プロローグ 見えないはずの一等星と、初恋の相手
「うわー、すげー!」
夜、ベッドで小説を読んでいた私は、そんな声で、外に意識が向き始めた。
今日は天気がいい。
私の家は高台の上にあるから、星を見にきている人でもいるのかも。
「あれがこの街で噂になっている、見えないはずの一等星だ!」
……え、今、見えないはずの一等星って言った。
見えないはずの一等星……というのは、前にネットで読んだことがある。
この地球から見える一等星の数は限られていて、だからある程度、どこにどんな色の一等星が見えるかは決まっているはず。
だけど、あるらしいのだ。
他の場所から見てもその方角に明るい星はないのに、この街から見たときだけ、まれに輝いて見える、一等星が。
そんな噂の見えないはずの一等星が、私の家から、見えるの?
気になる。
それは、久しく開けてないカーテンを開けてまで見る価値のあるものなのか。
そう考えてつつ、私は外に耳をかたむけた。
すると途端に静かになった。
逆に気になるじゃん。そういうのって。
だから、どうすればいいの……? って考えた挙句、ちょっと外を見てみることにした。
私はカーテンをちょっとよけて、電気を消して、窓の外から空を眺めてみた。
え、明るい星、そんなにないよ。
一応そこそこ輝いている星々の中のどれかが、見えないはずの一等星なのかな。
そう思っていると、下から声がした。
「あ、やっぱり顔出した。明美」
あ……。
久しぶりだった。
だけど絶対この顔は覚えてる。
私が、初恋をした相手。一つ年上の、男の子。
少し大人びた、手塚快星だった。
「か、かいせいくん……」
「そう。俺快星。あ、そういやさ、明美、渚ヶ丘学園だよな?」
「う、うん……」
あんまり行ってないんだけど、退学になったわけじゃないし、私はそう答えた。
「俺、高校から渚ヶ丘学園に入ることになったんだ! よろしくな」
快星が暗い中、下で笑っている。
渚ヶ丘学園は中学からも高校からも募集している、中高一貫校。
私は中学受験で渚ヶ丘学園に入り、現在学校を休みがち。学年は、四月から中三。
快星はさっき言った通り、高校受験で合格し、四月から入ることになったみたいだ。
「明美、なんか部活入ってる?」
「ううん」
「あ、入ってないのか。俺もさ、部活何にしようか、そもそも入ろうかどうか迷ってるんだ」
「そうなんだ……」
私は、どうしようかな。
中学三年生になったとして、基本休まず学校に行くのかな。今休んでる方が多いのに。
そりゃあなるべくは行った方がいいとは思うけど。
「まあ、とにかくよろしくな。……それにしてもおかしいな」
「何がおかしいの?」
私は訊く。
「いやあのな、明美が顔を出すちょっと前に、消えちゃったんだ。見えないはずの一等星が」