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俺、胎児

 俺、胎児。というか受精卵。

 片や勇者、片や聖女のとんでもカップルとの間に出来た子供。

 現在魔王討伐のために魔界へ行く前夜らしい。朝から晩までやることやってた模様。


 受精したのは数日前で昨日着床したので、パパ上ママ上ハッスルデーの今日は、目の前を無数のシラスが通っている。ちょっと頑張りすぎな勇者パパ上を心配しながら、自分の置かれている状況を確認する。


 前世の記憶があるような無いような気がしながら、朧気に覚えている前世の知識(多分)を元に、自分が何なのかを予想する。

 至った結論は「何か意識の塊とかそんなんじゃね」ということだった。


 転生というキーワードが頭に過ぎり、次いでやってきた「覚醒が早すぎる」という感覚を置き去りにして、とりあえず今は子宮内の観察でも始めることにした。めっちゃ凄い。




 現在パパ上とママ上は魔界の魔物と戦っている模様。ママ上が体調不良を我慢しながら必死に戦っている感覚がひしひしと伝わってくる中、俺は順調に細胞分裂を繰り返していた。


 魔界の魔物は強力で、序盤の魔物でも苦戦しているらしいということを聞きながら、俺は自分ができることを徐々に理解していた。

 実験としてやれることを一つ試してみる。


 視界共有。

 どうやらママ上の見た光景をそのまま自分も見ることができるようだ。

 ママ上のお目目をお借りしたところ、牛のようで牛じゃない化け物と戦っていた。聖女様であるママ上は、先頭に立つ勇者パパ上様に回復魔法や支援魔法をかけている。


『勇者様! 何だか私とっても力が湧いてくるわ!』

『あぁ! 何だか今日のセシルの支援魔法は一段と効果があるようだ!』


 俺のおかげであることを何となく理解しながら、パパ上が死ぬほどイケメンであることに感動を覚えていた。ママ上のご尊顔を拝見できないところが悔しい。

 俺は産まれたあとママ上の母乳をたらふく飲めることに期待を抱きながら魔物との戦闘の観察を行なっていた。




 ママ上がちょっぴり辛そうなので、胎内から支援してみる。

 自分の超常的力に驚く。凄いぞ胎児俺。

 ママ上は支援魔法をバカスカ撃っていたから疲れたようだ。


 現在魔界の中の魔の森とかいド直球なネーミングの森にいる。

 二週間経過してまだ魔王の下にたどり着いていないことに驚きを隠せない俺。


 魔王って魔界に行ってサクッと倒して終わりじゃないんだと勝手な関心を抱く。俺の朧気知識の中の『ファンタジーゲーム』という概念から言わせてみれば、とてつもなく長いのだった。


 細胞分裂も順調に進み、芋虫みたいな形に成長してきた俺は、妊娠の神秘に打ち震えながら今日も今日とてママ上の視界を借りて魔界見物ツアーを行なっていた。




 ママ上が魔物に襲われて死にそうだったので救ってみた。

 つわりのことをすっかり忘れていた俺は前日のママ上が辛そうだったのがつわりのせいであることを理解し、嘔吐感を和らげるとともに体力増加の支援をしてあげた。


 受精から着床まで大体一週間ほどかかる。妊娠は最後に生理が来た日から数えるので、最終月経から排卵受精までに二週間ほどかかることを考慮すると、着床時点で既に凡そ妊娠三週目なのだ。


 即ちそれから二週間ほど経った今現在は妊娠五週目というつわり全盛期かつ、最も流産しやすい危険な時期であるのだ。そんな中聖女として頑張るママ上にも、そろそろ体力的な限界が来ていたようで、魔物と対峙していた時にふと目眩を起こし、よろめいてしまったのだ。


 そこを魔物がすかさず襲いかかろうとしていたので、俺は胎内から全力で不思議な力を使い、ママ上を頑丈にした上で波動のような何かを発し、魔物を吹き飛ばした。

 ママ上は神の御加護か何かと勘違いしていたようだが、ママ上が無事ならそれで良い。


『セシル大丈夫!?』

『えぇ、大丈夫です。ご心配ありがとうございますフリューナ様。何だか不思議な御加護があったようで……』

『良かった……。魔物も勇者が倒してくれたみたいね』


 ママ上を心配そうに見つめる茶髪ツインテールのクソ可愛い女の子は、勇者パパ上様のお仲間であるところのフリューナさん。魔法使いで、魔法使いらしいローブととんがり帽子に身を包み、古風な身の丈の杖を抱えている。


『大丈夫かセシル!』

『ご心配ありがとうございますライオ様。私は大丈夫なようです』

『そうか、目を離した隙に……すまない』


 もう一人駆け寄ってきたこの背の高いイケてる赤毛のお兄さんはライオさん。戦士職のようで、巨大な剣を担いでいる。ツインテール魔法使いのフリューナさんとお付き合いをしているらしいということは聞いた。ママ上達ほど盛っているわけではなく、まだ手を繋ぐこともままならないほどピュアらしい。


『セシルー!!』

『勇者様! もうしわけございません、ご心配をおかけしました……。私の不注意で……』

『何を言っているんだセシル! 俺が頼りないばかりに……!』


 と悲しそうな表情を浮かべているのが勇者パパ上様ことアレス様。金髪のイケメンで、青い鎧に片手剣と盾を装備している。

 暫くママ上とパパ上の責任の『奪い合い』があり、それをライオさんが止めた。


 胎内から支援を送っているから余程のことがない限りママ上の体は無事だけれど、やっぱり体は大事にしてほしい。祈りも込めてママ上の体力と気力を回復してあげる。

 途端に元気になったママ上は神の御加護だと騒いでいた。




 更に一週間が過ぎ、現在魔の山とかいう山にいる。この山を超えると魔王の城が見えるらしい。

 トカゲの赤ちゃんみたいな形になった俺は、今日も今日とて順調に細胞分裂を行なっていることに感動を覚えながら、ママ上達の死闘を見守っていた。


 パパ上とライオさんが盾役となり、魔物達をばったばったと切り伏せながら、フリューナさんが魔法で遠距離攻撃をしつつ、ママ上が彼らを支援するという完璧なコンビネーションを発揮していた。


 俺はと言えば、この世界にいる奇抜な姿のモンスター達の格好を観察しつつ、ママ上の胎内で揺られながら、ママ上の吐き気やらを抑えてあげていた。

 本来ならば安静にしておくべきなのだろうが、こんな魔界のド真ん中で妊娠発覚して、足でまといだの何だのと煩わせるわけにもいくまい。


 どうやら俺はどういう衝撃が加わろうとも耐えることができるくらい頑丈、というか凄まじい加護があるようだし、俺は俺でママ上の体を胎内から守っているので、気兼ねなく戦闘してもらって構わない。ママ上の体調や体は俺が守る。




 魔の山を超えた勇者パパ上一行は、魔王の城が見える場所で休憩をとっていた。

 ママ上がしきりにお腹をさするので、その振動が微妙に伝わってきて心地良い。不思議に思ったパパ上がママ上に聞く。


『どうしたセシル。お腹が痛いのか?』


 パパ上もっと遠回しに聞いてください。それじゃあまるで女性の便意を気にしているように聞こえますよと教えてやりたい気持ちを抑えながら見守る。


『いえ、最近お腹の辺りがとても暖かくて、安心できるというか、気力が湧いてくるんです』

『まさか妊娠したんじゃないの!?』


 フリューナさんが目を丸くしながら聞いてくる。


『ふふ、妊娠したらこんな感覚になるのでしょうかね。私はてっきりもっと体がキツくなったりすると思っていましたが』

『そ、それもそうね……』


 本来ならばつわりのせいで食欲が無くなり吐き気に襲われる時期なのだが、せめて魔王討伐までは安心させておこうという計らいで、俺がそれらを和らげているから気付いていないママ上。


 というかフリューナさん、あなたそれ遠回しに「あんたらもうやってんだよね」と言っているようなものなので、そんな直球な質問はやめといた方が良いんじゃないかと思っていると、案の定今更ながらに気付いたフリューナさんと、次いで気付いた男子陣が全員顔を赤くするという恥ずかしい状況が生まれてしまった。


 ママ上は余裕があるのかふふふと微笑んでいるが、顔を確認出来ないので照れているかどうか分からない。

 そんな矢先、勇者一行が休憩しているところに突如として漆黒の雷が飛んできた。


 いち早く察知していたパパ上が声をかけ、全員がその場を飛び退いたので怪我人は一人もいない。

 ママ上に関しては俺の支援のおかげでちょっと飛び退きすぎたようだ。勇者より身軽な気がする。


『ほほぅ、我の攻撃を避けるとは。やりおるのう』


 上空では黒い翼を生やした黒スーツの男が笑みを浮かべて飛んでいた。


『貴様、何者だ!』


 パパ上が怒気を込めて問う。

 黒スーツの男はヌハハハハ! と格好つけて笑い、ご丁寧に名乗りをあげてくれる。


『我は魔王様の配下の四天王が一人、ドレイク・デリオ・ァ・ゴーウシェイルである!』


 鬱陶しいほど長い名前の四天王の一人が現れたらしい。

 例に漏れず四天王の内で最弱なんだろうなと思いつつ、突然のシリアス展開に息を呑む俺であった。

 実は妊娠七週目までは胎児ではなく胎芽と言うのですが、胎児の方が伝わりやすいと思い、あえてそういうふうに書いていますと言い訳を先にしておいて、どうも福場です。


 お風呂に入ってぼーっとお湯を浴びている時に、ふと思い浮かんだキーワードから、この作品を書いてみようと思い書き始めました。


 短編として終わらせるつもりなので、四話の予定ですが、何か後日談が書きたくなって一話増える可能性があったりなかったり。


 私妊娠も出産もしたことがありませんので、何か間違っていることがあれば指摘してください。

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