人の形
三人が進んだ先は暗闇が広がっていた。
だが。
一歩進むたび徐々に明かりがつき始める。
静かな円形の部屋。
最初に視線に入ったのは中央の装置、
人が一人立てるほどの四角足場。
足場の装置からは無数のケーブルが
背後の壁へと吸い込まれている。
左右には研究用の機材が置かれ。
足場の脇には丸いテーブル。
三人は、ゆっくりと中央へと近いた。
ふ、と。
空中に光が集まり、像を結ぶ。
「おかえり、リリア」
「おかえりなさい、リリアちゃん」
写真で見た男性と女性。
「お父さん…お母さん」
リリアが呟く。
「ごめんな、リリア」
男性が言う。
「不便な身体で苦労しただろ」
「よく頑張ったな」
「頑張ったリリアちゃんの為に」
女性が言う。
「私たちリリアちゃんに
プレゼントを用意したの!」
「そこの台に乗って見て」
リリアの顔が二人に向く。
「僕達は待ってるよリリア」
セレストが言う。
運び屋も静かに頷く。
リリアは一歩、踏み出す。
台座に乗り、背中を壁に預ける。
すると背後の壁から、
ーーカチ、と。接続音。
そして台座が光だし。
台座の後ろから電子音が聞こえてくる
「アップロードカイシ」
運び屋はテーブルに資料があるのを気づく、
そしてパラパラとめくる。
ー魔力反応炉。
ー味覚機構。
ー人類保存可能。
資料を閉じる。
(……わからん)
「日向さん!日向さん!」
奥からセレストの呼ぶ声。
運び屋はテーブルを越え、声のした方へ進む。
「…は?」
視界に入ったのは巨大な影。
壁にもたれかかる様に座り込んでいる。
その正面、セレストが覗き込む様に見ていた。
運び屋が到着し言う。
「デカいな」
「すごいですよね!
何に使っていたんでしょう?」
「アップロード56.3%」
「先程からのこの声はなんでしょうか?」
セレストが振り向く。
運び屋も振り返ろうとした時
巨大なロボットの目が
弱く光った様に見えた。
(ん?)
ロボットを見る、だが先程と同様
動いている様子はなかった。
(気のせい…)
運び屋は改めて振り向く。
ーー違和感。
視線の先、誰かがいる。
無数のケーブルに繋がる“女性”が
静かに佇んでいた。
女性が立っている台は部屋の奥に広がるよう
扇型の囲いになっている。
「なんでしょう、あれ」
セレストが尋ねる。
「…行ってみれば分かるんじゃない」
白い髪。
淡いピンクの混ざった髪先。
人の形をした“完成された存在”。
「すごく綺麗ですね」
セレストが言う。
「確かに」
運び屋が返事をする。
ーーその時だった。
二人の頭上に影がさす。
振り返る。
先程の機械が、すぐ背後に立っていた。
拳が振り下ろされる。
「えっ?」「くっ!」
運び屋は咄嗟にセレストを蹴りながら
自分も飛び退く様にその場から離れる。
ー轟音。
床が砕け、衝撃が走る。
二人は左右に分けられる。
「シンニュウシャカクニン,ハイジョカイシ」
機械音。
「日向さん!大丈夫ですか!」
「問題ない!セレそいつから距離をとれ!」
「アップロード97.6%」
運び屋が立ちあがろうとしたその時。
「いっ!」
足に激痛が走る。
運び屋は立ち上がれない。
が、すでにロボットは手を大きく上げていた。
ーー振り下ろされる。
「日向さん!」
「アップロード 完了」
一閃。
人影が駆ける。
手が振り下ろされた。
が、その手は空中で止まっていた。
「大丈夫?日向君」
声をかけてきたのは先程の女性だった。
ロボットの手を受け止めている。
「あっ……ありがとう、リリア…ちゃん?」
運び屋は唖然としながら言う。
「どういたしまして!」
リリアは言いながら蹴り飛ばす。
巨体がよろめく。
そこにセレストも駆けつけた。
「足を見せてください!日向さん」
法力を使い治療を施す。
セレストは目線だけ上げて
「リリア…なの?」
「そうだよ、セレスト君」
リリアは平然と答えた。
巨大ロボは体勢を立て直すと同時に
電子音が流れる。
「リリア・ベルナーヲ,カクニン」
「シンニュウシャヲ,ケンチ」
ピ……ガ、ガ…ガガガ
何かが擦れる嫌な音。
「エラー、エラー」
「コウドウ,ゾッコウ」
「タイショウヲ,ハイジョ」
巨大ロボは三人に向き直る。
「もう!分からず屋なんだから」
リリアが駆ける。
リリアは巨大ロボに対して
一歩も引けを取らず
むしろ圧倒していた。
「すごいですね、リリア」
法力を行いながらセレストが言う。
「ああ」
「ありがとうセレ、もう大丈夫」
運び屋が立ち上がる。
その時リリアが巨大ロボを転倒させていた。
だが突如リリアの動きが鈍くなりだした。
リリアも距離を取る。
そしてついに両膝が落ち
動きが止まる。
「どうしたの!」
セレストが尋ねる。
「……オーバーヒートしちゃった」
「今…全然動けない」
「えっ!」「いっ!」
二人の声が重なる。
二人は顔を見合わせ頷く。
リリアの身体を、持ち上げようとする
が、びくともしない。
巨大ロボが立ち上がり、
こちらに向かって来る。
セレストが二人の前に出て。
障壁の法力を展開させる。
だが、衝撃が続く。
(このままじゃ保たない)
(なにか…なにか……)
「私が、彼を――依り代にしていること」
セレストは洞窟での出来事を思い出す。
(でもそれは日向さんの身体に負担が…)
(…でも迷っていても仕方ない!)
「日向さん!」
セレストは声を張り上げる。
「何!」
「リリアのお腹に手を添えてみてください!」
「…はい?」
「一体どおいうーー」
「早く!」
運び屋は迷いながらリリアの前に跪く。
「日向君、エッチはダメだよ」
「ごめんリリアちゃん、文句はセレに言って」
運び屋はリリアの腹部に手を添えた。




