第一話、さよなら、ゼームス大陸。
ある惑星に、唯一あるゼームス大陸。
その大陸を圧倒的な力と恐怖で支配する魔王。
魔王は、逆らうもの全てを悉く打ち滅ぼした。
好戦的な国には魔物を送って、1日もかからずに支配下に置き、その国の長を魔物に挿げ替え、戦いを好まない国々には襲わない代わりに、貢物を定期的に献上する事を義務付けた。
そんな世界に突如勇者達が現れた。仲間の魔法使い、僧侶を引き連れた謎の一味。
彼等は誰に頼まれた訳でもなく、魔王城へ乗り込み、魔王と今同じ地に立ち、決戦の時を迎えていた。
魔王城は大きな岩山を取り込んで建てられていて、決戦場は広い岩土の台地だった。
その上には大きな岩が点在している。
「勇者、本当に何しに来たんだ? お前は」
魔王はほっかむりの黒いローブを体に纏い、ローブの暗い影から赤い目を光らせていた。
勇者には特に恨みもないし、「誰かに頼まれて俺を倒しに来たのか? 」と聞いても、「……いや、別に」って言葉少なく答え、襲ってくる様子もないものだから、魔王からしてみれば、本当に不可解な存在なわけで……
何しにきたのかが、どうしても聞きたかった。
「特に目的はない……」
「何かあるだろ? 」
勇者にしつこく質問する魔王。
その様子を見ていた魔法使いが魔王を睨みつけながら勇者の前に躍り出てきた。
ピンクの魔法ローブに薄い紫色のヴィザードハット、帽子の真ん中には月のマークを象ったブローチが付けられていた。
緑色の髪は肩まで伸びていて、先が外側に撥ねている。
紫色の瞳に大きくぱっちりした目が印象的な美形の少女。
「あのねー、あんまり勇者様に一杯言わないでよね、困ってるでしょ」
岩に座りながら黙って目を瞑る勇者。
短い金色の髪が上に伸び、鼻はすらっと高く、青い眼が美しい美形の青年。
シルバー色の爽やかな勇者マントを背につけ、頭に青と白のストライプのバンダナ、ドラゴンを象った堅そうな鎧、両肩の先は丁度、角のような物が出っ張っていた。
鞘に納まった大きな剣の先を地面に突きたて、その柄を両手で掴み杖代わりにして、体を起こした状態で固定していた。
「勇者様はね、気まぐれなの。今日何しようかって三人で町歩いてたら、うちの僧侶が魔王狩りしようって言ったから、特にすることも無かったんでOKって言っただけなの。つまり、成行きでそうなったの、だから、あんまり深く聞いてあげないで」
勇者を巧みな言葉と身振り手振りで擁護する魔法使い。
魔法使いは勇者の熱狂的なファンだった。信者と言ってもいいかもしれない。
その様子を後ろで見ていた僧侶が、魔法使いより苛立った様子で割り入ってきた。
ほっかむりの薄緑のローブに長い白髭、節くれだった木の杖。
一見僧侶に相応しい身なりをしていた。
僧侶といえば、慈愛の精神で、補助系魔法や回復魔法で仲間をサポートする知恵ある優しい老人と言うのが相場だろうが、彼は違った。
「グダグダ言ってんじゃねぇ!俺が言ったんだよ、てめぇを斬るってな! いくぞ!」
荒々しい口調で魔王に罵倒を浴びせたかと思うと、有無を言わさず血走った目で魔王に襲い掛かる。
僧侶は魔法を唱えるかと思いきや、杖の先を横に捻ると長い剣を引っ張り出す。
杖だと思っていたものに剣を仕込んでいた。
「一刀両断!」
剣を振り上げ、助走をつけて空高く舞い上がり、上から魔王を切りつける。
魔王は首を傾げそれを楽々交わすと、素早い動きで僧侶の後ろへ回り込んだ。
「要はお前等は俺を殺しに来たって事だな、じゃ敵じゃねーか、とことんやらせてもらうぞ……」
僧侶は剣を振り回して、魔王に当てようと頑張るが、巧みなフットワークで全て交わされてしまう。
僧侶が剣を連続で振る合間を縫って、魔王の堅い拳が何度か顔面をとらえ、段々顔の形が変わってきていた。
――このままでは僧侶がやばい
「魔法使い! 魔法だ!」
重い腰をやっとあげ、勇者が珍しく口を開け指示を飛ばした。
「うん、わかった、勇者様!」
右目でウィンクを飛ばし、それに答える魔法使い。
「ファイアボーー……」
魔法使いが杖を横にして詠唱を終らせようとした時、僧侶の血まみれの顔を、魔王は右手で掴んで体ごと持ち上げ、自分の前に僧侶の体を持ってきた。
「打てるものなら打ってみな、こいつにあたるぜ」
「卑怯な! 」
魔法使いは詠唱を一旦止め、杖を握る手を震わせながら、その場で立ち尽くす。
そして、困ったような顔を勇者に向けた。
「勇者様どうしよぉー?」
魔法使いは首を小さく傾げながら、目に涙を浮べ勇者にぶりぶり視線を飛ばしていた。
――面倒くさいな〜……勝手に突っ込んでいった挙句、捕まって俺達に迷惑かけるし
しかし、今見捨てたら後々面倒だな――
しばらく、勇者は下を向いて考え込んでいた。
やがて、何か決意をしたのか、勇者は一人頷くと岩に腰掛けたまま、指先を魔王に向けた。
「待て、魔王! 複数でお前を襲おうとした俺達が悪かった、俺とサシでやろう」
青い眼を真直ぐ魔王に向けて、渋い台詞を口にする勇者。
しかし、その台詞を言い終えると、力なく下を向いてため息を放った。
「勇者様かっこいぃ〜〜〜」
魔法使いはその場で飛び跳ねながら黄色い声を勇者に向ける。
勇者は彼女に冷めた目で手を振り、苦笑いを浮かべた。
本来人見知りが激しく、目立つのが苦手な勇者は彼女にいつも振り回されていた。
今日も彼女の手前台詞多めだが、普段は無口な青年だった。
魔王は実は正々堂々とか、タイマンという言葉が大好きだ。
多勢に無勢で、さっきは僧侶を盾にして保身に奔ったが、その行為は彼からすれば本意ではなかった。
しばらく、物思いに耽っていたが、やがて僧侶をその場に捨てて口を開いた。
「ははは、人間のくせにまともな事いいやがる、その心意気は良し。やってやろう!」
勇者を見据えながらゆっくり歩み寄る魔王。
黒いローブを右手で剥ぎ取ると、薄いグレーの武道着を外に晒した。
この格好は魔王が本気で戦う時にだけ見せる、言わば勝負着。
その姿を見て勇者は目を細め、静かに鞘から剣を抜き取ると
その切っ先を魔王に向け構えた。
「ちょっと離れて見ててね」
勇者は魔法使いに視線を送り言いはなつと、心配そうな顔で見つめ返してきた。
「お、俺は大丈夫だから、僧侶を頼む……」
「分かったー、勇者様頑張って!」
勇者の真剣な顔に促され一言励ましの言葉を返すと、傷つき倒れた僧侶に駆け寄った。
そして彼を肩に担ぐと引きずりながら、300Mほど離れた岩の陰に移動した。
――離れすぎだろ……まぁ……いっか。
多少人任せにされた感は諌めないが、その辺は寛容な勇者。
「用意はいいか?」
魔王が前方姿勢で背を低くして、左足を軸にして右足を前に出す。
青い両腕を前に突き出し、その手のひらを揃えて勇者に向けた。
「魔光波!」
魔王がそう言い放つと、合わせた手のひらから突然ロケット砲のような
光の球が飛び出し、勇者目掛けて飛んでいった。
周りに熱気を放ちながら、眩い光の球が勇者に迫る!
「こんなもの……」
勇者は右手を前に突き出すと、突っ込んできた光の球を
易々と掴んで、握りつぶした。
光の粒子が握り拳の隙間からいくつか飛び散り、その後煙のようなものが
外へ吹き出た。
「なんだとー!!」
渾身の力を込めて放ったエネルギー球を軽々握りつぶされ、魔王に動揺が奔る。
顔を歪ませ、こめかみに冷たい汗が流れ落ちた。
――こいつ強いぞ……
魔王は左足で地を思いっきり蹴った。
次の瞬間勇者のすぐ前に現れると、右足を振り上げ横から蹴りつける。
それを難なく左手で受け止める勇者。
それとほぼ同時に体を動かさず、右拳を左側に素早く突き出し、がら明きの魔王の腹に捻じ込んだ。
魔王はその拳の衝撃で背中から大きな岩に吹っ飛ばされた。
岩は魔王の体に押しつぶされるように粉々に砕け散る。
大小さまざまな岩片が四方に飛び散り、その一部がその場に倒れこんだ魔王に降り注いだ。
辺りを砂煙が覆い尽くし魔王の姿が隠される。
――痛ぇ!! なんてパンチ力だよ……
岩に埋もれながら、悶える魔王。
――糞ぉ!!
魔王に降り積もった岩が振動し始めると、中から魔王が飛び出てきた。
岩と砂を一緒に巻き上げ、空高く舞ったかと思うと、勇者の前に緩やかに着地した。
魔王の後ろに砂塵が立ち込め、後方の景色が遮られる。
――出てきたはいいが、勝ち目はないぞ。
魔王はさっきの攻撃で勇者の力量をほぼ把握し、歴然たる力の差を感じていた。
――どうする? どうする? どうする?
自問自答しながら打開策を練り始めるが、今の実力では勇者に勝つ方法が見出せないでいた。
その場で息を荒くして勇者を見据え、立ち尽くす魔王。
「まー……、やる気なかったんだけど、成行きって事で、死んでくれる? 」
頭を掻き毟りながら、勇者は面倒くさそうに魔王に近寄ってくる。
――こいつはやばい、今は逃げるしか……
そう思うが先か、地面に落ちているローブを引っつかむと、魔王は地を蹴り空に舞った。
ある程度の高さまでくると、体を勇者に向けて口を振るわせる。
「お……ぉ覚えてろよ!」
そう一言言い残したかと思うと、魔王は逃げるように轟音と共に遥か上空へと上っていった。
「まぁ……いいか」
その姿をぼーっと見つめて佇む勇者。
しばらくして、勇者は剣を鞘に納めて一息つくと、仲間のいる方へ駆けて行った。
その頃、魔王は悔しさに唇をかみ締めながら、空を縦横無尽にかき回すように
飛んでいた。
前から襲ってくる風圧を諸共せず、前へ前へと突き進む。
――勇者があんなに強いとはな……ん?
魔王は空の上で急停止した。
蝶々が飛び交うように、光の粒がいくつも同じ場所を行き交っているのが目に入ったからだ。
その不思議な光景を前にして頭を傾げる。
――なんだ、これは?
その見たこともない物に好奇心が擽られたのか
手を突き出しその光の集まる場所へ近づけていく。
――ん? あれ……? 吸い込まれる?
魔王の手の先が見えない空間に、すっぽり吸い込まれて抜けない。
外に引き抜こうと力むほど中へと引き込まれていく。
だんだん手だけじゃなく体ごと吸い寄せられ始めると、魔王は大きな声を上げていた。
頭だけ残し体がすっぽり入ってしまうと、落ち着き払った顔で最後に一言言い残した。
「駄目だこれは……」
スポッ!




