21 イ、イッちゃってるー
「私はニーリス。君の名前は?」
あれ?
予想に反してなぜか好印象な態度だ。
口の端を少しだけ上げて、企んでそうな笑みだけど、口調は優しい。
「え、ええと、ノゾミです」
「そう。じゃあノゾミ、君はこれから私の所有物ね」
「はっ!? なんで?」
……やっぱなんか違う。少女は微笑んでるけどこれは違う。
なんだ所有物って。
俺のことをペットかなにかと勘違いしてんのか。首輪とか付けてお散歩とかするのか。
そんなの一部の希少性癖の持ち主以外は喜ばないぞ。
少なくとも俺は嬉しくない。どちらかと言えば、俺はお散歩してやる派だぞ。
美少女がせがむから、「もう、仕方ねえな」とかぼやくフリして首輪付けてやって内心ドキドキしちゃう派だぞ。
けど、
「おい、ちょっと待てニーリス。神具以外の戦利品は山分けのはずだぞ。何勝手に決めてんだ」
「ノゾミが可愛いからよ。それにきっとノゾミもお前みたいな野蛮なクソ筋肉野郎より崇高なダークエルフの私に引き取られたいはず。違う?」
いろいろと引っかかる言葉はある。あるが、俺はニーリスと名乗った少女に迷わず首肯する。
ぶんぶん首を縦に振ったね。
この先どうなるかは分からんが、熊男に貰われたらなんか喰われそうだから。なんかゴドス系の臭いがするんだよな、この筋肉。
どうせ捕まるなら、恐ろしい熊よりはちょっと笑顔が怖い美少女だろう。
そしたら熊男がキレてニーリスとモメ出した。
「おい、チビ! テメー、ダークエルフで魔法が使えるからって調子ん乗ってんじゃねえぞ!」
熊男は威嚇するように持ってた大斧をわざとらしく肩に担ぎ上げた。
だけど、ニーリスに怯んだ様子はない。
いや、むしろなんか楽しそうに微笑んでいる。
「へー、そういうこと言っちゃうんだ~。オークみてえに汚ねえ体したゴブリンうんちのクセに」
「なんだとゴラッ!」
そして、いつのまに出したのか、ニーリスは細身のナイフを熊男の喉元へ突きつけていた。
「ダークエルフは魔法だけじゃなく暗殺も得意って忘れたの?」
「くっ……いや、それはその……」
熊男はそれでビビったらしく、さっきまでの威勢が途端に引っ込んでいく。
熊……、なんかこいつユフィーにも簡単にやられてたし、もしかして見掛け倒しなのか。
それともユフィーと、このニーリスが強過ぎるのか?
「なによ! ハッキリしなさいよ」
「えっと、だからだな、……そ、そいつ以外の戦利品は山分けだ」
「ふん。初めからそう言えばいいのよ」
話しがつくと、丁度そこへ他のやつらが追いついてくる。
盗賊が十人ぐらいに、黒ローブが五人。
多いな……。どうなっちゃうんだこれ。
熊男はニーリスから逃げるように三歩ほど下がり、盗賊たちへアナスタシアを運ぶよう指示を始めた。
どこに連れて行く気だ?
「あ、あのさニーリス」
「なあにノゾミン」
「ノゾミン?」
「そう、カワイイ呼び方でしょ」
「あ、そう……、そうね。それよりアナをどうするつもりなんだ」
「ラミス教の聖女? あいつはね──神具を奪って拷問するのよ。爪と指の間に針をぶっ刺したり、ナイフで身体の皮を少しずつ剥いでいくの。痛みで気絶するけど、また痛みで目を覚ますのよ。ウフフフフ素敵でしょ」
ぬおおおっ! とびっきり笑顔でなんか言ってるんですけどおおおおっ!
やっぱ怖えよこの娘! 満面の笑みと台詞のギャップがあり過ぎて実感湧かないけど、ピンチだ。
この流れだと、俺だけなら助からん気もしないでもない。
けど……、それではダメだ。
アナは顔面凶器で俺のことブス扱いだけど、二日間一緒にいて分かったことがある。
彼女はただ素直過ぎるだけなのだ。思ったことをドストレートに口から出しているだけで悪気はないのだ。実は性格だけなら【A】判定も出せる良い娘なのだ。
その証拠に、顔とか短足とかの事実以外の悪口は言われていないし、崖から落ちて死にそうになったのにその後も俺をずっと抱っこしたままここまで歩いて来たのだ。
追っ手に追われてる状況で障害物の多い森の中、普通ならもしもに備えて両手は開けとくだろ。
俺が逆の立場なら、昨日今日知り合った変顔の生物なんか、自分で歩けって言うね。もしもの場合は置いてくつもりなくても走ったらはぐれるな。
けどアナスタシアは、俺を見捨てなかった。
必死に走っている時もずっと離さなかったのだ。
そんなゴリラ──じゃなくて、アナスタシアを見捨てるのは、心苦しい。
だから、なんとかしなくてはいけない。
俺は拷問を思い浮かべているのか、「ウフフ」が止まらないニーリスを見上げた。




