表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/97

第70話:数奇な愛の唄ー1

 王都を出ると、世界の色が変わる。

 城壁の中が「守られる場所」なら、外は「死と隣り合わせの場所」だ。


 馬車の揺れが一定になった頃、ジークが窓の外を見てふとこぼした。


「冒険みたいで、少しワクワクするねっ」

 その響きが、あまりにも子供っぽくて、少しだけ救われた。


 こういう無防備な言葉がないと、人は張り詰めた糸のように簡単に折れる。


 だから俺は、わざと意地悪く笑ってやった。

「いいかジーク。魔族の封印地を見つけた瞬間、バカみたいにデカくてこわーい化け物がお出迎えしてくれるんだぞ」


 ジークが瞬時に肩を跳ね上がらせる。

「ひぃぃぃッ!!」


『こーら相棒、いじめないの』

 胸の奥でラナが笑う。


「冗談だ。……たぶん、な」


 シンが、呆れたように笑った。

「怖がれるのは正常だ。自分の命の軽さを知らねぇバカは、だいたい真っ先に死ぬ」


 ジークが、少しだけホッとしたように胸を張る。

「じゃあ、膝が震えてる僕は大正解ですね」


「百点満点だ」

 シンはさらりと言って、窓の外の風を嗅いだ。

「……波、今日はいいな」


 いい波。

 その一言だけで、なぜか馬車の中の空気が少しだけ温かくなった気がした。



 俺たちが辿り着いたのは、ウルシア国内でも外れに位置する村。

 伝承によれば、かつて魔族との戦闘が最も激しかった土地だ。


「とりあえず、路銀と情報集めだ。村の手伝いか、ギルド支部で仕事でも受けるか」

 シンの提案に、俺は肩をすくめた。


「ギルドの仕事ったって……俺、Fランクなんだけど」

 ――馬車の中の時間が、止まった。


 シンとジークが、寸分違わぬタイミングで口をあんぐりと開けた。

 驚き方まで揃うのが、妙に腹立つ。


「……え?」

 ジークが素っ頓狂な声を出す。


 シンは俺を上から下まで、ゴミを見るような目で眺めた。

「お前、あのデタラメな強さでFランクかよ……」


「そっか……。ずっと雑用係のまま、勢いだけでここまで来ちゃったもんね」

 ジークが、妙に納得した顔で頷く。


「お前、たまに悪気なく刺してくるよな」


「ごめん! でも悪い意味じゃなくて……君、そういう肩書きとか本当に興味なさそうだもん!」

 ジークが慌てて首を振る。


 俺は小さくため息をついた。

「ああ。ギルドの仕事なんて、最初のミリアへの護送任務しかやってねぇよ」


 シンは顎に手を当てて、ふっと笑った。

「安心しな。幸いオーシャンとウルシアの冒険者のランク制度は同じだ。Sランク様である俺が、美味しい高ランククエストに連れてってしんぜよう」


「……言い方が絶妙にムカつく」


『シンさんSランクだったんだ。流石だね』

 ラナの声は、純粋に感心していた。


(……まぁ、シンはすげーからな)

 俺は咳払いで誤魔化し、村を後にした。



 少し歩くと、近くの領主が治める街へ到着した。

 石造りの家並み、整えられた街道、そして立派なギルド支部。


「ここで仕事を受注するか」

 クエストボードの前で、ジークが控えめに指を差した。


「あ、あの……この『ゴブリン五匹討伐』なんてどうかな?」


「却下だ。日が暮れる」

 俺が即答すると、ジークが「うぅ……」と肩を落とした。


 その時、俺の視線が、掲示板の端に貼られた一枚の羊皮紙に釘付けになった。

 そこに書かれた文字が放つ“違和感”。


「ん? 領主様直々の依頼があるぞ」


 シンが横から覗き込む。

「珍しいな。領主の私兵や権力でどうにもならねー依頼か?」



【分類:Sランク】

【報酬:言い値】

【依頼主:領主レオルラハト】

【内容:一人娘にかけられた『呪い』を解くこと】



 ジークが息を呑む。

「の、呪い……!?」


 シンが、眉を微かに寄せた。

「この依頼、一筋縄じゃいかなそーだな」


 だが、その声は不思議なほど落ち着いていた。怖がらせない、波を知る男の落ち着きだ。

 俺は羊皮紙を無造作に剥がし、懐にねじ込んだ。

「行くぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ