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08.朝に目覚めるもの

目を覚ませば今日も清々しい朝だった。

雨天でなければ、曇天でもない、外からは鳥の囀りが聴こえカーテンの隙間からは光がわずかに差し込んでいる。

今日も今日とて目覚めのいい朝だ。

ここだけならいつもと変わらない朝のはずだが、昨日までのことをふと思い返し意識を覚醒させる。


帰路で偶然地球外生命体と邂逅して、ひょんなことから居候だなんて何度思い返しておかしいと思う。

…もしかしたら夢だったんじゃないかと思うくらいだ。

しかもその宇宙人はただの宇宙人でなくて、かの自分も知ってる神話作品に登場する蛸に似た海洋生物だったりと……

朝貴は頬をばしばしと二回叩き、起こしたばかりの身体を動かしベッドから降りる。

部屋を出て、はきだめと言っても過言でなかった物置部屋に向かうこともなく足早に階段を降り居間へと駆け付ける。

扉を開けると驚愕の光景が広がっていた。


「……ああ、お前か。」


眠たそうな表情で半分しか開いていない目、透き通るような蒼い髪の毛はぼさぼさになっていた。

昨日まで着ていたスーツのジャケットを脱ぎ、シャツを着崩した状態で我が家に居候している邪神はそこに居た。


「…クトゥルーくん、おはよう。」

「………おはよう?」


いつも通りの朝の挨拶に若干困惑気味の邪神に朝貴は後で色々挨拶のこととか説明しておこう、と意気込み、椅子に座っているクトゥルーの前に朝貴は向かい合って着席した。

テーブルの上にはトースト、サラダ、スクランブルエッグやベーコンエッグ、そして林檎やバナナが盛り付けられた皿が置かれていた。

この朝食のメニューはいつも通りだ。

目の前では低血圧なのか眠たそうな表情のまま無言で黙々とトーストをぎこちない様子で頬張っているクトゥルーが居た。


「…お母さんは?」

「仕事だと言って数十分前に出て行った。朝食は作り置きだ。」


そこまではまだ予想内だ。両親は共働きで父は仕事の都合で県外に長期単身赴任してるし、母は朝早くから出て行くことが多い。朝食のことも然り。

だが朝貴が思うにはクトゥルーと言うと、封印されているため海底都市ルルイエで長い間眠っているといわれているためか余り寝起きの良さそうなイメージはない。

もしかして人間形態の時は違ったりするのだろうか。そもそも彼が人間の形態を取れるかも不思議だが。

だが表情はどこか微睡んでいて、まだはっきり目が覚めていないような様子だ。


「クトゥルーくんはよく眠れた?」

「微妙だな。封印されている時ほどではないが、まぁ寝心地の問題もある。

この躯なら悪くない。」


半分になったトーストを手で小さく千切り、口に運ぶ仕草はまだ人間の身体に慣れていないようにも感じられた。

まぁまだ二日目だし、慣れていなくて当然だろうなと朝貴は思う。

これからSAN値も削られる名状しがたき生活が始まるのかと思うと、心なしか背筋が凍える。


ふとクトゥルーは咀嚼していたトーストを飲みこみ、口を開いた。

「お前、今日は時間あるよな。所用があるから付き合え。」


朝貴がトーストに伸ばしかけていた手を放し、顔を上げた。

射抜かれるような真っ直ぐな瞳でクトゥルーは朝貴を見据えた。

…というか、相手に選択肢の猶予も与えないなど高慢なクトゥルーらしいと言えばらしいと言える。

拒否権はないらしい。


「所用って?」

「市内を軽く探索する。もしかしたら目ぼしいモノが見つかるかもしれないからな。情報収集も大事だ。」


"モノ"とは"物"と"者"のどちらなのか頭を傾げる。

市内にそう神話生物的クリーチャーが早々潜んでいるとは否定しきれないが、本来のクトゥルーの目的を考慮すれば理解できるかもしれない。


「あ、でも私、今日学校あるから夕方からじゃないと無理だよ?少しの時間だけなら大丈夫だけど。」

「良い、俺一人でも詮索することは可能だ。」


もう一人で行った方が手っ取り早い気がするが、まぁ街中で突然何を起こすかもわからないし自分が居ないと拙い気がするので、朝貴は黙って同行することにした。

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