101話 三年後の朝
朝の空気が、少しだけ重く感じられた。
アルトレス軍宿舎棟の中庭。
まだ陽が完全に昇りきる前だというのに、そこには一人の少年が立っていた。
リオル・アルトレス。
十三歳。
三年前と比べて、体つきは明らかに変わっている。
細かった肩には筋肉が付き、背は伸び、呼吸は静かで安定していた。
――だが、まだ少年だ。
完全に出来上がった戦士ではない。
それが逆に、彼の異質さを際立たせている。
「……十三、か」
小さく呟き、拳を握る。
今日は誕生日だ。
だが、特別な感慨はなかった。
この三年間、
彼の時間はほとんどすべてが訓練に費やされてきた。
呼吸。
走り込み。
筋力。
魔力制御。
無属性魔術。
火と水の属性魔力。
積み上げてきたものは確かに多い。
だが――
(……まだ、足りない)
自分が何者になろうとしているのか。
その輪郭は、まだ霧の中だった。
「相変わらず、朝早いな」
背後から声がする。
振り返ると、ヴォルクルが立っていた。
以前よりも距離はある。
だが、視線は確実に届く位置だ。
「……おはよう」
「おう」
ヴォルクルは短く答え、リオルの様子を一瞥する。
「十三歳、だな」
「……うん」
「誕生日だ」
事実を告げるような言い方だった。
「訓練は?」
「もう少ししたら」
ヴォルクルは何も言わず、
ただ一歩引いた場所で立つ。
見守る立場に、完全に回った男の姿だった。
しばらくして――
「よーし、起きてるな」
聞き慣れた声が、空気を切る。
エリオラ・レヴィナントが、中庭の向こう――訓練場へ続く通路の入口に立っていた。
三年前と変わらぬ鋭さ。
だが、目は以前よりもずっと真剣だ。
「誕生日だろ」
リオルは少し驚く。
「……知ってたんですか」
「当たり前だ」
エリオラは口の端を吊り上げる。
「だから今日は――」
一瞬、間を置いてから。
「特別メニューだ」
リオルの背筋が、条件反射で伸びた。
「逃げ道は?」
「あるわけねぇだろ」
即答だった。
「十三歳になったお前に、
“今の位置”を教えてやる」
それは祝福でもあり、
試験でもある。
リオルは小さく息を吸い、吐いた。
「……お願いします」
その声には、迷いはなかった。
三年が過ぎた。
だが、これは終わりではない。
ここからが――
本当に、始まりだ。




