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ケモ耳少女が惚れた勇者は、自己肯定感ゼロでした  作者: 遠崎カヲル
ケモ耳少女と勇者様

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第7話 大きな街と、新しい服と、レバー定食

 二人は新しい街へとやってきた。


「大きな街、すごいニャン。でも、なんであの街を離れたニャン?」


 ニャリエナが首を傾げた。


「……それは、その、カイルさんたちに申し訳ないというか……顔を合わせにくいというか……うん……」


「まあ、勇者様のすきにすればいいニャン」

 

 ニャリエナはあっさり言った。


 アルファスはぶつぶつと独り言を言いながら通りを歩き出した。

 ニャリエナはその隣を、軽い足取りでついていく。


 新しい街は、先日までの街より何倍も大きかった。

 門をくぐった瞬間、ニャリエナの耳がぴんと立った。鼻がひくひくと動く。


「いろんな匂いがするニャン! 楽しいニャン!」


 くるくると辺りを見回しながら、尻尾を揺らしている。

 アルファスは眼鏡を押し上げた。


「……人が多くて、落ち着かないです……」


 人混みをすり抜けながら、やっぱりぶつぶつと独り言を言っている。

 ニャリエナはそんなアルファスを気にせず、屋台の匂いを嗅いだり、道行く人を観察したりしている。


 通りを進むと、周囲のひそひそ声が聞こえてきた。


「なんかあいつ、陰気でキモくない?」

「いっちょ前に獣人奴隷連れてるよ。無理しちゃって」


 ニャリエナはゆらゆらとしっぽを揺らしている。

 アルファスの額から汗がにじみ出てきた。


「見ろよあの奴隷の格好、みすぼらしくないか」

「服も買ってもらえないなんて気の毒だな」


 ニャリエナは鼻歌を歌っている。

 アルファスは、汗びっしょりになりながら、眼鏡を押し上げた。

 そっと、ニャリエナを人の流れから外すように歩く。


「……えと……ニャリエナさん……服に興味はないですか?」


「服? そんなのなんでもいいニャン」


 アルファス少し考えてから、違う言葉を口にした。


「……に、ニャリエナさんに……に、似合う服を、か、か、買ってあげたいなあ……ははは……」


 棒読みだったが、ニャリエナの表情がぱっと明るくなった。


「勇者様が買ってくれるニャン? うれしいニャン!」


 ニャリエナはスキップしながら前を行く。


「ふう……うまく説得できた……みたいです」


 アルファスは汗をびっしょりかいて、聞こえないようにボソッとつぶやいた。




 『冒険者御用達』そんな看板を掲げた服屋の扉を開ける。


 アルファスが先に店に入ると、店員の女性は一瞬、顔をしかめた。

 しかし、続いて入ってきたニャリエナを見ると、その表情は何事もなかったかのように笑顔へと変わった。


「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しでしょうか」


「……連れの者に新しい服をお願いします……」


 その間、ニャリエナは店内のにおいを嗅ぎ回っていた。布地の匂い、染料の匂い、店員さんの匂い。いろんな匂いに目をキラキラさせている。

 店員が困惑した顔でニャリエナを見ていた。


 ニャリエナが一着の服を指さした。色鮮やかで、細身のデザインの服だ。


「これがいいニャン」


 店員は困った顔をした。


「あのお客様には……着られないかと」


「なんでニャン?」


「お胸が……入らないかと……」


 ぷしゅっ。


 アルファスの鼻から赤いものが噴き出した。慌ててハンカチで押さえる。メガネが曇った。


「……別のにしてください……」


 店員が何着か選び、ニャリエナに手渡した。

 その瞬間、ニャリエナが今着ている服に手をかけた。


「ちょ! ニャリエナさん!」


 アルファスが飛びついた。顔を真っ赤にして、ニャリエナの手を両手で押さえる。


「な、何をしてるんですか……あわわ……」


「着替えるニャン」


「こ、ここじゃ駄目です……ひ、人が見てますよ!」


 視線が集まっていた。


「見てていいニャン」


「よくないですから!!」


 店員が青ざめた顔で、勢いよく試着室を指さした。


「あ、あちらでどうぞ」


 アルファスはニャリエナをそのまま試着室に押し込み、カーテンを閉めた。

 鼻を押さえるハンカチの赤い染みが、静かに、しかし確実に広がっていく。


「……あ、あぶなかった……はぁ……」


 しばらく待った。


「勇者様、勇者様」


 呼ぶ声がした。


「……どうしたんですか?」


「ちょっと見てほしいニャン」


 アルファスはおそるおそる中を覗く。


 見えた。


 ニャリエナが立っていた。


 すっぽんぽんで。


 選んだ服が床に広がっている。


「着方がわからないニャン」


 どばふっ。


 アルファスのハンカチが真っ赤に染まり、メガネが盛大に曇った。床に手をついて、震えながら店員を呼んだ。


「……す、すみません……た、助けてください……あわわ……」


 店員が試着室に飛び込んで、素早くカーテンを閉めた。

 閉まる直前、汚物を見るような目が向けられた。




 しばらくして、カーテンが開いた。

 ニャリエナが新しい服を着て立っていた。


 動きやすいように、体にフィットした丈の短い服と、短パン。

 

「どうニャン?」


 後ろで腕を組んで、首を傾げてポーズを取った。


「……こ、腰が細くて折れちゃいそうですが……でも……大変よい太ももで……そのお胸は立派なメロン……二個ですか?」


 ぶほすっ


 あまり血しぶきに、店員はドン引きした。




 夕方の道を、二人で歩く。


 ニャリエナは嬉しそうに、くるくると回りながらついてくる。

 新しい服の裾がふわりと揺れ、尻尾も機嫌よく動いていた。


 アルファスはふらふらだった。


「勇者様」


 呼ばれて、振り向こうとした、その瞬間、後ろから、ぎゅっと抱きつかれた。


「ニャリエナさん……離れてください……」


「いやニャン」


 後ろから抱きつく腕に、さらに力がこもる。


「ありがとう、勇者様。とっても嬉しいニャン」


 アルファスは、少しだけ力を抜いた。


「……そ、それなら……よかったです……はい……」


 そう言って、ほんの少しだけ、柔らかく笑った。


「でも」


 ニャリエナはアルファスの耳元に近づいて、ささやくように言った。


「本当にほしいのは、勇者様のにおいがする服ニャン」


 どばっしゅ。


 耐えきれずに、アルファスは崩れ落ちた。




 夕食の時間。


 アルファスは黙々とレバーを食べていた。

 皿が空になると、すぐに追加を頼む。


「勇者様、なんで今日はレバーばっかり食べてるニャン?」


「……貧血予防ですね……たはは……」


 アルファスは汗をかきながら、眼鏡を押し上げた。


「この街にはしばらくいるニャン?」


「そ、そうですね。平和に過ごせれば……いいんですが……」


 アルファスは不安そうにつぶやいた。

 その不安がすぐに現実になるとは、この時思っていなかった。

※ニャリエナの独り言

雄はお胸が好きニャン? 聞いたことあるニャン! 

次回、『勇者様が誤解されちゃうニャン!』

期待してニャン!

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