件名:個人配信者による広域地震発生可能性言及動画の拡散状況および初動対応方針について
作成:防災科学政策連絡室/情報環境対策班
共有先:内閣危機管理調整室、地震火山庁監視部、総務通信基盤局、警察庁警備局、海上保安防災部
作成日時:七月七日 〇六時四〇分
取扱区分:省内限り/対外説明不可/報道提供不可
保存期間:暫定三十日
添付:動画記録写し、観測値照合表、SNS拡散推移、想定問答案
1. 概要
七月六日二一時〇〇分頃より、個人観測者・桐生征司による動画配信「臨時説明会」が公開された。
同配信において桐生は、七月五日に発生したXクラス太陽フレア後の電離層および地磁気関連データについて、太陽起源擾乱を補正した後にも説明困難な残差があると主張した。
さらに、当該残差をVLF/LF伝搬異常、ULF磁場変動、GPS-TEC局在擾乱等と関連づけ、七月六日二一時時点から七日以内、特に七二時間以内に、南海トラフ東部から伊豆・小笠原弧北端にかけてM7以上、最大M8級に近い地震が発生する可能性がある旨を述べた。
配信は二一時四七分一二秒頃に中断。本人アカウントはその後削除された。
七月七日〇六時時点で、同配信の切り抜き・転載・要約投稿は主要動画共有サイト、短文投稿サービス、匿名掲示板、災害情報系コミュニティにおいて拡散中である。
本件は、現時点では「公的な地震予知情報」ではなく、また当省として地震発生を予測または警告する根拠は確認していない。
ただし、以下の理由により、通常の流言対応案件としてのみ処理することは適当でない。
配信内容が、既存の地震電磁気現象研究に由来する用語・手法を一定程度踏まえていること。
七月五日のXクラス太陽フレアに伴う通信・電離層擾乱が実際に観測されていること。
発信者が「避難命令ではない」「公式情報を優先すべき」と明言しており、直接的なパニック扇動の形式を取っていないこと。
動画終盤に発生した音声・映像異常が、視聴者間で強い不安喚起要素となっていること。
南海トラフ関連の社会的感受性が高い時期であり、否定表現の出し方によっては、かえって不信を増幅させるおそれがあること。
2. 発信者について
氏名:桐生征司
年齢:四五歳
現職:不詳
前職:通信機器関連企業勤務歴あり
学位:確認中
所属研究機関:なし
過去活動:個人観測サイト、地震電磁気関連ブログ、動画配信チャンネル
桐生は、公的研究者ではない。
一方で、完全な匿名発信者または商業的予言アカウントとも異なる。過去の投稿履歴では、地震予知に関する断定的表現を避ける傾向があり、一定の観測データ、機材写真、解析手順を公開していた。
当該人物は、過去三年間に少なくとも五回、地震前兆に関する注意喚起を行っている。
そのうち二件については、発言後一週間以内に該当地域周辺で震度四以上の地震が発生している。ただし、規模・震源・発生時期の精度は低く、統計的有意性は確認できない。
なお、桐生本人の所在は七月七日〇五時時点で確認されていない。
自宅兼作業場とみられる住所について、警察庁経由で照会中。
3. 科学的評価
地震火山庁監視部による暫定評価は以下のとおり。
3.1 VLF/LF伝搬異常について
桐生が提示したVLF/LF伝搬異常について、当庁保有の広域電波観測記録と照合したところ、七月三日以降、一部周波数帯に通常範囲を超える夜間振幅変動が存在することは確認された。
ただし、当該変動は以下の要因で説明可能である。
七月五日の太陽フレアに伴う電離層擾乱
夏季特有の下部電離層変動
雷活動による電磁ノイズ
送信局側の出力変動
受信設備の地域的環境要因
現時点で、当該変動を地震発生の前兆と認定する根拠はない。
3.2 ULF磁場変動について
桐生が言及したULF磁場Z成分の局所的落ち込みについて、観測点二箇所で類似した変動が確認された。
ただし、同時刻帯に地磁気活動の変化があり、太陽起源擾乱の影響を完全に除外することはできない。
一部の解析担当者より、変動の空間分布が通常の磁気嵐由来とは異なる可能性があるとの所見が示されたが、当該所見は暫定的であり、部局見解として採用しない。
3.3 GPS-TEC局在擾乱について
七月五日深夜から六日未明にかけて、太平洋側の一部領域でTEC値の局在的変動が確認された。
当該変動は太陽フレア後の電離層応答として説明可能である。
ただし、監視部内の解析用モデルA-17では、太陽起源のみで全変動を説明した場合、南西—北東方向の残差が残る。
この残差については、モデル依存性が高く、現時点では公表しない。
3.4 総合評価
現時点で、地震発生を具体的に予測する科学的根拠はない。
一方で、桐生が提示した観測データの一部は、完全な捏造または単純誤認とは断定できない。
よって、科学的評価としては以下を暫定結論とする。
「桐生配信における地震発生可能性の主張は、公的警戒情報として採用できない。ただし、提示された一部観測異常については、太陽活動・電離層擾乱・地殻活動を含む複合要因として追加精査を要する」
4. 情報環境上のリスク
4.1 拡散状況
七月七日〇六時時点の推定到達数は以下のとおり。
配信同時視聴者数:約三万一千人
録画転載動画総再生数:約二四〇万回
短文投稿サービス関連投稿:約一八万件
主要検索語:「桐生 地震」「Xクラスフレア 地震」「七二時間以内」「南海トラフ 予知」「あの音」
海外拡散:限定的。ただし英語字幕版が二件確認されている。
特に問題となっているのは、配信終盤の受信機音と映像乱れである。
視聴者はこれを「地震前兆音」「地球の声」「海溝からの信号」「政府が隠している警報」等として解釈している。
当班では、同音声について暫定解析を実施した。
結果、音声は三拍、六拍、九拍の周期構造を持つように視聴されるが、圧縮ノイズ、配信遅延、受信機の混信、視聴者側の認知的補完が重なった可能性が高い。
ただし、原録画と転載動画で当該音の波形が完全には一致しない。
この差異が編集によるものか、配信時点で既に複数バージョンが生成されていたものかは未確認である。
4.2 社会不安の誘発
現時点で確認されている実害は以下のとおり。
一部地域で飲料水、携帯トイレ、乾電池の売上増加
沿岸部自治体への問い合わせ増加
学校・病院・介護施設に対する自主避難要求
防災無線の試験放送を「地震予知放送」と誤認する投稿
夜間に海岸へ向かう若年層の動画撮影行為
最後の項目については、海上保安防災部より強い懸念が示されている。
「海が光っている」「低い音が聞こえる」等の投稿が増加しているが、現時点では大半が過去動画、加工動画、雷雲発光、漁船照明、赤潮発光の誤認とみられる。
ただし、██県██市沿岸部で撮影された動画二件については、地元海保が原本提供を要請中。
5. 対外発表方針
本件に対する対外発表は、現段階では積極的に行わない。
理由は以下のとおり。
政府が反応することで、桐生配信の社会的重要性を追認する結果となる。
「否定」だけでは、隠蔽疑念を助長するおそれがある。
太陽フレアに関する通信障害情報と地震情報が混同されるおそれがある。
現在の科学的知見では、個別の地震発生を日時・場所・規模を指定して予知することはできない、という従来見解以上の説明を出しにくい。
ただし、防災行動そのものを否定すべきではない。
よって、問い合わせがあった場合の回答は以下を基本とする。
「現在、政府として特定の日時・地域に大規模地震が発生するとの情報は発表していません。地震はいつ発生してもおかしくない自然現象であり、日頃からの備えが重要です。SNS等の不確かな情報に注意し、気象庁・自治体等の公式情報を確認してください」
「デマ」「根拠なし」「虚偽」といった強い語は、初期回答では使用しない。
理由:配信内に実在の観測異常が一部含まれるため、後日、何らかの地震が発生した場合に、行政側が全面否定していたとの批判を受ける可能性がある。
6. 内部対応方針
6.1 観測監視
地震火山庁監視部は、当面七二時間、以下の監視頻度を引き上げる。
太平洋側海底地震計網
GNSS地殻変動
海底圧力計
潮位計
地磁気観測点
電離層観測
VLF/LF受信記録
ULF帯ノイズ
海底ケーブル通信異常
引き上げは「通常の監視強化」であり、対外的には公表しない。
6.2 自治体連絡
沿岸自治体に対しては、個別に注意喚起を行わない。
ただし、既存の防災啓発素材の再掲、避難所備蓄点検、津波避難経路の表示確認等については、各自治体の通常業務として実施可能。
「桐生配信を受けた対応」と受け取られないよう留意すること。
6.3 本人確認
警察庁は、桐生征司の安否確認を優先する。
理由は以下のとおり。
配信後の突然のアカウント削除
本人所在不明
視聴者による接触・訪問・嫌がらせの可能性
本人が追加投稿を行った場合の影響拡大
保有観測データの確認必要性
本人を発見した場合、任意で聴取を行う。
聴取に際しては、逮捕・拘束・発信停止命令等を想起させる対応を避けること。
本人が自発的に観測データ提供に応じる場合、記録媒体を保全し、原本性を維持する。
6.4 動画削除要請
現時点で、政府機関からプラットフォーム事業者への一括削除要請は行わない。
ただし、以下に該当する投稿については、各社利用規約に基づく対応を促す。
偽の避難命令
偽の気象庁発表
特定地域からの即時退去を煽る投稿
海岸・港湾等への危険な集合を呼びかける投稿
桐生本人または家族の住所等を晒す投稿
音声異常を加工し、災害警報として流布する投稿
7. 懸念事項
本件の最大の問題は、桐生配信の科学的正否ではない。
問題は、視聴者が「何を根拠に恐れているのか」を、すでに本人たちが説明できなくなっている点にある。
当初、拡散の中心は以下であった。
早川系地震電磁気仮説
VLF/LF伝搬異常
Xクラス太陽フレア
南海トラフ
七二時間以内
しかし、七月七日未明以降、投稿内容は次第に変質している。
現在の拡散中心は以下である。
「桐生が最後に聞いた音」
「三・六・九のノック」
「地震は地面ではなく、空から来る」
上記表現は科学的主張ではない。
比喩、恐怖、宗教的解釈、陰謀論、災害不安が混在している。
通常のファクトチェックでは十分に収束しない可能性がある。
特に「地震は地面ではなく、空から来る」という文言は、複数アカウントで同時多発的に確認されている。初出アカウントは特定できていない。
当該文言について、短文投稿サービス上では現在、改変投稿が増加している。
「揺れは下から来ない」
「空が先に割れる」
「七月五日は太陽が名前を呼んだ」
「先生は聞いた。だから消えた」
情報環境対策班としては、これらを単なる流行語と断定しない。
理由:文言の派生速度が、通常の災害デマと比較して速すぎる。
8. 特記事項:音声異常について
配信終盤、桐生の机上に置かれていた小型受信機より、低周波成分を含む断続音が発生している。
配信音声から抽出した暫定波形では、当該音は以下の特徴を持つ。
基本周波数:██Hz付近
可聴域上限付近に倍音成分
三拍、六拍、九拍と認識されやすい間隔
ノイズ床に対し不自然な立ち上がり
配信圧縮後も周期性が残存
音声開始直前、映像フレーム欠落あり
音声終了後、コメント欄表示に文字崩れあり
ただし、配信システムのログが未取得であるため、原因は確定できない。
総務通信基盤局より、以下の所見あり。
「家庭用受信機の混信、配信PCの音声処理不具合、または動画配信サービス側のエンコード異常で説明可能。ただし、同時刻帯に近隣地域で同種の短波・超長波受信異常があったかは要確認」
防災科学政策連絡室としては、同音声を公式に評価しない。
対外的質問があった場合は、「映像・音声の乱れについては、配信環境に起因する可能性があり、政府として評価する立場にない」と回答する。
9. 現時点での判断
本件について、政府として大規模地震発生の切迫性を認定しない。
また、南海トラフ地震臨時情報に相当する発表条件は満たしていない。
一方で、以下の対応を行う。
七二時間の観測強化。
桐生征司本人の安否確認。
原観測データの任意提出依頼。
SNS上の危険行動誘発投稿の監視。
沿岸自治体の問い合わせ増加に備えた想定問答共有。
音声異常に関する通信技術的解析。
「三・六・九」関連文言の拡散源調査。
上記は、地震予知の承認を意味しない。
上記は、配信内容の真実性を認めるものではない。
上記は、国民に対する警告ではない。
本メモは、現時点において公表しない。
10. 追記
七月七日〇六時二九分、地震火山庁監視部より口頭連絡。
太平洋側海底地震計網の一部観測点において、通常の微小地震活動とは異なる連続的低周波振動を検出。
継続時間は約二一秒。
震源決定不可。
ノイズ判定中。
同時刻、██県沿岸部の潮位計一基に、機器点検閾値未満の微小な異常値。
関連性なし。
現時点で公表不要。




