第十三話 著者後日談
その後――
何が起こってしまったのか、何がどうなってしまったのか俺にはよくわからなかった。
黒い雲が晴れ、澱んだ空気が消え去ると同時にアンデッド達は忽然と姿を消してしまった。正気を失っていた兵士達も我を取り戻し、けど、何一つ覚えていなくて……。城内の荒れ様に驚き、呆然としていた、その様子が物凄く印象的だった。
死んだ人達全員の遺体を集めることは出来なかったけど、俺達はせめて、ジョージさんとピートさんとスコットさん、そしてセスだけは礼拝堂に運び入れた。
ジョージさんとセスは本当に死んでしまったのかわからないほど綺麗で……俺は戸惑った。半信半疑で……。けど、ピートさんとスコットさんの傷を見て、固まってしまった血をなんとか拭い落とそうと必死になったとき、初めて死んだんだって事に気が付いたんだ。
……涙が止まらなかった。
ティモも、ずっと泣いていた。けど、ブラッドは涙一つも流さなかったんだ。何かを確信しているかのように、視線が真っ直ぐだった。
……その直後だよ、死んだはずの四人が目を覚ましたんだ。
俺もティモも驚いた。本当にいきなりだったから。
体の熱も冷めかけていたのに、死んでいた人が突然苦しそうに顔を歪めたら……、……これは体験した俺達にしかわからないだろうな。この世の恐怖だよ。アンデッドよりも……恐ろしい体験だ。
俺は、ブラッドが何かをやったんだと思った。だって……すぐにセスが消えてしまったんだ。言葉をかける間もなく、ふっと……消えた。「何が起こったんだ?」って訊いたけど、ブラッドはただ、どこか遠くを見つめて小さく言った。
「……セスはフェルナゼクスに帰った。……あっちで、幸せに暮らすんだ……」
……寂しそうな顔をしていた。それ以上、何も訊けなくて……。
ジョージさん達だけではなく、死んだ兵士達も何人かは生き返ってさ、俺は不意に気付いた。もしかしたら……、これは“あいつ”の置き土産なのかも、って――。
……ヴィアイドの花は咲いたまま、今もまだ、城のあちこちに残っている。……とてもたくさん。
国王が自害し、みんなが喪に服した。
「一時期乱心を起こしたものの、最後はとてもお優しい方だった」「優しさ故、罪の意識に耐えられなかったんだろう」と、みんなが言った。
……そう、誰も城で起こったことを知らないままなんだ。ナナが城下町に逃げてみんなに助けを求めたけど、誰も相手にしてくれなかったらしい。
ナナは最後の最後まで悔しがっていた。誰にもわかってもらえなかったって。信じてもらえなかったって。
でも、ブラッドは「それでいいんだ」と言っていた。
「何も知らないことで幸せならそれでいい。……みんなが幸せなら、それでいいんだ」
そう、穏やかに言って――。
エレイン様が城に戻り、落ち着いたのはそれから一年後。ブラッドが十八歳になって、やっと継承の儀が行われた。……ベルナーガスの新しい国王が誕生した。凛々しいその姿に安心したのか、エレイン様は「疲れたから休みます」とそう言って……そのまま目を覚ますことはなかった。
みんなが悲しみに暮れた。……けど、ブラッドはとても前向きだった。誰にも涙は見せなかった。
「母さんとの思い出ってあまりなかったしな、……悲しくないんだ。……他人が死んでしまったような……、……そんな感じだよ」
そう言っていたけど、実際はわからない。国王という立場上、喪主としても、俯いていられないんだと思う。
セスが最後に言っていた、「弱い子」なんだという言葉。……あれが嘘のように、ブラッドは逞しく、とても強かった。
ブラッドよりも落ち込んでいたのはジョージさんだ。後を追ってしまうんじゃないかと、ピートさんとスコットさんが心配してずっと付きっきりしてたほど。でも、ジョージさんはそんなにヤワじゃない。……彼には役目がある。国王をお護りする、という役目が。
……なんだか、あっという間に時間が過ぎて、……どんどん過ぎて……。気が付いたら、あの時からもう二年も経過していた。
ピートさんは城を出て、迷いの森に住むホリーと結婚した。二人の間にはすぐに女の子が生まれたんだ。名前は迷うことなくクラウディアって付けた。
スコットさんは、ティモとロバートと一緒に廃墟になっていたウェルターの復興活動をしている。
ナナはベルナーガスに移住して、ブラッドの親友として、良き話し相手として彼の傍にいる。
ジョージさんは未だ一人。昇進もせず、ずっと護衛の役を続けている。
そして俺は……一人で森の中に住んでいる。
……そう、ウェルターから逃げだし、初めて彼らと出会ったあの日の、あの小屋に。
色々思い出して辛くって。なのに、なぜかどこにも行けないまま、ずっとここにいる。ナナがたまに手紙をくれて、「城の方においで」と言ってくる。それはみんな同じ。……俺がどうなるか、みんなで心配しているらしい。俺が扉を開けるんじゃないかって。
そんなことはしない。しちゃいけないってわかってるから。
そんなことしたら怒るだろうな。……そうだろ?
本当は、言いたいことがたくさんあった。「行くな」なんて無理だったのに。わかってたのに。それしか言えなかったなんて……。
……この物語を後生に残す。
もし、この物語を手にして読むことがあり、心に何か響いたなら……、それはきっと、扉をノックする音だ。開けるか開けないかはあなたの意志に任せよう。
でも、これだけは忘れないで。
人生の全てを賭けるには、扉はあまりにも軽すぎる。奥からは何が出てくるかわからないんだって事を。
けど、開けることはない。……必要ないさ。
だって、ほら、目を閉じたら聞こえてくるだろ? 「キミを見ている」って優しい声が……――




