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俺はラノベが大嫌い  作者: 壬生京太郎
エピローグ
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18/18

最終回『終わらない物語(ハッピーエンド)』

 それからのことは私、山本読が話そうと思う。


 向こうの世界への帰還。それはソードくん自身考えもしないことだったようだ。

 異世界で裏切られ、捨てられ、呪いの言葉すら吐いた。

 でも今は仲間がいる。向こうの世界の危機も知った。

 不破くんも死んだとは限らない。


 ソードくんは私を見た。

 その目には迷いがありありと見て取れた。


 ずるいなあ。

 ここで私に頼ろうだなんて。


「ソードくんがさ」


 私は慎重に言葉を選んだ。


「ソードくんがハッピーエンドになるためには、向こうの世界に行かなきゃいけないと思う。ソードくんの傷は、向こうの世界で受けたものだもの。向こうの世界でしか癒せない」


 ソードくんはヒーローだから。

 純粋すぎる人だから。

 あちらの世界を忘れてなんて、幸せになれるはずがない。


 ただ私は意地悪をした。

 彼の代わりに決断してあげることはしなかった。

 私は彼を試したのだ。


「ありがとう」


 ソードくんの顔から迷いの表情は消えていた。

 ああ、決めてしまったんだね。

 これでさようならなんだね。


「俺は、行くよ」


 それでいい。それが正解だ。

 でも間違いでもある。


 私はヒーローの真似事しかできないから。

 毅然としたふりを装って。

 にっこり微笑んで頷いたりして。

 ソードくんの旅立ちを見送ったりする。


 ソード・シンクラインは私のヒーローで、裏切り者だ。


 ――言ったじゃない!

 私を幸せにしてくれるって。

 二人でハッピーエンドになろうって。


 また大事な人がいなくなってしまうよ。

 私全然ハッピーじゃないよ。


 ソードくんの幸せが私の幸せ、なんて言えるほど、私かっこよくできてない。

 嘘つき。

 ソードくんの嘘つき、って責め立てたくなる。

 でもそれじゃ、困らせるだけだって分かってるから。


 空に浮かぶ銀色の球体からまばゆい光が降りてきて、その中へ異世界の住人たちが消えていく。


「向こうに帰ったら容赦しねえぞ」


 とか、


「とにかくまずは大陸だ」


 なんて話しながら。


 ソードくんも光に向かって歩き出す。が、ふと何かを思い出したように立ち止まる。


「読」


 どきりとした。

 私の黒い心の内を見透かされたようで。

 しかし相手はあのソードくんなのだ。鈍感ラノベ主人公なのだ。


「栞にもよろしく伝えといてくれ」


 間合いにいたらぶん殴っていたね。間違いなく。

 暴力ヒロインの称号も甘んじて受ける。


「ソード」

「それじゃ、読」


 佐竹山くんに促されて、ソードくんも光の中へ消える。

 ちょっとそこまで、みたいに軽く片手を上げて。すまない、って感じで苦笑しながら。


 巨大な銀色の球体……超次元シフターだったっけ……は暗雲に吸い込まれるように消えていき、晴れた後には影も形もなかった。

 あっけない。

 まるでこれまでの出来事が、夢物語だったみたいだ。


「読!」


 ずいぶんと見通しが良くなってしまった街の向こうから呼ぶ声がする。

 栞だ。

 戦いが終わったと知って駆けつけてきたのだろう。


「何があったの」


 私の様子から何か察したのか、栞は真剣な表情で私に尋ねた。

 私はと言えば、緊張が解けたのと親友の姿に安心したので、堪えていたものがどっと流れ出てしまった。


「行っちゃった……」


 その時の私は、ひどい顔をしていたと思う。

 ぼろぼろと涙がこぼれて、鼻水まで流して。栞以外の人にはとても見せられない。


「ソードくんの馬鹿! 口だけ男! あんな奴、一人で幸せになればいいんだわ!」

「読……」


 栞は私の頭をよしよししながら呆れたように呟いた。


「読、なんでソードくんについて行くって言わなかったの」

「――へ?」


 私は顔をくしゃくしゃにしたまま、ポカンと口を開けてしまった。


 ……しまったぁ!


 その手があったか。

 やっぱり栞(この子)のヒロイン力はすごい。

 完敗だ。


「しょうがないなあ、読は」

「栞ぃ~!」


 私は栞にすがりついて泣いた。

 栞も私の頭を抱きかかえながら泣いていた気がする。

 短い間だったけど色々なことがありすぎた。この涙は、ぽっかり抜け落ちてしまったそれへの手向けのようなものだ。

 ラノベのような日々だった。

 でもそれも終わる。

 いずれ終わるのが、物語だ。

 だから。


 私はラノベが大嫌い。


 初めてそんなことを思った。


 夏休みが来る。

 高校最初の夏休みだ。



 休みと言っても何もなかった。

 当たり前だ。街はボロボロ、遊ぶところがない。

 住むところを失って避難所から仮設住宅暮らしとなった人も多い。田舎に帰った人もいる。幸いにもうちは無事だったが、それでもインフラが整備されるまで結構ドタバタした。

 そういえば一つだけ。

 ベクシルのエージェントを名乗る人がやってきた。

 そこら辺にいそうな背広のおじさんと、スーツに身を包んだ若い女性の二人組だった。玄関先でにこやかにこの度の件を口外しないようお願いされ、和菓子と市役所で配布されているような守秘義務のパンフレットを渡された。

 ほのぼのとしたイラストで「次元間の安定が失われるとこんなことが起こります」なんて書かれているのを見ると、むしろ現実感がなくなってくる。

 今回の件も局地的な断層の活動とそれに伴う二次災害として処理された。あの二人みたいな人達が政府とかもっと大きなところと関係を持っていたんだろう。過去私たちの知らないところでも似たような事件はたくさんあったのかもしれない。

 パンフレットはクリアファイルに挟んで机の引き出しに入れてある。なにもかも失われてしまった今、残った唯一の形あるものだ。

 今でも時々眺めては、あれは夢だったんじゃないかとぼんやり考える。


 朗報もある。

 街がこの有様なので、近隣の生徒は隣の市で一緒に授業を受けることになった。

 結果、栞と同じクラスになった。

 片道一時間半、これが続くのはうんざりだけど、ろくに娯楽もない中で、一日中部屋に閉じこもっているよりはましだ。

 今日は夏休み明け、その初登校の日だ。

 詰襟、ブレザー、セーラー服、各々違った制服に身を包んで駅から同じ通学路を行くのは華やかだと不謹慎ながら思ってしまう。

 教室などちょっとしたモザイク柄だ。


「読」


 先に来ていた栞が生徒の隙間から呼びかける。


「ああー、久しぶりの生栞だー」

「って、どこ触ろうとしてるの」

「いやあ、ラノベ風の挨拶をですね」

「見てあの子。髪すごくきれい。染めてるのかな」


 どこの学校の生徒だろう。アッシュブロンドとでもいうのだろうか。プラチナブロンドより少し青みがかった髪色のおとなしそうな少女が窓際の席で風に吹かれている。

 その表情は険しい。

 外を眺めているというより、警戒している?

 どこか謎めいた雰囲気に好奇心がくすぐられた。


「あとで声をかけてみようか」


 そんなことを話していた時。


「おっす読、栞」


 入ってきた生徒に私は目を疑った。

 眼帯、白髪頭、右手の包帯。

 こんなのがそこらにいるはずがない。

 しかもそれが、何事もなかったように私たちの隣の席にカバンを置いたりする。


「いや、結構手間取っちゃってさ。夏休みの宿題とか手つかず……読?」

「な、な、な……」


 私たちのやり取りに、クラス中が振り返る。


「ソードくん……どうしてここに?!」

「どうしてって言われても。問題あるだろ、借金とかいろいろ」


 ソードくんはぼきぼきと体を鳴らして伸びをした。


「大変だったんだぜ、夏休み中に片付けるの。大陸側なんて古代の発掘兵器を持ち出してきてさ」

「終わった? 夏休み中に?」

「まあある程度向こうの連中に任せてきたけど」


 確かに彼はスーパーチート主人公ではあったけれど。

 それにしても早すぎる。


「ソードくんはさ」


 私は一つ、気になることを聞いた。


「ソードくんはそれでよかったの?」

「やり残したことがあるとハッピーエンドにはなれない、だろ。ほらその……約束だってあるし」


 そう言うと、ソードくんはどこか照れくさそうに顔をそむけた。

 そうだった。

 ソード・シンクラインは、新蔵院蒼人は、ほんとうにまっすぐで。

 純粋すぎる人で。

 こちらの世界のことだって、忘れるなんてありえなかったのだ。


「ソードさま!」


 登校してきた生徒たちをかき分けるようにして、まだ年端も行かない金髪碧眼の少女が教室に入ってくる。その手には重箱の包みを抱えている。


「お忘れ物です。これからはお昼はこのニムエが用意するといったではありませんか!」

「今日は半ドン。弁当は必要ないの」


 今度こそ目立たない日常を、とでも思っていたのかもしれない。

 集まる周囲からの視線に、ソードくんは大きくため息をついた。


「ははは……」


 なんだか次々と、これまでの日々が教室の扉から戻ってきて。

 私は。


「あははははは!」

「読?」

「どうしたんだよ、読」


 私は笑った。

 ちょっとだけこぼれた涙は笑い泣き、ということにしておこう。

 そうだ。

 ラノベを書こう。

 今なら大ヒット間違いなしの、すごいやつが書ける気がする。



 でもこの時の私たちは知らなかった。

 学校を監視する謎の一団がいることを。


「間違いないのか、その女がいるって言うのは」


 近隣のマンションの一室、目つきばかりが獣のようにぎらぎらとした、アルビノの少年が問いかける。

 カーテンの隙間から双眼鏡で各教室をチェックしていた黒服の男が応じた。


「ああ。能力名『通行手形フリーパス』。世の中のどんなパスコードも無効化できる能力の持ち主だ。殺すなよ、『防御不能キャンセラー』。生きたまま連れてこいとのお達しだ」

「分かってる。でも手足の二、三本なら構わないだろ」


 そう言って少年は手にしたナイフを軽く回すと、黒い裂け目のような笑みを浮かべた。



 私たちを見ていたのは彼らだけではなかった。

 校庭を挟んだ家屋の屋根の上、三人の人影が立っている。


「あの街を破壊した聖剣の持ち主、ねえ」

「腕が鳴るだろう、宮本武蔵」


 宮本武蔵と呼ばれた少女はへっ、と笑う。


「あんたこそそのエクスカリバーとどちらが強いか力試しがしたいんじゃないのか、アーサー王」


 甲冑の少女はそれには答えず傍らの全身包帯の男を見た。


「因果律すら捻じ曲げかねない強大な力……それを手に入れてあなたは何をするつもりだ、『朽ちた剣』」

「…………」


 『朽ちた剣』はその金色の瞳で校舎を見つめるだけだった。



 事態は私たちのすぐ近くでも進行していた。


「哀川さんってさ、好きな人とかいる?」

「え、いや、いないこともない、っていうか」


 クラスメイトの問いかけに、栞が顔を赤くする。


「いいこと教えたげよっか。恋愛成就のおまじない。町はずれに無人の神社があるんだけど、そこの木に自分の髪を結わえて『アスモデウス様、私の願いをお聞き届けください』って唱えるの。よく効くって評判なんだから」

「へ、へえ……」


 栞はちらり、とソードくんの方を見た。


 そして佐竹山くんが飛び込んでくる。





「事件だ、ソード!」





 人生という旅は続く。

 厄介な問題を道連れに。

 物語はいつ終わるのか。

 きっとそれは、その道連れと別れた時なのだ。



 ――私はまだ、ハッピーエンドを迎えていない。



完結です。

逆さに振っても鼻血も出てきません。

出し切りました。

今の自分だと、ここがピークだなあと。

この先を書く為にはきっと更なる人生修業が必要なのでしょう。

いつかまだやれたなと思えることを夢見つつ、とりあえずここでピリオドを打ちます。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

次回作も多分あると思うので、そちらでまたお会いできれば幸いです。


その為のやる気をください。ブクマとか評価とか(ストレート


それでは。


あとがきめいたもの

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1040373/blogkey/1792061/

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