09.待ち構えるもの
もうすぐクリスマスですね。リア充の永遠の破滅を願って皆で「旧支配者のキャ●ル」を歌いましょう!いあ!いあ!
騒がしい喧騒の中、朝貴は座ったまま背伸びをする。
朝のクトゥルーとの約束を忘却することもなく、朝貴はしぶしぶと鞄を取り出して支度を始める。
「帰ってくるまで待っていて欲しい」と言ったものの、少しでも遅れたら怒号が飛んで来そうで恐ろしい。
既に午前中に探索をしていたんじゃないかと思うが、市内は結構広いし見ず知らずの土地でしかも一人で大丈夫だったのだろうか。
いくら神話レベルの邪神様だったとしても、心配なものは心配だ。
例え地球の命運を握っていたとしても、というと微妙だが。
「はぁ………」
自然と口からは溜め息が漏れだす。
別に心底厭というわけではない、生理的に出るのだ。
決して気が進むようなことでもないが、まぁここは居候との付き合いでもある。
ついて行くのは決定事項なのだから仕方ない。
そう思いながらも朝貴はしぶしぶと鞄に教科書を詰め込み始める。
すると、そこに一人の女子生徒がやって来た。
朝貴の友人だ。
「あれー?朝貴、なになに元気ないじゃん。」
「いや、そういうわけじゃないんだけど…ちょっと気が重くて。」
「大丈夫?風邪ー?」
「そんなんじゃないよ、光子。じゃあ、私早く帰らないといけないから。」
光子、というのは彼女の名前だ。高校に入学してから出来た気心知れた友人だ。
朝貴は教科書が詰め込まれ重くなったスクールバッグを持って、立ち上がる。
教科書で重さが加担された鞄のせいか、朝貴の足取りも重くなる。
光子に「気をつけなよーバイバイ」と手を振られ、朝貴も「またね」と言って控え目に手を振って教室を出た。
廊下に響く喧騒がまた朝貴の耳を突いた。
***
昇降口には沢山の生徒たちが屯していた。
恐らく部活動に未所属の生徒たちと思われる。
数人で集まって立ったまま話しこんでいる。
朝貴の場合、一緒に帰る友人が居ないわけではないが光子とは自宅の方向も違うし、他の友人たちは部活に所属している者ばかりなので帰宅時はどうしても一人になりがちだった。
同じ帰路の生徒が居れば、このアンニュイな気持ちも少しは紛れたかもしれないが。
靴に履き替え、外へ踏み出す。
朝と同じく、特に天候が急変するということもなく空には澄みきった青と白く洗練されたような雲が疎らに浮かんでいた。
まだ日は傾いていないものの、夕方に近い時刻だった。
クトゥルーを待たせないようにと心がけ、朝貴は早足で歩きはじめる。
ふと、前を見て目にとまったのは校門の人だかりだった。
数人の生徒が、特に女子生徒が足をとめて一点を見つめていた。
朝貴の方からは壁が死角となって見えない状態だった。
一体何の騒ぎかと不思議に思いながらも校門に近づいていく。
そこには驚きの人物が居た。
我が家の居候がそこに居るではないか。
腕組みをして壁に寄りかかり、一部の女子生徒たちが見つめてるのも余所に向こうを眺めていた。
お馴染の着崩したスーツに海を彷彿させる蒼い髪に蒼い双眸、日本人離れした長身はどう見てもクトゥルーである。
朝貴は考える間もなく、反射的にクトゥルーの元に向かった。
そして目の前にまで行き立ち止まった。
「な、何でここに居るの…」
「漸く来たか。遅い、いつまで待たせる気だ。」
「そうじゃなくて!何で学校のこと知ってるの!?」
「先程まで探索をしていた。町内を歩いていたら偶然此処を見つけてな。
お前と似たような服装をしている人間が居たから、お前も此処に居ると思った。」
クトゥルーは当たり障りのないような口ぶりで悠然と話す。
てっきり匂いで辿ったとか、GPSみたいな機能をいつの間にか付けていてそれで居場所を特定したとかではなく、意外と良識的で良かった。
未知の地球外生命体だから何をしてもおかしくない。
と言っても、学校の前で待ち構え生徒が立ち止まって見るほど注目を浴びるなど思わぬ出来事だった。
今でも先程の女子生徒たちは若干驚いたような表情で朝貴のことを見てるし、朝貴もまさかクトゥルーが来ているなんて微塵も思わなかった。
そして同時に、女子生徒の注目の的になるほどクトゥルーは若者受けするような容貌だったのだと再確認した。
この時、人間に化けた邪神の待ち伏せほど恐ろしいものは無いと朝貴は痛感した。




