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第八話

 遅くなりました。今回は符について説明を少し。




 

 



 次の日、宿にて俺は昨日消費した符を補充するために、朝のうちに買ってきていた大きな紙を切り分けていた。

 ゲームの頃からそうだったのだが、基本的に符は市場には出回っておらず、自身で作る、もしくは生産系のプレイヤーに作ってもらうのが常だった。作り方は簡単で、墨か血液、それと紙があれば作れるのだ。この血液というのは、魔物の血液でも自身の血液でもいいのだ。墨で作った場合は通常の符が出来上がるのだが、血液を使用した場合は付与効果が出るのである。

 魔物の血液の場合、例えば火属性の魔物の血液を使用すると、火属性の符術には十パーセントダメージ増、水属性の符術には十パーセントダメージ減というふうに付与効果が出るのだ。意外とこの十パーセントが大きいのだ。

 そこで出てくるのが、自分自身の血液である。これを使えば、全属性の符術に五パーセントダメージ増の付与効果が出る。なかなか強い効果なのだが、自分自身の血液を使うリスクを考えると妥当な効果なのかもしれない。自分自身の血液を使う際のリスクは、使いすぎると『失血』という状態異常になり、全ステータスが十二時間半減するという、とても手痛い状態異常を喰らってしまうのだ。

 まぁ、その対策として、ちょくちょく小瓶に血液を貯めては、インベントリにしまうということをして来ていた。だから、今回も問題なく自身の血液で符を作ることが出来る。


「よし、これぐらいでいいか」


 紙を切り終えて符を作ろうとしたところで、部屋のドアをノックされた。ドアを開けると、そこに立っていたのは宿の看板娘ミランさん(24)が立っていた。


「ミランさん?どうしたんです?」

「こんにちわ、ユリィさん。突然で申し訳ないんですが……」


 なんでも今日は二ヶ月に一度行われている大掃除の日だったらしく、夕方までは立ち入り禁止になるのだそうだ。そのことを昨日のうちからこの宿に泊まってる人達に連絡していたそうなのだが、俺は昨日宿についてからすぐ寝たし、今日の朝も宿の人には会わなかった。


「すいません、連絡が遅くなってしまって」

「いいですよ。でも二ヶ月に一度大掃除なんてすごいですね」

「いつも綺麗な部屋を提供するのが私達の経営理念でもありますし。毎日の清掃だけだと取りきれない汚れとか溜まってしまいますから」


 本来ならお客様を追い出すようなことをしなくてもいいように人手が欲しいんですがね、と言ってミランさんは笑っていた。


「わかりました。じゃあ、夕方まではどこかで時間潰しますよ」

「はい、お願いします」

「じゃあ、頑張ってくださいね」

「ありがとうございます」


 俺はインベントリにアイテムを仕舞い込み、宿を出た。


「さて、時間を潰すといっても、何をするか」


 符を作るつもりだったし、符をどこかで作るかな。





   †





 結局いい場所が見つからず、ギルドホールの一角に陣取って符を作ることにした。ギルドホールは酒場のようになっていて、昼間から酒を飲んでいる奴もいれば、パーティーメンバーと打ち合わせや待ち合わせ、メンバー募集をしている奴もいた。


「結構騒がしいな……」


 まぁ、主に騒いでいるのは酔っ払っている奴等なんだが。

 俺はそんな中黙々と血液で紙に文字を書いていた。前ならアイテム合成で出来ていたのだが、アイテム合成が出来ない今は手書きしかなかった。アイテム合成が出来ないと気付いた時は焦ったが、試しに一枚だけ見よう見まねで手書きしたところ、何の問題もなく使えたので手書きをしている。しかしながら、この作業が意外にも大変であった。


「おっと、危ない危ない。間違えるところだった」


 見よう見まねで書いているから作業スピードは遅く、ミスってしまえば使い物にならないという非常に面倒くさい作業なのだ。まぁ、符術がなくても戦えるのは戦えるのだが、符術はトラップとして使うと非常に強力なスキルなのだ。

 符術は貼った順にスキルを任意のタイミングで発動させることが出来るため、相手の注意を引くための囮や足止めが出来る。まぁ、純粋に真正面から使ってもそこそこ威力はある。また、符術は魔力で発動させるのではなく、自身のスタミナを使って発動させるため魔力切れを心配しなくてもいいという利点もある。最も、スタミナ切れを起こさないように気をつけなければ、敏捷度が一時間程大きく減少してしまうという難点もあるが、忍のジョブ補正でスタミナはたんまりあるので、そうそうスタミナ切れは起こらない。

 そうして神経を集中させて作業していると、突然声をかけられた。


「ユリィ君、何してんの?」

「うわっ。て、あ」


 その声に驚いた時、手元が狂い文字が大きく歪んでしまった。


「あーあ、ミスっちゃった」

「あ、ごめんね。もしかして私が声かけたからかな?」

「いや、まーいいんだが」


 声の主を確認すべく声のした方を向くと、そこにはキリカとテオ、ノアがいた。


「珍しい組み合わせだな」

「ま、たまたま会っただけなんだけど。そしたら、ユリィ君が隅っこの方で何かしてるの見つけてね」

「なるほど」

「やっほー、ユリィ」

「こんにちわ、ユリィさん」


 テオ達と挨拶を交わしたところで、キリカが興味津々といった様子で尋ねてきた。


「で、何してるの?」

「符を作ってる」

「「「符?」」」


 三人が三人とも首を傾げた。そんなに珍しいものなのか?


「キリカとテオは闇の時に見ただろ?」

「あぁ、あれか」

「あの手当の時使ってやつね」

「そ、簡単に言えば一種の媒体かな」

「宝石のようなものなんですね」


 ノアが言った通り、ゲームの頃から魔術媒体の一種として宝石が使われていた。単価が高く使い捨てである分、魔法の威力が高いことで一部の魔法系のジョブ保有者達が使っていた。まぁ、宝石をポンポン使えるなんてプレイヤーはそういないため、一般的に魔術媒体として使われていたのは単価が安く使い捨てではない杖や魔道書であった。

 ノアや他の魔術師を見ていると、どうやらこの世界でもそれは同じようだった。


「血の匂いが若干するんだけど、もしかしてさ、それって血?」

「ん?そうだけど、よくわかったな」


 この小瓶は、血液を貯める用にプレイヤー作ってもらったアイテムで、血液の匂いを消してくれる消臭効果が付いているはずなんだが、テオにはわかったようだった。

 血液を使っている理由をキリカ達に話していると、上半身の露出が多い男が勢いよくギルド内に駆け込んできた。そして、誰かを探しているのか辺りを見渡し、こちらに顔を向けた。


「キリカ!大丈夫かい!?」


 その男はそう言いながらこちらに走ってきた。そして、そのままキリカに抱きつこうと両手を広げた。


「ちょっ!」

「ふべっ!?」


 キリカの華麗な回避が決まり、男は壁に激突してその場にうずくまった。


「なんで避けるのさ」

「いきなり抱きつこうとするからでしょ」

「つれないなー」


 涙目になりながらも抗議の声を上げている男は、立ち上がりキリカに向き直った。


「闇が来たって言うから心配したけど……ま、大丈夫そうだね。さすがはキリカ!……ん?こ、これは……!?」


 男はキリカ以外に背を向けていたのだが振り返った瞬間、驚愕の表情で固まった。忙しい奴だな。

 そして、突然男はテオの手を取って、熱く語り始めた。


「う、美しい……!!」

「「「はい?」」」

「はぁ、またか……。ごめんよ三人とも、こうなったら私には止められないのよね」


 キリカ以外男の言動に、訳がわからないといった表情をしていた。おそらく俺もそんな表情になっているのだろう。というかキリカのセリフに嫌な予感しかしないんだが。


「挙げればキリがないが、特筆すべきはスラリと伸びた細く綺麗な足!そして、燃えるような赤髪ショート!素晴らしい!お名前を伺っても?」

「て、テオ、です」

「テオ!なんと素晴らしい響き!」


 何言ってんだこいつ。


「テオさん、お近づきの印に……」

「えぇ!?」


 というと、男はテオの手の甲にキスをした。

 そこでその男の暴走は止まるかと思われたが、まるで止まる様子が見られなかった。どうやら次のターゲットはノアのようだった。先程と同じようにノアの手を取った。


「君もだ!ダボダボなローブから覗く透き通るような白い肌!そして、それに負けず劣らず綺麗な白髪ロング!素晴らしい!お名前を伺っても?」

「の、ノア……」

「ノア!よく似合っていらっしゃる!」

「あ、ありがとうございます……」

「お近づきの印に」

「きゃっ」


 またもや手の甲にキスをするという、少々セクハラ地味た行動を取った男。


「そして、極めつけが……!」


 そこで男の顔がこちらに向いた。何故か男と目があっただけで鳥肌が立った。


「美しい黒髪にキリっとした瞳!引き締まった体躯!神秘的な雰囲気!素晴らしすぎる!」


 そこまで言うと、俺の腕を取り自分の方に引き寄せた。俺は突然のことで反応できず、なすがままになってしまった。


「ああ!この甘い香り!素晴らしすぎる!」

「て、てめ、やめろ!俺は男だ!」

「何を言っているんだい、こんなに美しい人が男なわけないじゃないか。はははは」


 なんと男の力は思ったより強く、軽く押しのけようとするぐらいでは振りほどけなかった。笑い声さえも俺をイラつかせる材料であった。もはや我慢ならず本気で押しのけようとした時だった。


「っ!?」


 こともあろうかこの男、俺の尻を触ってきた。たまたま触れたとかではなく、わざとである。だらしなくにやけた男の顔を見ればわかる。

 一瞬で俺はブチ切れてしまい、押しのける等という生ぬるいことでは許せなかった。


「いつまでも触ってんじゃねぇ、この、ど変態が!」

「うぼ!?」


 ボディーブローを放ち、緩くなった拘束から抜け出した。そして。


「穿空突!!」

「ごあぁあ!?」


 忍の『体術』スキルツリーの中で破壊力トップクラスの『穿空突』を、男の顔面にめり込ませ殴り飛ばした。しかし、男は気絶しただけで終わった。


「ちっ、しぶとい奴だな……」

「ちょ、ちょっと待った!ユリィ君、落ち着いて!」

「そうだよ!落ち着きなって!」

「いつものユリィさんに戻ってください!」


 止めを刺しに行こうとしていると、キリカ達に止められてしまった。


「離せ!俺は奴をこの世から消し去らなければいけないんだ!」

「わー!ユリィ君がおかしくなった!」

「落ち着いてってば!」


 俺が落ち着いたのはそれから五分後のことだった。





   †





 今俺はギルド内の清掃を手伝っていた。何故かというと、先ほど騒いだ際にギルド内の備品を幾つか壊してしまったらしく、その残骸の片付けを言い渡されたからだ。さらに、備品の弁償までさせられることになった。そのせいでようやく貯まってきていた金を全て使い果たし、残金は零になってしまった。


「くそ、なんでこんなことに」

「まぁまぁ落ち着いて。ほら、あいつも反省してるし」


 悪態をついていると、キリカが話しかけてきた。


「いや、もう落ち着いてるから大丈夫だ」

「ならいいんだけど。しかし、ユリィ君怒ったら怖いんだねー」

「あー、今回はトラウマも蘇ったから、余計になー」


 昔は私服で電車やバスに乗ると、毎回のように痴漢を受けていたため、セクハラや痴漢がトラウマとなってしまい、電車やバスには乗らないようにしていた。その頃のトラウマが蘇ったせいもあり、今回はいつも以上に頭に血が上ってしまったようだ。

 そして片付けが終わると、テオとノア、キリカを加え、ギルドホールの机に集まった。そこで男は改めて謝罪をしてきた。


「本当に申し訳ない!テンションが上がりすぎちゃって……」

「もういい。ただし次似たようなことがあったら……わかるな?」

「は、はいぃ!」


 少し睨みをきかせただけで完全に縮み上がってしまっている男。これなら大丈夫だろう。


「あ、そうだ。自己紹介が遅れたね。僕はヴェルハイド、ヴェルって呼んでね。ランクはBだよ。キリカとは小さい頃に知り合ったんだ」

「ユリィだ。ランクはD。あと一応言っておくが男だからな?」

「え……?本当なの?」

「冗談言っているように見えるか?」

「見えませんすいません」


 完全に俺にビビっているヴェル。


「まぁいい。俺はクエスト受けるから、ここらで失礼するぞ」

「あ、待って待って。ユリィ君、突然だけど一緒にクエスト受けない?元々誘うつもりでユリィ君に話しかけたんだけど、このバカのせいで遅くなっちゃった」

「バカとは失礼な」


 席を立とうとしたら、キリカからそんな提案を受けた。


「五人用のクエストで、護衛の依頼なんだけど」

「五人用?」

「そ、依頼者側から指定があってね。で、テオちゃん達は協力してくれたんだけど、あと二人が見つからなくてね。たまたまユリィ君がいたから声かけようと思ってたんだ」

「へぇ。俺のランクは問題ないのか?」

「この依頼のランクはDなんだよね」


 Dランクってことは、俺は受けれるな。でも確かテオ達はEランクじゃなかったか?と思っていると顔に出ていたのか、キリカが説明してくれた。


「テオちゃん達はEランクだけど、上位ランクの人と組むならひとつ上のランクまで受けれるから問題なしなんだよ。で、どう?受けてくれる?」

「どういう依頼なんだ?」


 依頼内容は、グランから東へ馬車で二日程かかる場所にあるアルジアという街までの行き帰りの護衛で、報酬はDランクにしてはかなり良い方らしい。依頼期間はアルジアへの滞在も含め、余裕を持って約一週間となっている。

 アルジアという街は商業が発達しているらしく、月に一度各地から商人達が集まり露天を開くという一種の祭りがあるのだそうだ。今回の依頼者はそれに出店する常連で、四日後に迫った祭りに向けてグランを早めに出発したいそうなのだ。


「ああ、いいぞ。わざわざ良いクエストを探すの面倒だしな」

「ありがと!これであと一人になったし、早く探さなくちゃ」

「キリカ、キリカ、僕がいるよ」


 わざとらしく席を離れようとしたキリカの袖を掴み、自分を誘えと主張するヴェル。


「えー……」


 露骨に嫌そうな顔をするキリカ。


「この際しょうがないか」

「ちょ、ひどいよ!」

「だって行く先々で女性にセクハラして問題起こしてるじゃない」

「いや、ほらそれはさ、仕方ないというか」

「仕方ないわけあるか」


 なるほど、ヴェルはさっきみたいなことを今までもしてきたのか。

 二人のやり取りを見ていると、姉と弟といった感じに思えてしまう。と思っていると、キリカが突然俺の方を見て、何かを思いついたような顔をした。


「じゃあ今度からセクハラしたら、ユリィ君の鉄拳制裁が下るから。それでもいいなら来てもいいよ?」

「うっ……」


 ヴェルの顔色が途端に悪くなる。対ヴェル用の脅し道具として通用してしまうほど、先ほどの騒動はヴェルニは堪えたようだ。


「そ、それでも行くよ!」


 お、俺にビビりながらもついてくるのか。じゃあ、ヴェルがセクハラした時は容赦なく鉄拳制裁を下すことにしよう。


「というわけだから、突然で申し訳ないんだけどユリィ君、こいつの面倒見てやってくれないかな」

「断るに断れない状況を作り出してから言われてもな。まぁいいけどさ。その代わり容赦しないけどいいのか?」

「うんうん、むしろ容赦せずやっちゃって」

「おし、任せろ」

「ぼ、僕はとても恐ろしい決断をしてしまったのだろうか……」

「出発は明日の早朝に東門に集合だから、皆準備しておいてね」


 何はともあれ依頼を受けること出来たしそろそろ宿の掃除も終わる時間だったので、今日はここで解散となった。

 宿は前払い制で数日分まとめてとっていたので野宿になるようなことはなく、晩飯はインベントリ内にあった果物等を食べて、明日に備えその日は早めに寝ることにした。




 

 思えば、キャラ達の容姿について書いていなかった気がするので、近いうちにキャラの容姿とかジョブをまとめて載せておこうと思います。

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