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代理の花嫁  作者: 伸夜
第1章
2/3

代理の花嫁

「遅い、冷めてる」

 配膳したばかりの味噌汁を口にした錦山小春が私の顔をぶった。

「も、申し訳ございません」

 ぶたれるのは慣れていた。ぶたれるだけならまだいい方で、ひどい時にはそのまま引きずられて離れの近くにある真っ暗な倉庫の中に閉じ込められてしまうこともあった。

 そのまま頭を下げて私は部屋を出る。

 部屋の中では義父と義母、義妹が朝食をとっている。私も錦山(にしきやま)という姓を持ち、この家の一員ではあるが、私は彼らにとって家族とは認識されていない。

 だから一緒に食事をとることはできない。



「父さま!」

 昔は私にも私を愛してくれる家族がいた。母は私を産んでからすぐに亡くなってしまったから、母の記憶はない。父は私が寂しくないようにと男手一つで私を育ててくれた。

 しかし、その幸せは長くは続かなかった。父も私が8歳の時に流行病にかかり亡くなっ てしまった。

 そのあと、私は父の祖父母に引き取られた。

 実は父は名家の御曹司だったようで、庶民の母との結婚を反対され実家とは縁を切っていたらしい。祖父母は大事な息子をたぶらかした女との間に出来た子供だということで始めのうちは気に入らないといった様子だった。

 それでも、父から一人でも生きていくことが出来るようにと小さい頃から様々なことを学んでいたおかげもあって、祖父母からはかわいがってもらうことが出来た。

 その幸せも長くは続かなかった。

「あおいちゃんは家で面倒を見るよ」

 父の兄だという人が私を引き取りたいのだという。

「うちにはね、小春っていうあおいちゃんよりも2つ年下の女の子がいるんだ」

 私は祖父母のもとで暮らしていくことに不満はなかったし、このままでいいと思っていた。

 父の兄だという人が来て次の日には私は新しい家に引き取られていった。

 父の兄は父の存在が鬱陶しかったという。いなくなったかと思えば私という存在が出てきてしまった。親戚中で自分の娘の小春と私を比べられることが多く存在が邪魔だったと言った。

 そこからは使用人以下の生活が6年続いていた。



 彼らが食べ終えた朝食の膳を下げ、台所へ運んでいると

「あおい」

 後ろから声をかけられた。

「は、はい」

 台所に義父の姿があった。普段、義父が自ら使用人のいる所へやってくることはない。

 私は何かやらかしてしまったのだろうか。怖くて体が震えてしまう。

「私の書斎に来なさい」

 私は手に持っている膳を持ったまま固まってしまう。義父は近くにいた使用人を睨みつけ私の仕事を代わるように促す。

 私は手を服の裾で拭いその後を追う。

 義父の後に続いて書斎に入ると、そこには義母と義妹の姿があった。

 食事以外でこの2人が揃っているところを見るとなんだか嫌な予感がした。

「お前に縁談がある」

「え、ん…だん?」

 私は言葉の意味を理解することが出来ず、繰り返した。

「そう、縁談よ。お姉さまにぴったりの縁談があるのよ」

 白々しい態度で小春が笑う。普段、彼女が私をお姉さまと呼ぶことはない。

「相模家の次男、相模銀時(さがみぎんじ)だ」

 相模家は錦山家よりも格が高い名家だ。

 しかし、相模家の次期当主と言われる次男の相模銀時には悪いうわさがあった。

「明日の朝までに荷物をまとめておけ。10時に向かう馬車を出す」



 私は訳が分からないまま書斎を後にした。

 決定事項である以上、従わなくても明日にはこの家を追い出されてしまうことに違いはない。

「あら、お姉さま。ご婚約おめでとうございます」

 私よりも後に書斎を出たと思っていた小春が私の部屋の前にいた。

「相模家の次期当主とのご婚約だなんて羨ましいですわね」

 わざとらしく小春はうらやましがってみせる。

「わたくし、今までずっとお姉さまと比べられてきて存在が邪魔でしかなかったの。お父様もこんな邪魔者を家に置いておくといった時は反対したけど今はあなたの存在に感謝しているわ。私の代わりに婚約をしてくれてありがとう。化け物との結婚だなんてお姉さまにお似合いだわ」

 化け物侯爵。それが相模銀時についたもう一つの名前だった。

 家の外に出ることがない私でも他の使用人たちの会話でその噂は知っていた。

 気に入らない者がいれば斬り捨てる。今まで何十人と婚約者候補たちが彼の家を訪れたそうだが、その全員が婚約を破棄している。

「ありがとうございます」

 無理やり笑顔を作って笑ってみせる。

「ふん、そうやって強がってみせてるつもり?」

 私は部屋の扉を開けて荷造りを始める。とはいっても嫁ぎ先に持って行くものなどたいしてない。

 この家に来た時に、大切にしていたものは小春が持っていてしまっていた。

 私は早々に荷造りを終えると、疲れてそのまま眠りについてしまった。

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