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社畜勇者を辞めて、そのあとは……  作者: 緑川
憂鬱な月曜日に別れを告げよう

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7/7

第一歩 俺がいなくても世界は回る

約、数時間前のこと。


「やぁ、奴隷くん。かな?」


「あんただな、今の王は」


「生憎、(玉座)に空きは無いんだ」


「そんな野暮用で来たんじゃない」


「あっ、そうなんだ。じゃ、何用で」


「もう、わかってるんじゃないか?」


「そうか、バレていたんだね。私がこうして、ココへこの時間に独りで来ることに」


「オレのところまで回ってきた噂だ」


「本当に愛されていないんだな、ワタシは。けれど、ワタシを殺しても、神様も信者もいなくならないよ? それどころか――」

「黙れ」


「ねぇ、せめて最後にゲームをしない?」


「あんた、自分の立場わかってるのか?」

「駄目かな? もし君が勝ったら――私は大人しく王冠ごと全部だって、喜んで自分から差し出すからさ」


「……。なんのゲームだ」


「そうこなくっちゃ」

 痰や唾液などとは比較対象にもならない不快感。熱を持った血液を口からダラダラと垂れ流して――血溜まりの水面に浮かぶ、己の揺らぐ瞳を疑った。


 痛い。


 生命の危険とは無縁の生活を送っていたせいで、永らく忘れていた堪え難い感覚が突きつけてくる。


 だが、それ以上に、


「フッー……!! ッッッフー」


 奴のプライドが邪魔した余計な加減の申し出と平然を装うその様に、腸が煮え繰り返ってならない。


 無理やりに研ぎ澄まされた五感が襲う、新感覚。


 何度となくぶつかり合った経験から嫌でも学べたお得意の姑息と会釈と搦手(からめて)使いに、ただ俺は迫る。


 どうにも収まらねぇ気持ちとは裏腹に、制止を諦めた武力行使の構えの一挙動を容易く読み取って。


 いつになく武術の滑らかな動きに合わせ、絡み取ろうとするまんま触手の四肢に敢えて踏み込んで、


「っ!?」


 恒例の単純な力勝負へ、すげ替える。


 その気になりゃ野郎の顔面噛み付ける距離感で、片方の肩を外す勢いで関節を固め、反撃を待った。


 偽りの間に乗じた空間を抉ってくる殴打を華麗に籠手で受け流し、今ので宙舞う破片を裏拳で弾く。


 目を閉じる。

 なんて甘えた一手に手を抜かず、端正な顔立ちに。


 渾身を繰り出し――!?

視界の片隅にいきなり飛び込んできた、ヒトカゲ?


 手には神殿に飾られた石盤らしきモンを抱え、こっそりとまるで盗みを働くような素振りであった。

 

 いや、誰だよ。


「なぁ、今……」


 普通に油断しちゃった。

 

 戦闘の最中に相手に瞬き数十回分の猶予を与え、当たり前にオレのガラ空きだった顎に衝撃が走る。


「っ、さっきから痛えっつてんだろうが!」


 テキトーに殴り返すものの、

 思い返せば、いつだって俺は一発KOで終わらせちゃうから相当な反撃にはまるで長けていなかった。


 (むし)ろ、カウンター分野を叩き込んできやがり、鎧とセットの肘打ちが奥の歯を容赦なくへし折った。


 じわっと溢れ出る湯水に嚥下が拒絶反応を起こす。

おまけに、

 首根っこ掴まれ息詰まり、口の中でも喉詰まる。


 極め付けは、


「戴冠式の反革命軍の鎮圧は?

建国記念日の一神教の布教の抑制は?

王関係者暗殺阻止を名目に民草を事実上恐怖支配」


 走馬灯にまで被せてきそうなお説教。


「こっちが身振り手振りで、懸命に伝えてやってんのに」


 終始、傷心に浸ったエンドムーブに腹が立ち――意識が途切れそうな中、別の角度から逆襲に出た。


「どっ、――ドワーフの一族の存続を天命に賭け、なんて宣った頑固野郎の代わりに金ェ支払って、故郷から許嫁まで何もかも捨てた、あんっの天然エルフ。そンの偽りの英雄譚を語り続ける……のは?」


 ゴホッ。


 誰にも感謝されやしない。


ポケットマネーを半分以上分取られ、バレたら国家問題に発展するってのに、名家生まれのお前は? 魔王滅ぼしたら、其処らの貴族女に性欲発散させてお猿の大将気取りで子供を作りまくって、仕事は楽なモンに囲まれて塀のお外をお散歩? 豪邸に帰りゃ山程のメイドたちに朝から晩までお世話されて、誰もが羨む豪邸に住んでんだろうが!! これの何処が可哀想だ? ぁぁ!? 大体、あの二人が死んだのだって…………無駄に偉っそうな魔術師連中が、国家名義で指示してきたから、従ったまでだ。


 正義か悪かだなんて、世界規模なら全て虚無だ。


「アッ、ア゙ア゙ア゙ァ……」


「オマエは何千倍も勇者の素質を持っているんだ」


 まだやるの、この話。

 このまんま???


「この世には、オマエが必要だよ」


 そう、手を離した。


「ハァァ、はぁはぁぁぁ、ゴボッ!!」


 今日飲んだ、量を誤魔化してくる葡萄酒なんかより、樽いっぱいに血飛沫シャワーを地に浴びせた。


 んで、まだ諦めそうにない、野郎にも。


「だ、だって、負け犬や、失敗作? がっ、社会を成り立たせているんだからなぁ。ま、理想ってのを語るには、そういうのが真っ先に、捨てられるがな」


「それを支えるのが、勇者だろう?」


「なんだって?」


「だったら何故、改革を、全てを変えようとしない!?」


「限りなく正当な暴力ほど、振るう側が痛ぇェんだよ!! 今だって、お前のせいでぶっ倒れそうだ」


「この世ではまともに澄み切った水も飲めぬ子らがいる」


「知るか。この世のどこぞに棲まうかも知れん不特定多数の同情買う為に自分の幸せ捨てられるか! ()()()()()()()()()()()()


「いい加減、大人になったらどうだ!?」


「だからこうなったんだろうが!」


「元を辿れば、全てオマエが許可なく魔王を勝手に殺したことが始まりだろうがっ!!」


「ぁあ」


 コッチがあと一歩で気ィ失うってときに、

 メリスが余計なお世話でトドメを刺してきた。

 

「ア゙、ア、アア――ァァァ」


 だが、裏目に出た。


「ま、待て」


 国を背負う重みもしらねぇから、いっつも羽織る気分でっ永遠の二番手だってのに、ゴミのくせに。


 猿真似バカのマントを鷲掴みにして手繰り寄せ、ただ力強く握り締めた拳を振るう。


 正に間一髪、死に物狂いに躱し、それはあらゆる行く先を阻むモノをぶっ壊し終え――空を切った。


 でも、まだだ。

 真っ白なマントはこっちの掌で赤く染まってる。


「しまっ」


 軽めの足蹴を、隙だらけの土手っ腹にぶち込む。


 壁際に叩きつけられ、神殿までもが響動めいた。何かに背を預けなけりゃ座るのもやっとの状態で、どうもそれも限界のようで奴は項垂れつつあった。


 最後の仕上げに――オレは徐に剣に手をかける。


 どうせオマエは4代目大好き、ーーの信奉者連中と一緒に、またオレのことを追ってくるんだろう。


()()()()()()()()()


 そして、


「!!」


 夜明けの明かりの差してくる下に、突き立てた。


 コレも、置いていくか。


 よく手に馴染む――父さんのたった一つの形見(身分証)を取り出し、もう必要のない剣の十字の柄に飾って。


 ずっと首に繋がれたモンとか(しがらみ)に囚われた何もかもから解き放たれたような、いやそうに違いない。


 ただ、終えたことを背に向け、悠然と闊歩する。


「これからどうするつもりだ。なぁ……」


 オレはもう、決して振り返りはしない。


「俺がいなくても世界は回る」


 お前を逃したことも、きっと意味があるはずだ。


「じゃあな」


 朝の早え王都が一日の始まり迎えちゃう前に――ちゃっちゃと玄関口までの道のり足ィ弾ませてく。


 次第に軒並み連なる都市部ならでは建造物は、人工的に灯された光の消滅に合わせ、失われてゆく。


 でも、まだ――だったな。


 捨て切れてねぇ。


 剣に次ぐ、関係の長えマントを背中から取って、掬い上げるような吹き荒れる突風に乗せ、手放した。


「今まで、ありがとう」


 それがどこへ行ってしまうかもわからないし、ずっと一方的だけど、ちゃんと堂々と別れを告げられた。


 んで、厳かで仰々しく高密度の魔力が満ち満ちた門前で松明の火の燻らすご苦労な兵士の側へおもむ()く。


「どうだ」


「っ、どうさ――――ハッ、異常ありません!」


 今は一人みたい、小休憩ってところかな。


「そう、お疲れ様」


「失礼ですが、その傷は問題無いのでしょうか?」


「これ、勇者パーティの洗礼、通過儀礼ってやつ」


「えっ、そうなんですか?」


「まあね。あっ丁度、良かった」


「何か?」


「手ェ出して」


「はい」


 子供みてえに差し出した両手に口ん中の出血と、骨付き肉ならぬ、肉の付いた奥歯が転がり落ちた。


「うっ! お怪我、本当に大丈夫ですか?」


「あぁ、心配ありがと、大丈夫」


「何があったかお聞きしても?」


 タフなメンタルを評価し、特別に答えることに。


「んーただの喧嘩かな」


 嘘偽りなく、誤魔化しは孕んで。


 それに対して建前が、本音の疑問が乗り越えて。


「奥さんいらっしゃいましたか?」


 痴話喧嘩がここまで発展するってんなら、結婚も考えものだな。


「じゃ、頑張りな」


「どこへ!?」


「歩くの」


「外に、ですか」


「そう」


「そう、ですか」


「うん」


「何故危険を顧みず、新たな道に進めるのですか?」


「犠牲を払わなくては、明日はない」


 戸惑う者を背に、オレは最後の難関を突破した。


 やっと……()()()を踏み出せた。


「っ!?」


 ふと掌を覗けば、手の震えは収まっていた。

 代わりに、一条の眩くてまっさらな光が降り注ぐ。


「……」


 ただ、前へ。


 そこに聳え立つ山岳の谷間から登り切った朝日の引き換えに、そばの湖の辺りで白鳥が飛び立って。


「ぁぁ」

豆に配る細かな知識、その1

勇者やってて辛かったのは昔――(俺が15の頃)俺に憧れて剣を振ってた少年が、いつの間にか学園卒業、彼女を連れ、気付きゃァ子宝に恵まれたこと。(26)


今も昔も俺の側にずっとあるのは、剣だけ。

物心付く前からいた、剣だけ。ピースッッ!!


そういや最近、お互いに錆びが増したような。

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