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四天王

 自分の凄さに驚いた。

 四天王のドレイクとの戦闘は実にあっけなかった。


 どうやらヴァンパイアらしいドレイクは、体から無数の吸血コウモリを生み出し勇者達を襲わせた。

 最初は勇者達もその大量の吸血コウモリに翻弄されていたのだが、ママ上の支援魔法にいっちょ俺の支援も乗せてみたところ、馬鹿みたいに彼らの能力を向上させた。


 おかげでライオさんの耐久力は無尽蔵となり、後方からいやらしく攻撃してきたドレイクの黒い雷を受けてもびくともせず、フリューナさんの炎魔法は粉塵爆発でも起こすかのように大量にいた吸血コウモリを一気に焼き殺してしまい、パパ上の一閃は消し炭になった吸血コウモリを巻き込みつつ衝撃波と化してドレイクを一刀両断した。


 とんでもないパワーを発揮した三人は目を点にしながらママ上の方を見た。


『凄い……今の、体の底から力が溢れてくる感じ……。今のセシルの支援魔法でしょ?』

『何だ今のは……セシル、いつの間に……』

『セシル、凄いなお前、こんなに成長していたとは……』


 三人は口々に驚きを声にする。

 当の本人であるママ上も困惑しているようで、皆さんがすごいのではとか、今のは一体とか、自分が一番何が起こったのか理解出来ていない様子だった。


 俺はママ上の動揺を肌身で感じながら、やりすぎたと少しばかり後悔したのと同時に、自分の凄さに驚いていた。

 これ、魔王瞬殺できるんじゃね?




 ドレイクは四天王の中でも最弱! 奴を倒したくらいでいい気になるなよ勇者共! と高らかに声を上げたのは、狼のような格好をした男だった。狼男だろうか。

 俺はママ上の胎内で揺られながら、あまりにも予想通り過ぎて笑いが込み上げてくる。笑う器官なんて無いけれど。


 テンプレートなセリフを吐いた狼男は、大量の狼さんを従えて、勇者一行の前に立ちはだかっていた。

 一週間前四天王と戦ったばっかりじゃないかとげんなりしている俺を他所に、会話はどんどん進み、というか弾み、狼男の自慢話が始まっていた。


『ガハハ! 聞いて驚け! 俺様は貴様ら人間の住まう大地を一つ消滅させたことのある男だ! 貴様らのような小童など、簡単にひねり潰してくれよう!』

『大地が消滅……? 何を言っている』


『ガハハハ! 知らぬのなら教えてやろう! 貴様らがフェイビスと呼ぶ土地のことだ!』

『な、何!? あの島を消滅させたのは貴様だったのか!』


 その後も話を聞いていたが、どうやらそのフェイビスという大地(笑)はただの孤島のようで、消滅させても人類には殆ど影響しない小さな小さな島だったらしい。

 それでも人が住んでいた土地なので、優しすぎるパパ上は激昴していたが、俺は無い鼻で笑っていた。




 自慢話大好きな狼男の眷属である狼達は、ライオさんとフリューナさんの攻撃によって全滅、残った狼男もパパ上の攻撃によって撃沈したことは言うまでもない。

 現在ママ上達は魔界での食料調達を行なっていた。


 魔界の魔物は本来食べることができない。人間にとっては猛毒である悪素というものが体を流れているかららしい。だが、聖女であるママ上の手にかかればその悪素を浄化することが出来る。


 パパ上とライオさんが取ってきた魔物の肉を、俺が余分に支援したママ上が浄化し、フリューナさんと協力して料理した。

 悪素どころか聖なるパワーを纏ったお肉達はそれはそれは美味しかったらしい。ママ上の高揚が伝わってきた。養分を蓄えるために俺が食欲を増加させたことが要因なのだろう。


 俺はママ上の消化を手伝いながら、最近雰囲気が良いフリューナさんとライオさんカップルを遠巻きに微笑ましく見つめるママ上の視線を借りて、俺も微笑ましく見つめていた。

 こんな時こそ楽しくあれということなのだろうか。


 その日の夜(魔界は常に暗いが昼と夜の区別はあるらしい)ラブ度が上昇したフリューナさんとライオさんが、初キスを交わしたということだけは伝えておこう。




 パパ上がライオさんを茶化し、ママ上がフリューナさんと女子トークを交わした後、今一度気を引き締めて進行を開始した。

 昨日の聖なるパワー肉が効いたのか、道中の魔物はさくさくと倒せた。


 ママ上もお腹と胸の張りを薄々感じながら頑張って支援と回復を行なっていた。

 痛みやだるさ眠気に吐き気と色々な症状を全て緩和してきたのだが、そろそろ誤魔化せない身体的な変化も現れている。早く魔王を討伐してくれることを願おう。流石にお腹が膨らんだ状態でママ上を戦わせるほど鬼畜ではない。


 魔王の城は目前で、四天王とやらも既に二体倒して残り二体なので、順調に進めば倒せるはずだ。


『人間共よ。私の領域に侵入するとは何事よ』


 突如として辺りに響いた声。

 ママ上達は警戒を強める。パパ上とライオさんは剣を、ママ上とフリューナさんは杖を構えた。


『ここが魔王直属の四天王が一体、魔竜ヴァーデアルの縄張りであることを知っての狼藉か?』


 わぁ、どんどん四天王が出てくるなぁ、と思いながらその声の主を見る。

 パパ上を五人縦に積んだ程の体高の黒竜がそこにはいた。二足で立ち、四枚の翼を広げてこちらを鋭く睨む。


『俺は勇者アレス! 魔王討伐に来た!』

『ハッハッハ、何を戯れ言を……、貴様なんぞドレイクで充分よ』

『あのヴァンパイアならとうの昔に倒した!』


『何? 貴様本気で言っておるのか?』

『あぁ……』

『ふん、まぁ良い。奴は四天王の中でも最弱……、だったら貴様はウルファイで――』


『狼男なら倒した!』

『何! く……、ふん奴は四天王の中でも二番目に最弱!』


 二番目に最弱とか意味分からんことを言うドラゴン。奴は四天王の中でも、を言いたいだけなんじゃないかと思いながら、しかしそれでもこいつがアイツらより強いらしいということを聞いて俺も気合を入れる。


『喰らえ人間ども!』


 四天王魔竜ヴァーデアルは大口を開け、真っ黒い炎を吐いた。

 黒が多いなと思いつつ、ママ上の支援魔法に自分の支援を上乗せする。

 その後の展開はお察しの通り、フリューナさんとライオさんとパパ上の攻撃でヴァーデアルをボコボコにし、呆気なく勝利したのだった。

 ここまでくると清々しい。




 ヴァーデアルを倒した翌日、魔王城目前にして四天王の最後である堕天使デニムが現れた。どうやら次々と四天王の気配が消えたことを察知して、ヴァーデアルが死んだことを確認した後ここにやって来たらしい。


 すべてを知っているからか、開口一番こんなことを言いだした。


『ヴァーデアルは四天王の中でも三番目に最弱! 貴様らはこの私が暗黒の彼方に葬り去ってくれよぅ!』


 二番目に強いということを言い換えただけなのではないかとツッコミを入れたいところだが、何故かパパ上がノリノリで『何!? アイツが三番目に最弱だと!?』と驚いていたので気にするのをやめた。パパ上が可愛い。


『グハハハハハハ! 私の堕天魔法をとくと味わうが良い!』


 堕天使デニムはママ上達に向けて手を翳し、何やら理解不能な言語で唱え始めた。詠唱が進むにつれて手元で黒い球体が生まれる。

 ママ上はすかさず支援魔法をかける。俺も支援を乗せる。


 例のごとく超絶強化された勇者一行。

 いつものようにパパ上とライオさんが先陣を切り、フリューナさんが魔法を唱える。

 パパ上の剣が青く染まり高速の剣閃が叩き込まれ、ライオさんの炎を纏った剣撃がデニムを襲う。最後にフリューナさんの唱えた魔法により杖から黄色い雷竜がデニムに直撃した。


 デニムは空中で大爆発を起こし、煙に包まれる。

 パパ上達は着地し、煙の中心を見つめる。今回も呆気ない勝利かと思っていた。

 だが、煙がはれて現れたのは、かすり傷一つ付いていない堕天使だった。

 二話目となりました。読んでいただきありがとうございます。

 無傷のデニムは濃い藍色をしてそうですね。傷を負ったらダメージデニムとでも言うのでしょうか。

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