の用だ?」

 顔見知りであっても、警戒は解いていない。それもそうだ、闇夜に紛れ女性三人の後をつけるなど、何か理由があってもおかしくない。

「そんな険しい顔するなよ。俺はただ嬢ちゃん達が無事に宿に辿り着けるか見守ってただけだぜ」

「それなら結構です。三人とも魔闘士ですから自分の身くらい自分で守れますよ、アツトさん」

 はっきりと疑いをかけられているのに、飄々とした口調で理由を話すアツト。そんな言葉は当然信用できるはずもない。

「確かに、俺の気配に気づいたくらいだ。嬢ちゃんのレベルならそこいらの暴漢は太刀打ちできないだろうなぁ。それなら安心だ、俺もどっか適当に寝座(ねぐら)を探すとするか、ふぁ~」

 大きな欠伸をしてアツトは踵を返す。

「……なんなの?」

「さあね、何の思惑があったのかは知らないけど、怪しいことには間違いないわね」

「ああ、リオも心配だな。明日は彼の素性も少し探る必要がありそうだな」

 アツトは一体何の目的で接触してきたのか……。

 やけにアッサリと引き返す相手に三人は釈然としないまま宿へとむかった。



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