20 セカンド美少女現る
「いたぞー!」
「聖女だ!」
叫ばれてやっと気づいた。
そいつらはアナスタシアの豚車を襲っていた盗賊だった。
夜に魔法で襲撃してきた黒いローブ姿のヤツラもいる。
仲間だったのか。
「やっべー、おい、逃げるぞ──って、どうした!」
こんな時に、アナスタシアがへなへなとしゃがみ込んでしまった。
辛うじて俺のことを支えてはいるが、その手にはあまり力が入らないらしく膝の上に乗せながらである。
「おい、大丈夫か」
「ごめんなさい。……もう、疲れて走れません」
「マジかっ!?」
こんな時に、だが無理もないのだろう。
考えてみればアナスタシアは、二晩も飯抜きで森の中を彷徨っていたのである。
ずっと抱っこされていた俺とは、体力の消耗が桁違いなのだ。
それにプラスして、やっと村を見つけたと思いきや追い出され、さらに人を見つけ、助けを求めようとしたら襲撃犯たちだったのだ。
一瞬ほっとして気を抜いたところに、やっぱりまだ頑張れ! って言われれも気力がついてこないのだろう。
だが、だからと言ってここで諦めては元も子もない。
無条件で攻撃してくるような奴らだ。捕まったらなにされるかわからん。
何かないか。このピンチを切り抜ける方法が……──あっ!
「アナ、お前聖女だろ! 聖女っていったら体力回復の魔法とか使えるんじゃねえか!」
「あっ! 忘れてましたわ」
「テメーはアホか! ふざけんのは顔だけにしとけ! すぐ使え!」
「はい、ではっ──あっ……」
「うわっ!」
ドサリ。
魔法を使おうとしたアナスタシアが突然、地面に倒れた。
……俺は下敷きだ。痛い。
けど、言ってる場合じゃない。
俺はなんとかアナスタシアの下から這いだ──そうとしたところで終わりを悟った。
「ふはははは! なんだこいつは。自分で倒れやがったぞ」
「おそらく、気力もないのに魔法を使おうとして気絶したのよ」
見上げると、盗賊の頭らしいユフィーにやられてたあの熊男と、フードを被ったローブ姿のヤツがこちらを見下ろしていた。
ローブの人物はフードが影になって顔はよく見えないが、その特徴的な幼声はテント前で一番近くまで接近してきた魔法襲撃犯のものだ。
「ん? お前、あの女剣士にくっついてた変なヤツだな」
熊男が首根っこ掴んで俺を猫みたいに摘み上げた。
抜け出せたのはいいが、今度は熊男が凄んでくる。
「てめー、何者だ。魔物か? なんでしゃべりやがるんだ」
「あ、いや、……その」
やっべー。超怖い! 腕とか丸太みたいに太いし、睨んだ顔、もう人殺しの顔だ。
「あん? なんだ、はっきり言えゴラッ! バラバラにすんぞ」
「うっ……」
「待って!」
熊男が至近距離でガン飛ばしてきたら、ローブのヤツが俺を引ったくった。
な、なんだ!
「……これって」
そいつはそう言うと、被っていたフードを取り顔を露わにした。
女だ。
声から予想はしていたが、ツーサイドアップのツインテールも相まってか、かなり若く見える。
銀髪で背も低くて華奢な身体つき。
日本なら中学生ぐらいか。
だが特筆すべきは、その整った顔立ちだ。ユフィーのような誰からも好かれそうな温かみのある美しさではないが、通った鼻筋と細くて少し吊り上がった目。そして薄い唇は、儚くて冷たい印象を受ける美しさだ。
しかも浅黒い肌に尖った耳。
ん?
もしかしてこれダークエルフとかいう種族か。
幼く見えるけど結構年齢高めなやつ。それから結構な確率でダークサイドなやつ……。
捕まった時点で今さらだけど、嫌な予感しかしない。
少女は眼前に俺を持ち上げると、薄紅色の唇を僅かに開き、ゆっくりと口角を持ち上げるのだった。




