↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜体魔導士の転生録 ―我が魔導の極致をこの時代に綴る―  作者: 加茂正路
エピソードⅡ ダンジョン&モンスター
PR
48/48

02-22-ex. 調査結果

「というのが、今回の報告になります」


エーデルラント領から戻った私は、調査結果を取りまとめた報告書を依頼主へと提出した。

文章だけで状況を表現するのではなく、現地で何枚も撮影した記録写真も忘れずに添えてある。

久々のやり甲斐のある仕事ということもあり、自分でも完璧と自負できるほどの仕上がりだ。


「へぇ……魔導機兵(まどうきへい)を破壊したのがミリーちゃんだったのは、間違いなさそうだねぇ」


レオノーラ女学院の一室――王族の関係者のみが使用できる特別な空間にて、私は依頼主の少女とアンティークな机を挟んで対面に座っていた。

彼女はいつものようにどこか気怠(けだる)そうな様子で、提出した書類をパラパラとめくっていく。


少し下がり気味の細い眉に、母親譲りの綺麗な琥珀色(こはくいろ)の瞳。

肩まで届く明るい茶髪は、左側の一房だけが丁寧に三つ編みにされている。その先端を無意識に指先で弄(もてあそ)ぶのが、彼女の癖の一つだった。

容姿こそ可憐で可愛らしいものの、少々難のある性格をしているのが玉に瑕(きず)である。


「でも、こっちの映像は全然見えないねぇ」


提出した記録用の魔導具には、ミリーちゃんがワイバーンと戦っていた際の映像を保存してあるのだが、いかんせん距離があったため、遠目で人物の特定までは難しい。


「あれ以上近づいていたら、感づかれていた可能性が高いんですよ」


戦闘後、うっかり崖上から身を乗り出そうとした際、一瞬だけ鋭い視線を感じて肝を冷やしたのだ。

直後に竜種の迷宮獣が出現したおかげで彼女の意識もそちらへ逸(そ)れ、事なきを得たようだったが……本当に危ないところだった。


「まあ、いいかぁ」


そう呟きながら、いつ見ても素晴らしいデザインの制服に身を包んだ依頼主は、続いて竜種の迷宮獣に関する資料へと視線を落とした。


「チェルクリオのダンジョンに竜種かぁ……一歩間違えれば緊急事態だったねぇ。ところでこのモンスター、アンリエッタ先生なら単騎で倒せる?」

「そうですね……」


あの個体は、まだ小型の部類だった。

とはいえ高い威力の魔法に加え、高速移動による怒涛(どとう)の連撃はなかなかに厄介そうに思えた。国軍の専門部隊であったとしても、ある程度の被害は覚悟しなければならないレベルだろう。


「さすがに無傷で討伐、とまではいかないかもしれませんね」

「へぇ……それはまた、相当やばい強さだねぇ」


報告書のすべてを確認し終えた少女は、どうやら自身の見立てが正しかったのだと満足そうに頷いた。


「それで、ミリーちゃんを調べてどうするつもりなのですか?」

「ん? うーん、別にぃ」

「ええ? そろそろ教えてもらえて……は!?」


まさか――!?

私は一つの恐ろしい可能性に行き当たり、ガタンと音を立てて勢いよく立ち上がった。


「まさか、ミリーちゃんを独り占めするつもりですか!?」

「え?」


あの年齢にしてあの圧倒的な強さ。国として危険視するのは当然だ。

どこか人目のつかない場所へ軟禁し、国家の手で厳重に管理・独占する……いや、そうに違いない!


「ダメですよ、そんなの! ズルいです!」

「何言ってるのか全くわからないけど……絶対に違うと思うなぁ」

「本当ですか?」

「いくら王族とはいえ、今の時代にそんなことしたらバッシングものだからねぇ」


それもそうか。であれば安心かな。

私はひとり納得して胸を撫(な)で下ろし、再び静かに腰を下ろした。


「はぁ……変な誤解を与えておくと面倒だから一応伝えておくよ。アルドグラードの『あの子』の件でねぇ」

「ああ、そちらの件でしたか。でも、ミリーちゃんは直接関係ないですよね?」

「直接はねぇ。でも、もしものことが起きたら……」

「起きたら?」

「やっぱり、今はまだ内緒かなぁ」


相変わらず、肝心な本心は明かしてくれない。

本当に素直じゃない子だな、と思う。そういう偏屈なところは、彼女の父親譲りなのかもしれないけれど。


「そんなことより、今回の報告書、なんだか私情が多く混ざってなくないかなぁ? やたらとミリーちゃんの写真……それも食事している時の姿が多い気がするんだけど」

「えっ、可愛い女の子が美味しそうに食事しているシーンなんて、最高じゃないですか」

「……仮にも異端審問官なんだから、しっかりしてよねぇ……アンリエッタ先生」


一瞬、彼女の琥珀色の瞳がギラりと金色に光る。

すべてを見透かされるような、まるで巨大な魔物に見つめられたかのような――どこか畏怖(いふ)すら感じさせる威圧感。


「そっちの仕事はもう本業ではありませんからね……セラフィーナ王女殿下、様」


私の依頼主であり、ここウィンスフェルド王国の第三王女である彼女は、私の返答にやれやれといった様子で深く椅子に体を預けた。


「はぁ……ま、とりあえずありがとねぇ。おかげで懸念事項が一つ解消されたよ。今回の依頼はこれでおしまいだから、また元の仕事に戻ってもいいよ」

「えー!? 嫌ですよ!」


私は再びガタンと勢いよく音を立てて立ち上がり、抗議の声を上げた。


「どうして? 異端審問官はもう引退するのぉ? 私のお抱え諜報員がそんなに良かった?」

「違います! この女学院には可愛い女の子がたくさん集まっているんですよ!? 離れられるわけないじゃないですか!」

「えぇ……」


ふふん、女学院の教師……もしかして私の天職なのでは?


「はぁ……まぁ好きにしたら。その代わり大人なんだから、責任は自分で取ってよねぇ」


なぜか深い溜息をつく王女様をよそに、私は明日の授業で何を教えようかと、楽しく思いを巡らせるのだった。

Episode2 Fin.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。