半歩の半ば 暫く、入り浸らせてもらうか。
「アウ」
運び手となる敗北の先駆者がオレの傍らに据え、
「ありがと」
淡く朱に染まった鮮やかにして甘美な果実の湖、注ぐというよりかは器丸ごと突っ込むスタイルで。
カトラリーは律を唱える思い出で両の手に渡り、晩餐のメインを中心に添え――祈りを省き、頂く。
不純の混じった雑な色の硬ってぇパンと思しきモノ。素の味を楽しもうとすりゃ奥歯も根負けの絶品。
おまけに謎にオレんだけ下働きに、
「ア゙ア〜」
まるで可愛げのねぇ物欲しそうな視線を向けられる。
仕事してよ。
しごと。
「ん? パンなんて今日のメニューにあったか?」
彩りみどりで色鮮やかな旬野菜とパンチのある塊肉の出汁と油溢れる湯気が器一杯立ち昇ってゆく。
ほのかにスパイスの色味も溶け込んでいるのに、
不思議とスープから味はしなかった。匂いもまた。
んで、スープを堪能しようと具をよけりゃ、水面に死人と見間違える面相が浮かび上がってきちゃう。
今日は、格段にひでぇ。
視線まで飢えを凌ぐという義務感から逃れると、
「あー美味かった。でも、しょっぱかったなぁ」
同じ料理のはずの別の人の器ン中は、空っぽだ。
「ココなら肉だって食えるし、疲労回復に滋養強壮の季節ならでは豊富な野菜やキノコをふんだんに。大人気料理で滅多に味わえないってのに、あの顔」
「コラっ、相手を見てから物を言いなって」
歯応えは、あるんだけどな。
「幸福知らずが」
他の雑音はまるで耳に入ってこないが、自分の愚痴ってのはどうしてこうもよく聞こえるのかしら。
ため息こぼせば、
「せっかくのーーちゃんの飯に!」
お仲間の忠告虚しく、死に急ぐ好戦的な坊やにとってのご馳走を、オレァこれ見よがしに頬張った。
「っ!?」
そのまんま気合いに乗じ、野菜くずの一片に至るまで貪り尽くし、残るは酔いに拘り抜いた酒だけ。
背景にぼんやりと漂う、他愛もない会話を肴に、訴えを諦め始めた臓器にちまちま流し込んでいく。
暫く、入り浸らせてもらうか。
「にしても仕事がねぇ。これじゃ鉱山の猛者の格が下がる」
「元々でしょ」
「なんだと!?」
「5代目様のせいで、すっかり平和になったからな。今では世界中のダンジョン開拓に伴って、ギルドやら冒険者が正式な仕事としての認定された訳だし」
「ンー誠にめでたいのぉ! 儂らの時代じゃ!」
「では今は亡き先代に酒を捧げっ、カンパーイ‼︎」
「なんでよ。ちょっとあんまり酔い過ぎないでよ、運ぶの面倒なんだから」
「いいじゃんよぉ! 平和を味おうぜェ!」
「でもさ、神様とかいう虹龍にだって裏で世界各国が牽引してちょっかい掛けてるって噂もあるのよ。もう四回もやったっていうじゃない」
「それは一部だろう」
「いいえ、4代目以降は四大国の意向で、次からは討伐には私たちにも漏れなく強制参加を命じるって」
「戦争の自称志願兵の次は、歴史の為の捨て駒か。冒険者も世知辛いねぇ、ヒック」
「世界一仲の悪い四兄弟国なんて呼ばれるのに、こういうところは息ピッタリで、イヤになっちゃう」
「まー世界なんていずれ滅ぶんだしさ、今を楽しく生きようぜ! かんっぱぁいー! おら空だぞっ。さっさと持ってこい!」
おっさん、ボロ雑巾みたいにこき使われてら。
「マモノねー。ったく、あんなのに税金取られんなら聖職者様に直接、支払いたいもんだ」
「同感」
「昨今話題沸騰中、異世界移住の最大の希望よ!」
「聖職者っつーよりも、鍵開け職人だがな」
「言えてる」
「「アーッハッハッハ!!」」
似た話題、そしてよからぬ噂を流す輩が。
「聞いたか」
「あぁ、魔導・術師方が動き始めたんだろ」
「神気取りのヤツを礎に、例の扉を開けるそうだ」
「今まで何処で何をしてるのやらと思えばもうか」
「いや、まだだ。13年なんてそう簡単に――」
偶然か、目が合った。
…………気付けば、ずぶ濡れの杯は乾いていた。
出るか。
騒々しさから一変、静寂に覆われた夜道、ふわっとする体でゆらゆらと散歩を楽しんでいたら――。
自国の民草とオレ達がほぼほぼを納めた血税で、人の叡智が灯す光を、当たり前のように浴びる、招かざる余所者の小せえ影が何食わぬ顔で唾を吐く。
5代目勇者のの像に。
それを前にして父親は糸引く醜悪な笑み浮かべ、
聖なる書物と尊ぶ女神の首飾りを踏み躙っていた。
かの、4代目から授かりし風評被害によって。
歪んでく、酔いが覚めそうだ。
まるで、重力に押し潰されたようだ。
皺寄せを面喰らちまって、胃もたれした。
ッハハ! ハは、はは。
俺はただ、通り過ぎた。
そして、不思議と立ち止まり、ソコへと一瞥。
路地裏に続く、夢現な別世界の夜の街並みに。
オレは、
未だ頭の片隅に揺蕩うなにかに、その道へ向かう爪先の行手を閉ざされて、やむなく家路を辿ってゆく。
豆知識、その1。
あの神々しい女神様の首飾りも、勇者を歴史を綴り崇め奉る聖なる書物も、昔は馬鹿みたいに売れていた。
時代の波だな。




