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6 ベ、べつに怒ってなんかないんだから!


 俺は、生まれて初めて綺麗な女子とフレンドリーになり、今後、長い時間を共に過ごすことになった。




 とか、思った頃もありました……。




 でもね、世の中そんなに甘くはなかった。

 良いことの後には悪いことがあるってね。……って言うか異世界に来てからトータル悪いこと尽くしだ。

 

 あの後、宿に一つだけあるという風呂の予約をする為、ユフィーは受付へ降りていった。

 ちなみに風呂はこの世界にもあるらしい。ローマのテルマエみたいなのかな?

 詳細は聞いてないが、あるにこしたことはない。

 綺麗好きな訳ではないが、一日の終わりに入る湯舟はやっぱり癒されるからね。

 

 まあそこまでは良かった。いいや、それをこえて絶頂だった。

 なんせ、ユフィーと一緒に風呂へ入る予定だったんですから。

 断っておくが一応「俺、男だよ?」とか躊躇ったよ。

 でも、ユフィーさん、ほら、デフォコアラの俺が大好きらしいから。



「知ってるよ♪」



 てなもんでした。



 なのに……。


 なのにだ!

 なんだこいつはっ!




 バン! と俺は当てつけのように足下のテーブルに両拳を落とした。

 そこは、高そうな調度品が並ぶ薄暗い室内だった。

 俺はここがどこなのかも知らない。



「なんなんだ一体!」 



 俺は怒り任せに大声で怒鳴りつけた。

 目の前で眉間に皺を寄せる身なりのいい男に対して。

 

 だが、男はさして驚くでもなく、こう言いやがるのだった。



「なんだもなにも、私がお前を召喚んだのだ」



 と。





◇◇◇◇◇◇◇


 



 それは、ユフィーが風呂予約をするため、宿屋の部屋から出て受付へ下りて行った数分後のことだった。

 


 俺がベッドに寝そべって、今後のエロ展開を妄想していると。

 バタンッ!

 突然、強引に開け放たれた扉から、薄布の目だし帽を被った男たちが入ってきた。

 

 そして、


「いたぞ!」


「捕まえろ!」


「なっ!? うわっ!?」



 有無を言うことさえ出来ず、頭から麻袋を被せられる俺……。


 捕獲されて、袋に閉じ込められたのだ。

 

 真っ暗な中、焦って一応はジタバタした。反射的に抵抗したというべきか。

 だけど、



「うぎゃあああ!」



 暴れると、入れられた袋ごと振り回されて、目を回された。 

 人間扱いされてねえ……。

 遠心力のせいで気持ち悪い。

 

 遠くで、



「なにをしているの!」



 というユフィーの声が聞こえた気がしたが、体も頭もぐるぐるの俺には声を出すことすら出来なかった。

 


 ──それから、どれぐらい経ったのかも分からない。

 揺れ具合で誰かに運ばれているということだけは分かっていた。

 何度か手足をバタつかせたりして抵抗してはみたんだけど、暴れると「ダマレ!」って怒られて、ぐるぐる回されるので、おとなしくしていた。

 ぐるぐる、気持ち悪い……。

 だけど、真っ暗な中でおとなしくしてるうち疲れのせいかウトウトしてきて、眠ってしまった。

 怖くはあったが、いろいろあり過ぎだ。体がついてこない。

 

 

 その後、気付いたのは、ポスン、とどこかへ下ろされた時だった。

 やっと袋から出された。

 

 麻袋から転がり出た俺は、知らない部屋のテーブルの上にいた。

 目の前には重厚なソファに座る白髪オールバックの男。

 他にはだれもいない。

 俺を運んだと思われるヤツラは、俺をだしてすぐに男の後方にある扉から出て行った。

 

 この状況……、理由は不明だが何が起こったのかは簡単で、俺は誘拐されてここにいるのだ。

 本人の意思に関係なく、袋詰めにして連れ去るのは誘拐だ。

 目の前にいるということは、おそらくこの男が首謀者と見て間違いないだろう。

 

 ユフィーとの混浴を邪魔しやがった張本人だ!

 そこ? とか思うなよ。モテなかった童貞には一生問題だぞ。

 で、ビビリながらも叫んだのだ。



「なんなんだ一体!」


「なんだもなにも、私がお前を召喚んだのだ」


「よんだ?」


「そうだ、願いを叶えるため古い文献を紐解き、古代魔術を使ってな」


「はあっ?」



 思わず間抜けな声を出してしまった。


 この男が言っていることを鵜呑みにするなら、俺がこの異世界へ来たのは彼が魔術を使ったからということになるのだ。



「しかし、なにぶん複雑な術式故、手違いがあったのか、ここではなく別の場所へ召喚してしまったのだ」


「だったら拉致なんかしないで、ちゃんと話せばよかっただろうが。せめて風呂入ってから来たかったわ!」


「はじめはそのつもりだったのだが、捜索したところ君はすでに別の者の手に落ちていた。そこへ正攻法で行くとなると、こちらの事情を説明しなくてはならなくなる。そうなるといろいろと不都合が生じてくるのだ。そこで手っ取り早い方法を使わせてもらった」

 


 男は堂々と言っているが、それは人には聞かれたくない悪いことをしている、もしくは悪いことをこれからすると言っているように聞こえる。

 コアラ拉致らうのは当たり前みたいな物腰だからな。

 これは答えを間違うと、もしかしてぐるぐる以上の非道い目に合う?

 

 

 あれ? 俺、調子に乗ってテーブルバン! とかやっちゃったよ!

 口調も喧嘩腰じゃん。超弱いのに……。



「それで、ええと……俺をどうするつもり……です?」



 はい。ここからは下手です。美女との混浴を邪魔された怒りより恐怖が勝ったから。

 よく見たら一人だけど、この男結構ゴツイし、腰には剣もある。

 


 死にたくないです。



「ふむ。話が早くて助かる。では古の聖獣よ。ワシの願いを叶えてくれ。ワシの名はスレイヴだ」


「はい?」


「出来ぬ、と申すか」



 意味が分からず、俺がキョトン顔をすると、あからさまに男が怪訝顔になる。

 いや、だけど、こっち来てからみんな言うけど、俺聖獣とかいう尊くて強そうな生物じゃないし、願い叶えろって、ランプの精でもないから。



「……やはり生け贄が必要なのか」



 俺が黙っていると、スレイヴは勝手に自己完結している。

 う~ん……。なんかマズイ方へ進んでる気がする。

 生け贄って牛とかそれに似た動物か、下手したら人間だよね。

 それ捧げた挙げ句、「デキナイッス!」とか言ったらこの人キレるよね?

 けど、今聖獣とかじゃないって打ち明けていいものかも悩む。

 スレイヴが悪者なら、「用なしなら殺す」とか言いかねん。

 ので、



「ちなみにあなたの願いって、なんなの? ですか」



 ひとまず時間稼ぎ。

 その間に何か手段を考えよう。



 閃け! マイブレイン! ……隙見て逃げるか。



「願いか。それはな」



 ときめけ! マイハート! ……ユフィーとの混浴……入りたかったなあ。



「隣国を、いいや……世界を」



 疼け! 左腕! ……危機だ! いでよ我がチート能力!



「いっそすべてを、壊してやろうかと思ってな」



 ……。

 …………。



「……なんですと?」



 思わず聞き返しちまった。思考に集中出来る訳がない。

 だってスレイヴの言ってること、まんま超悪者なんだもん。

 俺、極悪人に召喚されたってことだよ。しかも、間違いで……。

 


 ああ、どうしよう。もうこれ無力ってバレたらDETHE一直線じゃん。

 


 だが……。

 だがだがだがだがっ!

 

 二度あることは三度あった!

 男の後方にある扉が勢いよく開く。

 

 そして、



「お待ちなさい」



 そう言って一人の人物が現れた。

 それは勿論!



「ユフィーっ! ……じゃない?」



 一瞬、本人かと見紛う。が、それは別の女性だった。

 顔はそっくりで美人だが、豪華なドレス姿でよく見ると、ユフィーが一回り老けたような感じだ。

 その女性は、おもむろにスレイヴに近寄ると、肩を竦めた。



「あなた……。いくらなんでも、娘を嫁にやりたくないからって。これはやり過ぎですわ」


「コーネリア! なぜ分かった!」 


「何年一緒にいるとお思いですか? ここ最近の挙動不審な態度を見ればイヤでも分かりますわ」


「くっ……しかし、このままでは、あいつは……ユフィーは結婚しちゃうんだぞっ!」


「ユフィーっ!?」



 俺は二人の会話に思わず割って入った。


 別人かもしれないが、この女性の容姿がそっくりなことから直感で血縁関係にあることは一目瞭然だろう。

 

 すると、女性、コーネリアは俺の元へと来て、



「あらあら、ずいぶんと可愛らしい聖獣様ですわね」



 そう言って微笑む。



 そしてそこへ、扉の向こうからドタドタと遠慮のない足音が響き、



「どういうことよ! お父様!」




 ユフィー本人が息を切らせて登場するのだった。


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