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汚れなき誓い

 血の匂いが立ち込める泥の中で、少女は震えていた。自分の手で短剣を突き立て、命を奪った男の亡骸。


 その傍らで、ジャネットは激しい慟哭の後に、信じられない行動に出た。


 彼女は、血に染まったその両手を、胸の前でそっと合わせたのだ。


「……主よ、どうかこの哀れな迷い子の魂を、暗闇から救い出してあげてください。生きていくために奪うしかなかった彼の罪を、どうか、私に免じて許してください……」


 涙がボロボロと溢れ、血のついた頬を濡らしていく。


 自分を殺そうとし、村を焼き尽くそうとした凶悪な男のために、彼女は全身全霊で「祈り」を捧げていた。


 その姿を、パテーの兵士たちも、物陰から恐る恐る見ていた村人たちも、言葉を失って見つめていた。


「俺たちは……なんて情けない奴らだ」元野盗の頭目が、拳を地面に叩きつけた。


 男たちの目からも、大粒の涙がこぼれ落ちる。


「ジャネット様は、俺たちのために手を汚されたんだ。誰も殺したくないと泣いていたあのお方に、俺たちが、人殺しの刃を握らせちまったんだ!」


 その瞬間、男たちの心の中で、生半可な忠誠を超えた「狂おしいほどの誓い」が燃え上がった。


「二度とあんな顔をさせてたまるか! 二度とジャネット様に剣を持たせるな!」


「次から敵が来たら、俺たちが盾になる! たえとこの命が尽きても、ジャネット様の魂だけは、俺たちが地獄の汚れから守り抜くんだ!」


 その誓いは、兵士たちだけのものではなかった。怯えていた村人たちもまた、クワや鎌を握りしめ、兵士たちの隣に並んだ。


「俺たちもだ。あの子をもう、一人にはさせない。この村は、俺たちの手で守る!」聖女の流した悲しみの涙が、さっきまで疑心暗鬼だった元野盗と村人たちの心を、完全に一つに結びつけたのだ。


 *


 それからの男たちの働きぶりは、凄まじいものだった。敵襲に備えた強固な柵が村の周囲に張り巡らされ、昼夜を問わず見張りが立った。


 村は見事に復興を遂げ、黄金色の豊かな麦が実る頃には、そこは戦後フランスの奇跡のような理想郷が完成していた。


 ある夕暮れ時。美しく実った黄金の畑を見つめるジャネットの元に、仲間たちが集まってきた。


「ジャネット様、今年の収穫は大丈夫です。これでこの村が冬を越せない心配は、もうどこにもありませんよ」


 誇らしげに胸を張る仲間たちに、ジャネットは心からの優しい笑みを向けた。


「ありがとうございます。みんなが頑張ってくれたおかげです


 」しかし、彼女の瞳には、どこか遠くを見つめるような、静かな光が宿っていた。ジャネットはゆっくりと振り返り、仲間たちの目を見つめた。


「皆さんに、一つ、お願いがあります。……この村の暮らしが落ち着いたら、私を、あの場所へ連れて行ってくれませんか。――パテーの戦場です」


 仲間たちの身体が、一瞬でこわばった。


「あそこは、私たちが勝つために、あまりにも多くの命を奪い、踏みにじった場所です。戦争は終わりました。だからこそ……私はあの大地へ行き、敵味方の区別なく、あそこで眠るすべての魂に、鎮魂の祈りを捧げたいのです」


「分かりました、ジャネット様。どこまでもお供いたします」



 かつてはフランスを救う軍隊として進軍した男たちが、今度は、傷ついた魂を救う「祈りの旅団」として、再びあの伝説の戦場へと歩みを進める準備を始めるのだった。



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