表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/50

■第22話 世界の終わりみたいな顔



 

 

 

突然、噛み付く勢いで身を乗り出しまくし立てられ、リョウは何も言い返す

ことが出来ずただただ目を見張っていた。

 

 

驚いていた。


まくし立てられる事もそうだが、マドカが来たことに驚いていた。

また、ここに来てくれたことに驚いていた。

 

 

『すみません・・・。』 うな垂れたリョウがぽつり、小さく謝った。

 

 

そのか細い声に、マドカが逆にひるんで言葉に詰まる。

首をもたげ肩を震わせる姿に、一瞬泣いているのではないかと思うほど。

 

 

 

 『昨日は、あの・・・ ほんと、すみませんでした・・・。』

 

 

 

リョウが、泣き出す寸前の子供のような表情を向ける。

それはあまりに弱々しくて哀しげで、なんだか見ていられない。

 

 

 

 『いや・・・ あたしもなんか、変な感じだったのは悪かった・・・。』

 

 

 

マドカもバツが悪そうに、しかし素直に謝った。

そして再びリョウへ目を向けるも、尚もその顔はひどく心許なくて。

 

 

 

 『ちょ、どうしたー・・・?


  こんなの、ただのケンカじゃん??


  そんな・・・ 世界の終わりみたいな顔しなくても・・・。』

 

 

 

しずしずとリョウの背中に手を伸ばしてゆっくり触れると、静かにトントンと

やさしいリズムで叩く。

 

 

すると、小さく小さく蚊の鳴くような声でリョウが呟いた。

 

 

 

 『もう・・・

 

  怒って・・・ 来てくれないかと、思いました・・・。』

 

 

 

呆れたように首を傾げ笑うマドカ。

 

 

 

 『ケンカしたらちゃんと謝って仲直りすんでしょー・・・


  幼稚園で習わなかったのかー・・・』

 

 

 

マドカより頭ひとつ大きいひょろ長い手足の、まるで中身は幼い子供みたいな

リョウ。


『ダイジョーブだってば、もお・・・。』 クスリと笑った。

 

 

 

マドカの手の平の熱がリョウの背中にじんわり伝わる。


それは背中からだんだんと、気が付けば胸にこみ上げる。 熱く、やわらかく。

 

 

 

 

  (ワタセさん・・・。)

 

 

 

 

すると、マドカがカバンから再びチョコの袋を取り出した。

 

 

 

 『アンタ・・・ 嫌いなのにムリして食べてたの・・・?』 

 

 

 

リョウから『要らない』 と言い切られたことですっかり自信が無くなっていた。

 

 

すると、大きく首を横に振るリョウ。 『それは嫌いじゃない・・・ です。』


『なんだよ!』 そう言うと、チョコを数個掴みリョウに突きつけた。

無言でそれを貰い、透明の包みをねじって剥がすとひと粒口に入れた。



今夜のチョコは、なんだか苦い。

 

 

 

 

 

 『サツキはさ、あんなんだから・・・ 超モテんだよ。』

 

 

急にマドカが話し出した。


その顔は何処を見るでもなく、遠く車線の先を見渡すように。

 

 

サツキと愉しそうに笑うリョウのやわらかい表情が、

どうしても頭をちらついてしまう。


だからサツキなんかやめておけと喉元まで出かかって、ぐっと飲み込む。

 

 

なんの脈絡もない突飛な発言に、リョウは首を傾げる。

 

 

 

 『まぁ・・・ そんな感じはしますよね。』

 

 

 

『うん。』

『・・・はぁ。』

 

マドカが何が言いたいのかさっぱり分からなかった。

 

 

 

すると、バイト先でのマドカの姿を思い返したリョウ。


なんとか自分を誤魔化そうとしてみるけれど、気になって仕方ないのは

止められなくて。

マドカこそどうなのか喉元まで出かかって、我慢できず訊いてしまう。

 

 

 

 『ワタセさん・・・ は・・・


  どうなんですか・・・?


  やっぱ・・・ 友達とか・・・


  男・・・友達とか、多いんですよね・・・?』

 

 

 

リョウが遠慮がちに探る。 こっそり気付かれないようマドカに向ける目線は

不安そうな色に淡く滲んで。

 

 

 

 『どうだろ? フツーじゃない?』


 『・・・普通、って?』

 

 

 

 『フツーはフツー、だよ。』


 『普通のディフィニッ・・・ 


  定義なんて、人それぞれじゃないですか・・・。』

 

 

 

 『ん・・・ まぁ、そうだね・・・。』

 

 

 

マドカがまっすぐ前を向いて静かに口を開いた。

雲の隙間から月が顔を出して、マドカの横顔を照らしなんだか眩しい。

 

 

 

 『前も言ったけどさー・・・

 

 

  取り敢えずの10人がいるくらいなら、


  大事な1人がいた方がいーと思うんだよ。


  だから、


  あたしは大事だと思える人はトコトンうざいくらい大事にするけど、


  それ以外の人には別にそんなんしないよ。

 

 

  そう考えると・・・ 別に多くはないかもね?友達・・・。』

 

 

 

 

   ”トコトンうざいくらい大事にするけど ”

 

 

 

  (僕も、その中に入れてもらってるのかな・・・。)

 

 

 

リョウが俯いた。 心臓がぎゅっと握りしめられたように歯がゆく痛む。

バカみたいだけれど気を抜いたら泣きそうで、そんな自分に他人事のように

内心呆れる。


慌ててチョコをまたひと粒、口に入れた。

やはり今夜のチョコは、やたらと苦い。苦くて、くるしい。


どんどん顔が切なげに歪んでゆく。

 

 

 

 『ちょ、ほんとどうしたのよ・・・?


  アンタ・・・ まーた、そんな顔して・・・。』

 

 

 

再びリョウの背中に触れたマドカの手のあたたかさに、早まる胸の鼓動がその

トントンと刻むやさしいリズムに溶けてゆく。

 

 

 

 『このチョコだけは、好きです・・・。』 


リョウの声は少し震えて夜空に消えた。

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ