秘密
コンコン、と軽いノックの音が扉を叩いた。
「セレ入ってもいいかい?」
運び屋の声だ
部屋の中から扉に近づく足音の後
扉が音を立てて開く。
「どうぞ日向さん」
セレストが迎える。
簡素だが整えられた部屋。
中にはリリアの姿もあった。
「やっほー日向君」
ベッド脇で、コードに繋がれたまま
こちらを見ている。
「リリアちゃんさっき渡したやつ、何かわかった?」
チンピラが落とした物について聞く
窓の外は静かで、昼の喧騒が嘘のようだ。
「うん私の身体だと限界があるけど」
わずかに間を置いて、
「多分これ、人の意識を混濁させる
成分が入ってるみたい」
「はあ…」
運び屋はわざとらしく溜息をつく。
「もてない連中が考えそうな事だな」
「どういう意味ですか?」
「どういう意味?」
二人の声が重なる。
「まぁ、想像だけどさ」
運び屋は一間置き
「それを飲み物とかにいれて標的を
持って帰ろうって魂胆さ」
「持って帰る?」
二人はハモる。
「あー、その話はまた今度ね」
「知らない人にはついて行っちゃダメって事さ」
そういいながら運び屋は
容器をポケットにしまう。
「いいもん私コードに繋がっていたら、情報を入手できるんだから」
リリアから電子音がする。
「へぇー便利だね」
「じゃなかった、明日の話がしたいんだけど」
「リリアちゃん聞いてる?」
少し冷たい風が窓から吹き込む。
「聞いてる!」
勢いよく返事が返る。
セレストはベッドの上で呆れている。
「それじゃ続けるよ」
「明日はリリアちゃんのお家に行きます」
わずかに、リリアの身体が揺れた。
「今日“ベルナー”さんの家は把握できた」
「ただもう何年も外との交流がないらしくてね」
運び屋は眉間に皺をよせる。
「んで技術者総出で家のロック?を
解錠しようとしたらしんだけど…」
「“開けあれなかった”らしい」
「それって…」
セレストが呟く。
「心配してって事ですよね?」
セレストはそうあって欲しいと
願ってるように。
「その可能性もある」
運び屋は言葉を選びながら。
「でも中身はもしかしたら100年先の
技術があるかも知れないと」
「関わった人達は思っていたかも知れない」
運び屋は遠く機械都市の方を見ている。
「まーでも、行くだけ行ってみないとね」
運び屋は気を取り直した。
「あと形だけの警備の人が1人いるみたい」
「それは何のためなんでしょう?」
セレストは曇った表情だ。
「悪い想像をするならもし、
知らない間に解錠されたら困るからかな…」
ある程度話し終えた時だった。
「キャッ!……ほぇー…」
リリアは何故かヤカンの様に
頭部から、細い蒸気が漏れた。
「……リリアちゃん話し聞いてた?」
「………えっ!うん聞いてたよ!」
慌てて答える。
「私の家に案内してくれるんだよね」
リリアははっきり答える。
「まぁ、そうだね…」
少しの沈黙
ーーするとリリアはセレストに尋ねた。
「ねぇルクナ“君”」
リリアは身体を傾け
「ずっと気になってたんだけど」
一間
「どうして、女の子の格好をしているの?」
「ルクナ君は男の子だよね」
ーーー長い沈黙。
リリアはセレストを見つめる。
運び屋はただ黙っている。
「あっ…それは」
セレストが何か言おうとした時。
「リリアちゃん」
運び屋が制すように呼びかける。
「機会にも人にも事情ってものがある」
「それには相応の理由があるもんだよ」
「今後この話しをする時は」
「セレに許可を取ってからのがいいと思うよ」
運び屋はただ穏やかな声だ。
リリアは少しして
「そうだね、ごめんなさいルクナ君」
リリアはセレストをまっすぐに見て。
「私も秘密にしている事あるから」
「…ごめんね」
リリアは弱々しく言う。
「ううん、いいよ」
セレストは小さく笑う。
「びっくりしたけど……」
少しだけ視線を逸らす。
「ちゃんと、言えるようになりたいな」
セレストは明るく返す。
様子を見ていた運び屋は
部屋を出ようとする。
セレストが慌てて呼び止める。
「日向さんも!」
「……黙っててごめんなさい」
「隠していたつもりは…」
セレストは俯きながら言う。
「構わないよセレ、たいした事じゃない」
「明日また食堂に集合な」
運び屋はニッっと笑い部屋を後にする。
残された二人。
微妙な沈黙が落ちる。
「……もう!おやすみなさい、ルクナ君!」
耐えかねたリリアのセンサーがふっと落ちた。
セレストは窓へ歩み寄る。
夜風が頬を撫でる。
空には、満月が浮かんでいた。




