表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケモ耳少女が惚れた勇者は、自己肯定感ゼロでした  作者: 遠崎カヲル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/11

第7話 大きな街と、新しい服と、レバー定食

 二人は新しい街へとやってきた。


「大きな街、すごいニャン。でも、なんであの街を離れたニャン?」


 ニャリエナが首を傾げた。


「……それは、その……カイルさんたちに……申し訳ないというか……顔を合わせにくいというか……はい……」


「勇者様のすきにすればいいニャン」

 

 ニャリエナはあっさり言った。


 アルファスはぼそぼそと独り言を言いながら通りを歩き出した。

 ニャリエナはその隣を、軽い足取りでついていく。


 新しい街は、先日までの街より一回り大きかった。

 門をくぐった瞬間、ニャリエナの耳がぴんと立った。鼻がひくひくと動く。


「いろんな匂いがするニャン! 楽しいニャン!」


 くるくると辺りを見回しながら、尻尾を揺らしている。

 アルファスは眼鏡を押し上げた。


「……人が多い……あぅ……落ち着かないです……」


 人混みをすり抜けながら、ぼそぼそと独り言を言っている。

 ニャリエナはそんなアルファスを気にせず、屋台の匂いを嗅いだり、道行く人を観察したりしている。


 通りを進むと、周囲のひそひそ声が聞こえてきた。


「なんかあいつ、陰気でキモくない?」

「いっちょ前に獣人奴隷連れてるよ。無理してんな」


 二人は特に気にせず歩いた。


「見ろよあの奴隷の格好、みすぼらしくないか」

「服も買ってもらえないなんて気の毒だな」


 ニャリエナは鼻歌を歌っている。

 アルファスは、ニャリエナへの声が聞こえるたびに、眼鏡を押し上げた。


 そっと、ニャリエナを人の流れから外すように歩く。


「……その……ニャリエナ氏……服に興味は……ないですか?」


「服? そんなのなんでもいいニャン」


 アルファス少し考えてから、口を開いた。


「……ニャリエナ氏に……に、似合う服を、か、か、買ってあげたい……です……」


 ニャリエナの表情がぱっと明るくなった。


「勇者様が買ってくれるニャン? うれしいニャン!」


 ニャリエナはスキップしながら前を行く。


「ふう……うまく説得できた……みたいです」


 アルファスは聞こえないように、ボソッとつぶやいた。




 『冒険者御用達』そんな看板を掲げた服屋の扉を開ける。


 アルファスが先に店に入ると、店員の女性は一瞬、顔をしかめた。

 しかし、続いて入ってきたニャリエナを見ると、その表情は何事もなかったかのように笑顔へと変わった。


「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しでしょうか」


「……その……連れの者に……新しい服を……お願いします……」


 その間、ニャリエナは店内のにおいを嗅ぎ回っていた。布地の匂い、染料の匂い、店員さんの匂い。いろんな匂いに目をキラキラさせている。

 店員が困惑した顔でニャリエナを見ていた。


 ニャリエナが一着の服を指さした。色鮮やかで、細身のデザインの服だ。


「これがいいニャン」


 店員は困った顔をした。


「あのお客様には……着られないかと」


「なんでニャン?」


「お胸が……入らないかと……」


 ぷしゅっ。


 アルファスの鼻から赤いものが噴き出した。慌ててハンカチで押さえる。メガネが曇った。


「……別の……お願いします……」


 店員が何着か選び、ニャリエナに手渡した。

 その瞬間、ニャリエナが今着ている服に手をかけた。


「ちょ! ニャリエナ氏!」


 アルファスが飛びついた。顔を真っ赤にして、ニャリエナの手を両手で押さえる。


「な、何をしてるんですか……あわわ……」


「着替えるニャン」


「こ、ここじゃ駄目です……その……人が見てますよ!」


 視線が集まっていた。


「見てていいニャン」


「よくないですから!!」


 店員が青ざめた顔で、勢いよく試着室を指さした。


「あ、あちらでどうぞ」


 アルファスはニャリエナをそのまま試着室に押し込み、カーテンを閉めた。

 鼻を押さえるハンカチの赤い染みが、静かに、しかし確実に広がっていく。


「……あ、あぶなかった……はぁ……」


 しばらく待った。


「勇者様、勇者様」


 呼ぶ声がした。


「……どうしたんですか?」


「ちょっと見てほしいニャン」


 アルファスはおそるおそる中を覗く。


 見えた。


 ニャリエナが立っていた。


 すっぽんぽんで。


 選んだ服が床に広がっている。


「着方がわからないニャン」


 どばふっ。


 アルファスのハンカチが真っ赤に染まり、メガネが盛大に曇った。床に手をついて、震えながら店員を呼んだ。


「……す、すみません……た、助けてください……あわわ……」


 店員が試着室に飛び込んで、素早くカーテンを閉めた。

 閉まる直前、汚物を見るような目が向けられた。




 しばらくして、カーテンが開いた。

 ニャリエナが新しい服を着て立っていた。


 動きやすいように、体にフィットした丈の短い服と、短パン。

 

「どうニャン?」


 後ろで腕を組んで、首を傾げてポーズを取った。


「……メロンが二個……です……か? こ、腰が……細くて……折れちゃいそうですが……でも……その、た、大変よい太もも……」


 ぶほすっ


 あまり血しぶきに、店員はドン引きした。




 夕方の道を、二人で歩く。


 ニャリエナは嬉しそうに、くるくると回りながらついてくる。

 新しい服の裾がふわりと揺れ、尻尾も機嫌よく動いていた。


 アルファスはふらふらだった。


「勇者様」


 呼ばれて、振り向こうとした、その瞬間、後ろから、ぎゅっと抱きつかれた。


「ちょ、ニャリエナ氏……離れてください……」


「いやニャン」


 後ろから抱きつく腕に、さらに力がこもる。


「ありがとう、勇者様。とっても嬉しいニャン」


 アルファスは、少しだけ力を抜いた。


「……そ、それなら……よかったです……はい……」


 そう言って、ほんの少しだけ、柔らかく笑った。


「でも」


 ニャリエナはアルファスの耳元に近づいて、ささやくように言った。


「本当にほしいのは、勇者様のにおいがする服ニャン」


 どばっしゅ。


 耐えきれずに、アルファスは崩れ落ちた。




 夕食の時間。


 アルファスは黙々とレバーを食べていた。

 皿が空になると、すぐに追加を頼む。


「勇者様、なんで今日はレバーばっかり食べてるニャン?」


「……貧血予防です……たはは……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ