第73話 荒療治的食卓
『疲労困憊』という言葉をこれほど実感したことはなかった。
「お兄ちゃん、今日はなんだか疲れてるね?」
食卓の席について大きくのけ反って脱力する俺を、可愛い妹の緋奈が料理を並べながら覗き込んでくる。
まったくその通りである。とはいえ、今日というよりは今疲れたのだが。
アイソドシンクを入浴させる、という突発性のミッションを俺はどうにか完遂した。
その結果の疲労なのだが、俺を疲れさせた当の本人はというとご満悦といった感じで俺の部屋へと入っていった。
流石に神様は、良い御身分である。
「まー、生きてればいろいろあるよ……」
ここ最近、いろいろありすぎだが。
向かい側の席に緋奈が座り、二人揃って「いただきます」と唱える。
「そんなに疲れてて、明後日の約束大丈夫?」
心配そうな顔で緋奈が尋ねてくる。
俺の心配をしているのか、それとも予定の心配をしているのか。
まあ恐らくどっちもだろうけど。
明日からゴールデンウィークに入るということで、俺は緋奈一緒に出掛ける約束をしていた。
俺には特にこれといった予定もなかったので、別に明後日と言わずに明日でも良かったのだが、残念ながら緋奈の方が友達と約束があるというので明後日になったのだった。
まあタイミング良く疲労困憊な俺ではあるので、ここは偶然に感謝して明日は一日、『休日』という名の通り休ませてもらうとしよう。
「心配しなくても大丈夫だよ。明日はゆっくりしてるし」
「本当? ならいいんだけど。明後日の予定はすごい重要だしね」
「そういえばどこに行くんだ? まだなんにも聞いてないんだけど」
「え、言ったでしょ?」
「ん? 聞いたっけ? 全然記憶にねえんだけど……」
「言ったよ。着いてからのお楽しみって」
「それは言ったって言わねえよ……」
「まあいいじゃん。そういうことで。お兄ちゃん可愛い妹とお出掛け出来るだけで嬉しいでしょ?」
「まあ……」
図星でしかない。
「ふふ、お兄ちゃんって本当にシスコンだよね」
「おい待て、俺に不名誉な称号を付けるんじゃない」
「どうして? 本当のことだし、別に恥ずかしいことじゃないでしょ? 兄妹の中が良いのは良いことだし」
「そうだけど! っていうか、そしたらお前ブラコンていうことになるけどいいのか?」
「私はそう公言してるもん」
「公言してんの!? どこでだよ!?」
「私の学校では有名だよ?」
「情報網の中心地でなんていうことを……」
「その方が男子とか寄ってこないし、お兄ちゃんも安心でしょ?」
「む……そう言われると確かに………いや待て、お前の学校女子校じゃん!」
「あはは、バレちゃったか。じゃあ今度は街中で言うね」
「絶対ヤメロ!」
疲れている俺は叫んで更に疲れたのだが、それを見て緋奈は楽しそうに笑う。
まったく性格の歪んだ妹である。
ただ、その笑顔を見てるだけで俺の疲れは9割方吹き飛ぶので、それでよしとしておこう。
そんなことを考えながら、俺は食事を再開したのだった。




