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プロローグ

夜が明けるより前のこと。

辺境の小さな村のはずれに、ひとつだけ灯りがあった。

それは家の窓ではなく、月の光でもなく――ただひとり、剣を振るう少年の周りに漂う、白い吐息だった。


少年の名は、カゲト・サクヤ。

十八になったばかりの、痩せた、小柄な、誰の目にも映らない少年だ。


低い背丈。

細い腕。

力任せに振れない剣を、それでも振り続けて七年が経つ。


ぶん、と空を裂く音は、虫の声よりも控えめだった。

無駄を削る。動きを削る。呼吸を整える。

弱い者の剣は、最短でなければ届かない。最小でなければ続かない。そのことを、この身体だけが知っていた。


百を数え、千を数え、それでも止めない。

止めれば、寒さが骨の芯まで沁みてくるから。

止めれば、自分が誰にも必要とされていないことを、思い出してしまうから。


山際が、わずかに白み始めている。

遠くで、鶏が鳴いた。


「……今日も、生きてる」


呟きは白い息になって、空気に溶けた。

誰に届くわけでもない。

それでも口にしたのは、自分自身に確かめさせるためだった。


世界は、広いという。

村の老人たちは口をそろえて言った。お前のような者には関係のない話だ、と。

だが少年は、ひそかに思っていた。


――広い世界の、片隅でいい。

誰にも気づかれなくていい。

ただ、自分の足で立てる場所を、ひとつだけ、見つけたい。


それだけが、彼が剣を握り続ける理由だった。


霧の向こうから、村の朝の音が、ゆっくりと近づいてくる。

少年はもう一度、剣を構えた。

夜が、明けていく。


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