02-22-ex. 調査結果
「というのが、今回の報告になります」
エーデルラント領から戻った私は、調査結果を取りまとめた報告書を依頼主へと提出した。
文章だけで状況を表現するのではなく、現地で何枚も撮影した記録写真も忘れずに添えてある。
久々のやり甲斐のある仕事ということもあり、自分でも完璧と自負できるほどの仕上がりだ。
「へぇ……魔導機兵を破壊したのがミリーちゃんだったのは、間違いなさそうだねぇ」
レオノーラ女学院の一室――王族の関係者のみが使用できる特別な空間にて、私は依頼主の少女とアンティークな机を挟んで対面に座っていた。
彼女はいつものようにどこか気怠そうな様子で、提出した書類をパラパラとめくっていく。
少し下がり気味の細い眉に、母親譲りの綺麗な琥珀色の瞳。
肩まで届く明るい茶髪は、左側の一房だけが丁寧に三つ編みにされている。その先端を無意識に指先で弄ぶのが、彼女の癖の一つだった。
容姿こそ可憐で可愛らしいものの、少々難のある性格をしているのが玉に瑕である。
「でも、こっちの映像は全然見えないねぇ」
提出した記録用の魔導具には、ミリーちゃんがワイバーンと戦っていた際の映像を保存してあるのだが、いかんせん距離があったため、遠目で人物の特定までは難しい。
「あれ以上近づいていたら、感づかれていた可能性が高いんですよ」
戦闘後、うっかり崖上から身を乗り出そうとした際、一瞬だけ鋭い視線を感じて肝を冷やしたのだ。
直後に竜種の迷宮獣が出現したおかげで彼女の意識もそちらへ逸れ、事なきを得たようだったが……本当に危ないところだった。
「まあ、いいかぁ」
そう呟きながら、いつ見ても素晴らしいデザインの制服に身を包んだ依頼主は、続いて竜種の迷宮獣に関する資料へと視線を落とした。
「チェルクリオのダンジョンに竜種かぁ……一歩間違えれば緊急事態だったねぇ。ところでこのモンスター、アンリエッタ先生なら単騎で倒せる?」
「そうですね……」
あの個体は、まだ小型の部類だった。
とはいえ高い威力の魔法に加え、高速移動による怒涛の連撃はなかなかに厄介そうに思えた。国軍の専門部隊であったとしても、ある程度の被害は覚悟しなければならないレベルだろう。
「さすがに無傷で討伐、とまではいかないかもしれませんね」
「へぇ……それはまた、相当やばい強さだねぇ」
報告書のすべてを確認し終えた少女は、どうやら自身の見立てが正しかったのだと満足そうに頷いた。
「それで、ミリーちゃんを調べてどうするつもりなのですか?」
「ん? うーん、別にぃ」
「ええ? そろそろ教えてもらえて……は!?」
まさか――!?
私は一つの恐ろしい可能性に行き当たり、ガタンと音を立てて勢いよく立ち上がった。
「まさか、ミリーちゃんを独り占めするつもりですか!?」
「え?」
あの年齢にしてあの圧倒的な強さ。国として危険視するのは当然だ。
どこか人目のつかない場所へ軟禁し、国家の手で厳重に管理・独占する……いや、そうに違いない!
「ダメですよ、そんなの! ズルいです!」
「何言ってるのか全くわからないけど……絶対に違うと思うなぁ」
「本当ですか?」
「いくら王族とはいえ、今の時代にそんなことしたらバッシングものだからねぇ」
それもそうか。であれば安心かな。
私はひとり納得して胸を撫で下ろし、再び静かに腰を下ろした。
「はぁ……変な誤解を与えておくと面倒だから一応伝えておくよ。アルドグラードの『あの子』の件でねぇ」
「ああ、そちらの件でしたか。でも、ミリーちゃんは直接関係ないですよね?」
「直接はねぇ。でも、もしものことが起きたら……」
「起きたら?」
「やっぱり、今はまだ内緒かなぁ」
相変わらず、肝心な本心は明かしてくれない。
本当に素直じゃない子だな、と思う。そういう偏屈なところは、彼女の父親譲りなのかもしれないけれど。
「そんなことより、今回の報告書、なんだか私情が多く混ざってなくないかなぁ? やたらとミリーちゃんの写真……それも食事している時の姿が多い気がするんだけど」
「えっ、可愛い女の子が美味しそうに食事しているシーンなんて、最高じゃないですか」
「……仮にも異端審問官なんだから、しっかりしてよねぇ……アンリエッタ先生」
一瞬、彼女の琥珀色の瞳がギラりと金色に光る。
すべてを見透かされるような、まるで巨大な魔物に見つめられたかのような――どこか畏怖すら感じさせる威圧感。
「そっちの仕事はもう本業ではありませんからね……セラフィーナ王女殿下、様」
私の依頼主であり、ここウィンスフェルド王国の第三王女である彼女は、私の返答にやれやれといった様子で深く椅子に体を預けた。
「はぁ……ま、とりあえずありがとねぇ。おかげで懸念事項が一つ解消されたよ。今回の依頼はこれでおしまいだから、また元の仕事に戻ってもいいよ」
「えー!? 嫌ですよ!」
私は再びガタンと勢いよく音を立てて立ち上がり、抗議の声を上げた。
「どうして? 異端審問官はもう引退するのぉ? 私のお抱え諜報員がそんなに良かった?」
「違います! この女学院には可愛い女の子がたくさん集まっているんですよ!? 離れられるわけないじゃないですか!」
「えぇ……」
ふふん、女学院の教師……もしかして私の天職なのでは?
「はぁ……まぁ好きにしたら。その代わり大人なんだから、責任は自分で取ってよねぇ」
なぜか深い溜息をつく王女様をよそに、私は明日の授業で何を教えようかと、楽しく思いを巡らせるのだった。
Episode2 Fin.




