番外編2:情報の女王。――みもりの静かなる聖域と、甘い支配
『デリデリ(Deli-Deli)』のいつもの指定席。みもりは、ノートパソコンのモニターを見つめながら、満足げに口角を上げた。
画面の中では、ほむらと悠真の「完璧な関係」が維持されている。けれど、みもりの本当の仕事は、その裏側にあった。
「……さて、あおばへの報告も終わったし。ここからは、私の『プライベート』の時間ね」
彼女が画面を切り替えると、そこには膨大な量の学術データと、一人の男性のスケジュール表が現れた。
若き准教授、東條。みもりが密かに、しかし徹底的に人生を「編集」している対象だ。
みもりのプライベートな執念は、ほむらのように物理的な距離を詰めるものではない。
彼女の武器は「情報」。
(東條さん。あなたが今朝、素晴らしい着眼点の論文を書き上げられたのは、私が三日前からあなたのSNSに『さりげなく』ヒントとなるキーワードを流し続けていたから。……そして今夜、あなたが私を食事に誘うのも、すべて計算通りなのよ)
みもりは、東條が愛用しているニュースアプリのアルゴリズムに介入し、彼が「今、最も話を聞きたい相手」が自分になるよう仕向けていた。
彼にとって、みもりは「驚くほど話の合う、知的な教え子」。
けれどその実態は、彼の思考の全プロセスを先回りして構築している、冷徹なデザイナーだ。
「……みもりさん、お待たせ。今日も勉強熱心だね」
店に現れた東條が、少し照れくさそうに微笑む。
「……先生。ちょうど今、先生が次に書かれるべき論文の構成について考えていたところです」
みもりは完璧な礼儀正しさで応じる。
東條は、彼女の言葉に感銘を受けたように頷く。彼はまだ気づいていない。自分が発している「独創的なアイデア」のすべてが、みもりによって事前に植え付けられた苗床から育ったものであることに。
「君と話していると、自分の頭が良くなった気がするよ」
「いいえ、先生。私はただ、先生が『正しい道』を歩けるように、少しだけ灯りを置いているだけです」
(ええ。あなたが一生、私の用意した知性の檻から出られないようにね)
その夜、みもりは自宅の書斎で、あおばからのLINEに目を通した。
『みもりさん、東條准教授の攻略も順調そうだね。お互い、執念の形は違っても「飼い主」なのは一緒だね!』
みもりは、ワイングラスのようなグラスに入れたアイスティーを揺らし、独り言をつぶやいた。
「……飼い主、なんて言葉は無粋よ、あおば。私はただ、彼の世界の『真実』を、私というフィルターで濾過しているだけ。……ほむらの愛が暴力的な太陽なら、私の愛は、逃げ場のない霧のようなものよ」
彼女のデスクの引き出しには、東條がいつか彼女に贈るであろう指輪のデザイン画が、すでに用意されていた。もちろん、彼がそのデザインを「自分で選んだ」と思い込むための心理誘導も、明日には完了する予定だ。
完璧な彼女たちの裏側。
そこには、愛する人を掌の上で踊らせ、それを「導き」と呼ぶ、美しき策士たちの終わらないチェスゲームが続いていた。
「……さあ、次の手はどうしましょうか、先生?」
夜の帳が下りる中、みもりの瞳は、モニターの光を反射して怪しく、 shadow、誰よりも深い悦びに満ちていた。
後書き枠
番外編2、お読みいただきありがとうございました!
あおばに続き、みもりの「情報の霧」による完全な心理誘導コントロールのお話でした。策士たちのチェスゲームは、これからも静かに続いていきます。
全39話および番外編まで、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました!
本作は完結済みのものからのコンバート投稿でしたが、毎回のイラスト制作に想定以上の時間がかかってしまっておりました。
そのため、お待たせする時間を減らして物語をスムーズにお届けできるよう、今回の第17話から番外編2までの一気投稿(最後の発表作一同)をもちまして、イラストおよび前書き・後書きの掲載を省略させていただきました。 何卒ご了承いただけますと幸いです。
皆様の熱い応援のおかげで、ほむらたちの物語を無事に最後までお届けすることができました。一緒に走り抜けてくださり、心より感謝申し上げます!
そして、次回作の準備もすでに進んでおります。
次は一転して、ロジカルで少し不器用な青春劇をお届けする予定です。
近日中に新連載をスタートいたしますので、ぜひ次回作にもご期待ください!それでは、また次の物語でお会いしましょう!




