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第75話:優しさの力ー2

 地面の亀裂から吹き出した赤い魔力が、渦を巻きながら巨大な獣の形を成していく。


「ヒナワの残り火……炎の魔獣か!」

 俺は即座に立ち上がり、村へ向けて駆け出した。

 シンも舌打ちをして後に続く。


 ジークは――足がすくみ、ヒナワを抱えたまま立ち上がれずにいた。



 村の中央広場。

 四足歩行の、炎でできた巨大な獅子が、家屋に向かって前足を振り上げていた。


「させるか!」

 俺はクリスタルワイバーンの指輪を光らせた。


 右手に結晶の手甲が顕現し、そのまま前方に絶対防壁を展開する。


 ガァンッ!!

 炎の爪が防壁に直撃し、灼熱の火の粉が周囲に散る。


 熱い。ただの魔獣じゃない。千年前のアーティファクトの残滓、その魔力の純度が高すぎる。


「大将! コイツ、水魔法じゃ相殺しきれねぇ! 根源の熱量がおかしいぞ!」

 シンの放った激流の魔法が、魔獣に触れた瞬間に蒸発していく。


 俺は防壁を支えながら、後ろを振り向いた。


「ジーク!!」

 村の入り口で、ジークがヒナワを構えようとして、手が震えて止まっていた。


「だ、だめだ……!

 ここで撃ったら、村が……村の人たちが巻き込まれる……!」

 魔獣の背後には、逃げ遅れた村人たちが身を寄せ合っている。


 広範囲を焼き尽くすヒナワを撃てば、魔獣ごと村を消し飛ばしてしまう。その恐怖が、ジークの指を完全にロックしていた。


「ジーク! 撃て!!」

 俺は防壁にヒビが入るのをクリスタルワイバーンの魔力で無理やり抑え込みながら、喉が裂けるほど叫んだ。


「お前の炎は、誰も焼かない!!

 俺が保証する! だから、信じて撃て!!」


『相棒を信じて〜、ジーク〜』

 ラナの声が、俺の身体の中でもどかしそうに鳴く。


「シン!!」


「おうよ!!」

 シンが海神の波を操作し、魔獣の周囲に水球の檻を形成する。


 一瞬だけ、魔獣の動きが止まった。


「ジーク!! お前は何を守りたいんだ!!」

 俺の怒鳴り声に、ジークの肩がビクッと跳ねた。


 ――お前の波は、優しい。

 シンの言葉が、ジークの頭をよぎる。


(……僕は、国を壊したいわけじゃない)


 ジークの呼吸が、ふっと静まった。

 震えが止まる。

 彼の中で、明確な「イメージ」が組み上がっていく。


(広げない。爆発させない。

 ただ一点。……魔獣の核だけを射抜く、あの時よりももっともっと細い、光の針……!)


 ジークはヒナワを構え直した。

 銃身の奥で、暴れ狂おうとする膨大な火炎の魔力を、王族としての強靭な精神力で無理やりねじ伏せ、圧縮、圧縮、さらに圧縮していく。


「極限圧縮――」

 黒い筒の先端に、米粒ほどの小さな、だが太陽のように白く輝く熱源が生まれた。


 ジークの目が、完全に“狙撃手”のそれに変わる。


「――がぁ!!」

 引き金が引かれた。

 轟音は、無かった。


 チィィィィンッ――。


 空気を細い糸で切り裂くような、甲高い音だけが響いた。


 ヒナワの銃口から放たれたのは、爆炎ではない。

 直径わずか数ミリほどの、極限まで圧縮された「炎のレーザー」だった。


 光の針は、俺の防壁の真横をすり抜け、魔獣の眉間――魔力の核を、正確無比に貫いた。


 魔獣の動きが、ピタリと止まる。


 そして、周囲に一ミリの炎も撒き散らすことなく、内側からプツンと音を立てて消滅した。


 爆発も、延焼もゼロ。

 一点狙撃による、まさに完全暗殺。


「……はぁ、はぁっ……」

 ジークがその場にへたり込む。


 銃身からは、細い煙がひとすじ上がっているだけだった。



 村に、静寂が戻った。

 家は一つも燃えていない。

 村人たちは誰も傷ついていない。

 村長が、震える足でジークに駆け寄り、その場に手をついた。


「あ、ありがとうございます……!

 ヒナワの炎が、我々を……守ってくれた……!」


 ジークは、へたり込んだまま、自分の手の中のヒナワを見た。


 破壊の象徴。呪いの兵器。


 だが今、それは確かに、人の命を繋ぐための「希望」として機能したのだ。


 俺とシンが歩み寄る。

 俺はジークの頭を、乱暴にわしゃわしゃと撫で回した。


「よくやった。最高の射撃だったぞ、兄弟!」


「……僕、できた……。誰も、巻き込まなかった……!」


 ジークの目から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれる。

 それは恐怖の涙じゃなく、呪縛から解き放たれた安堵の涙だった。


 シンが、ニカッと笑ってジークの背中をバンと叩く。

「な? 言っただろ。

 お前の波は、千年前の勇者とは違う。お前のヒナワは、最高に優しくて、最高にえげつねぇ兵器だ」


『やるじゃん、後輩!』


 ラナも胸元で嬉しそうにはしゃいでいる。

 ジークは涙を袖で拭い、ヒナワをしっかりと胸に抱き直した。

 もう、その腕は震えていない。


「……はい。俺、もう迷いません。

 この力で……絶対に、みんなを守ります」

 千年の爪痕が残る谷底で、一つのアーティファクトが、ついに本当の主を得た瞬間だった。


 俺たちは村人たちに見送られながら、再び斜面を登り、オーシャン側への道へと戻る。


 空は晴れていた。

 ここから先、魔族の封印地がどこにあろうと。

 俺たちのパーティーには、最強の盾と、最強の波と――

 誰よりも優しい、最強の狙撃手がいる。

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